成功のカギは、会議プロセスの可視化。AQUOSスマホの“らしさ”を導き表現した、ビジュアルファシリテーションとは

オンラインミーティングは手軽で便利な反面、互いの意見を掛け算する創発的な議論には「向かない」「盛り上がらない」と懐疑的な声も聞こえてきます。その壁を“ビジュアルファシリテーション“の力で越えたのが今回の取り組み。スマートフォン「AQUOS」の“らしさ”の定義から具体的なビジュアル制作までのプロセスについて、当事者の3人(シャープ・通信事業本部商品企画部・鎌田隆之さん、同社・通信事業本部デザインスタジオ・菊池将之さん、アマナ・丸岡和世)に聞きました。

訴求すべき機能から、ボトムアップで“らしさ”を考える

――今回の取り組みは、そもそもシャープさんからアマナにどのようなご相談があったのがきっかけだったのでしょうか?

アマナ・丸岡和世(以下、丸岡):シャープのスマートフォン「AQUOS」(以下、AQUOS)には、「AQUOS便利機能」というオリジナルの機能があり、それらをユーザーに直感的に伝えるイラストやデザイン、スマホ起動時や充電時の画面アニメーションをつくりたい、というのが最初のご相談内容でした。

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「AQUOSトリック」は、指紋センサーを長押ししてアプリを呼び出せたり、長文コンテンツを読むときに画面を自動スクロールしてくれるといった、「AQUOS」オリジナルの便利機能の総称。こちらは今回の取り組み前に使用されていたイラスト。やや説明的なイラストでユーザーのアテンションを引きにくかったことが、今回の相談のきっかけにもなったそう。


シャープ・通信事業本部商品企画部・鎌田隆之さん(以下、鎌田):アマナさんとは2019年頃からお付き合いがあり、AQUOSのロック画面のビジュアルや壁紙のデザインを手掛けてもらっていました。

今回は、AQUOSの便利機能の伝え方が話のきっかけではありながらも、我々、ひいてはAQUOSが抱えていた全体的な課題感をお伝えしながら、何をどう伝えていくべきか、ブランディングの観点から“AQUOSらしさ”を紐解きながら、伝え方を一緒に検討できないかと考えました。

――AQUOSが抱えていた課題とは?

鎌田(シャープ):スマートフォンは、同じAndroid端末の中で比較したとき、差別化しにくいプロダクトです。実際AQUOSも「高画質ディスプレイで美しい」「ハイパフォーマンスを実現した」など、ハードウェアに依存した評価で選んでいただく場合が多かった。

しかし、ほとんどが買い替え需要となった中で「次もAQUOSを…」と選んでいただくにはソフトウェア面、ユーザビリティの部分で気にいっていただく必要性を強く感じていました。

――菊池さんはUI/UXデザイナーとして、すでにそうした課題を解決するためのデザインを手掛けられていたわけですか?

シャープ・通信事業本部デザインスタジオ・菊池将之さん(以下、菊池):はい。

「なめらかハイスピード表示」や「Clip Now」、「スクロールオート」といった、AQUOSならではの機能を「AQUOS便利機能 」と名付けて提供し、ユーザビリティを磨き上げてきました。

しかし、UI/UXは磨き上げれば上げるほど、誰しもストレスなく使える、スタンダードなユーザビリティに近付きます。型にはまった使いやすさというか、ようは独自性が見えづらくなる側面がありました。

――差別化をはかるためのユーザビリティの磨き上げが、結果として独自性をあらわしづらくなっていたと。

菊池(シャープ):そのとおりです。そこでこのAQUOSならではのユーザー体験を、ビジュアル表現で伝えられないだろうかと考えました。便利なAQUOSの各機能を伝える説明画面のイラストを核にして、“AQUOSらしさ”を伝えていきたかった。

鎌田(シャープ) :そのためにも、単にイラストやデザインをお願いするだけではなく、AQUOSらしい統一感を持ったビジュアルのためのガイドラインづくりまで相談したい、とアマナさんにお願いしたんですよ。

丸岡(アマナ):今回ご相談いただいたのは、AQUOSの独自機能を起点にして、UI/UXの現場からボトムアップで「AQUOSトリック」としてつくり上げるというトライアル。我々としてもやりがいのあるプロジェクトだと感じました。

ただ最初にお話をいただいたのが2020年の終わり頃。最初は膝を突き合わせて、つくり上げていけると思っていたのですが…。

鎌田(シャープ) :その後すぐに新型コロナウイルスの感染拡大が深刻度を増し、プロジェクトスタート後は、リアルで会う機会がゼロに。すべてオンラインでプロジェクトを進めざるをえなくなったのです。

同期/非同期コミュニケーションを組み合わせ、合意形成をスムーズに

――その後、プロジェクトをどのように進めていったのでしょうか?

丸岡(アマナ):二つを同時進行でスタートさせました。

一つは伝え方の核となる部分、“AQUOSらしさ”とは何かを引き出して、コンセプトを固めること。もう一つはイラストなどのビジュアルのテイストをどのような方向性でどのように描くかの要件定義です。

――Zoomなどのオンラインミーティングで、ですよね。

丸岡(アマナ):そうです。当初予定していた対面によるヒアリングやワークショップは難しかったため、急遽ヒアリングシートを用意し、それをシャープさん社内で配布・入力してもらう形で進めました。

コンセプトを固めるにあたっては、「今のAQUOSを表すキーワードは?」「未来のAQUOSを表すキーワードは?」といった、リアルな現状となりたい姿を言葉にしてもらい、そのギャップを具体化させるスタンダードなアプローチを取りました。

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ヒアリングシートの一部。事前ヒアリングシートでキーワードを洗い出し、オンラインミーティングで集約し文脈を整理していくという流れを数回にわたって積み重ねながら、“AQUOSらしさ”を導き出すプロセスを進めた。


――実際に進めてみてどうでしたか?

丸岡(アマナ):リアルなヒアリングやワークショップは、その時間をあけて参加していただける限定された人数しか参加できません。「声を集める」といっても、どうしても分母は小さくなります。しかし、事前にヒアリングシートを用意して非同期で回答していただくスタイルにしたため、オンラインミーティングに参加していない方の意見も含めて多く集めることができたんです。

鎌田(シャープ) :そうですね。そもそもシャープのスマートフォンを手掛けるチームは、我々商品企画部は広島にいて、菊池などのデザインチームは千葉、各機能を手掛けるエンジニアはまた別の場所、と各地に散らばっています。今回の進め方は、時間や距離を超えて意見を交わせるうえ、見た目にも綺麗に整理されたわかりやすいヒアリングシートを用意していただけたので、ミーティングに参加できない人にも共有しやすい面がありました。

プロジェクトの初期段階から、技術部門などを含む合計20名の社員から「AQUOSらしさとは何か?」などの声や、ビジュアル表現への意見を集められたのは、驚きでもありましたね。

――そして、「便利で真面目で面白い」とのAQUOSらしさを言語化されました。

鎌田(シャープ) :アマナさんからは「シャープブランドは真面目なイメージですが、もう少し、何か興味をひく部分がほしいような気がします」と指摘され、「まさにそうだ!」と膝を打ったのを覚えています。菊池が先に述べたような“型にはまりがち”な面が我々にはあるんじゃないかと。

そこからインスパイアされ、真面目さを残しながらも「好奇心旺盛な、面白さを求めるシャープでありたい」と未来への思いを加えてもらったのです。

―― 一方のイラストなどのビジュアルのテイストを決めるのには、同期型のビジュアルファシリテーションが効果的だったそうですね。

丸岡(アマナ):はい。当初はこちらが用意したPDF資料を共有しながら、Zoomでミーティングを進めるスタイルでした。しかし、納期が迫っていることもあって、途中からオンラインホワイトボードサービスを使って、リアルタイムに同期しながらディスカッションするスタイルにさせてもらいました。

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ラフスケッチやレファレンス素材をオンラインホワイトボード上で共有しながら、ミーティングでの議論などプロセスをボードに集約 。


――オンラインホワイトボードは、参加者がメモや画像、動画データといったコンテンツをリアルタイムに共有し合えるのが便利ですね。

鎌田(シャープ) :丸岡さんの、ビジュアルを使ったファシリテーションが活きる仕組みだなと感じました。

大きくいうと3つ良さがあって「ディスカッションがしやすくなったこと」「進捗がクリアになったこと」「共有のハードルが下がったこと」でしたね。

他部署や上長を“巻き込みやすい”オンラインホワイトボードのつくり方

――最初の「ディスカッションのしやすさ」でいうと、何が変わりましたか?

菊池(シャープ) :例えばイラストのイメージを決める際、フリー素材から画像やイラストを持ってきて「たとえばこんな感じですか?」とボード上で共有されると、イメージがビジュアルですぐ伝わる。「いや、こんな感じです」とこちらが別の画像を貼り付けたら、修正もすぐにできますしね。言語よりもダイレクトに、解像度の高い議論ができた。

丸岡(アマナ):スマホ起動時の動画アニメーションも、菊池さんのデザインチームとボード上で「こんな感じ?」「いや、こっちかな」と互いに動画をアップし合って決めていきましたよね。

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スマホ起動時の動画アニメーション検討プロセス。上から、企画、絵コンテ、ラフ動画と、一連のプロセスが見える。


菊池(シャープ) :そうですね。リアルでそれぞれのアイデアスケッチブックを見せ合うようなスピード感で話を詰められたのは、とても刺激的でした。

事前に絞り込んだアイデアを出し合うのもいいのですが、もう少しライブ感のある幅広い着想を共有したほうが自由で、それこそ「面白い」議論ができるんだな、と実感しました。

――プロセスがビジュアルで整理されていると、議論の現在地がわかりやすいという面もありますね。

鎌田(シャープ) :いま菊池と丸岡さんが話したようなやりとり、画像の共有やメモを含めて、丸岡さんがボード上に整理してくれていました。議論や思考の流れが時系列で整理され、そのままあとから振り返られるようにしていただいた。

丸岡(アマナ):「選択した決定案」だけを残すのではなく、思考のプロセスまで振り返られるようにしました。ビジュアルの方向性も、そこに至るまでの経緯を残しておくと、途中から参加した方にも「どういうやりとりがあって、今どこまで決まっているか」が理解できます。

鎌田(シャープ) :「何がどこまで決まったの?」などと途中参加した人に説明する時間が省ける。スピード感に大きな差が出ますよね。プロセスがクリアだったからこそ、先に話したような他部署からの意見も集まりやすかったんだと思います。

菊池(シャープ) : 普段、意見をくださらない方々が自分の意見をさくっと伝えてくれたのは、とても意義がありました。

――議論に参加していないメンバーへの共有も、かなりラクですよね。

鎌田(シャープ) :そうなんです。ボードを見れば、プロセスがすべて残っている。ビジュアルで整理されているので、そのまま「美しい議事録」になります。他部署との共有や、上長への報告にもそのまま活用しました。

――縦横無尽に大勢を巻き込むポテンシャルが、ビジュアルファシリテーションにはあったようです。

鎌田(シャープ) :そうですね。結果としてスタートから3ヶ月程度とタイトなスケジュールだったのですが、期待以上のクオリティのイラスト、動画、そしてガイドラインができました。

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「スクロールオート」機能は、左から右のようなビジュアル表現に。ガイドラインでは、ビジュアルコンセプトからスタイル、カラーパレット、表現のレギュレーションなど細かく設定した。


鎌田(シャープ) :私は、最初にこの「スクロールオート」のイラストを見たときに、プロジェクトの成功を確信しました。自動的に画面をスクロールさせる機能なのですが、これを説明する一枚絵に、波打った長いスクロール画面に横たわってスマホを見る人の姿を描いてくれた。

丸岡(アマナ):ヒアリングから「もっとベネフィットを、体験価値を伝える方向に寄せていきたい」という意見が出てきて、それを表現してみました。

鎌田(シャープ) :それこそ、“AQUOSらしさ”を議論することで出てきた、“真面目だけど「面白い」”が具現化できたなと感じました。

――社内外からの反応はどうでしたか?

鎌田(シャープ) :発売時のメディアからの反応としては、かつてよりうんとソフトウェア、機能の体験価値にフォーカスして取り上げていただけました。直感的に認識しやすいイラストがあることで、メディア側も取り上げやすかったのだと思います。

また、いつも以上にSNSなどでも、発売時のAQUOSトリックへの反応が目立った印象があります。ユーザーの方々にもいつも以上に刺さったのではないかと感じましたね。

丸岡(アマナ):それはうれしいですね。AQUOSに触れる方々のイメージと今回のビジュアライズの取り組みが、ずれていなかったことの証にも感じます。

私自身は今後、どのように、どこまで今回のコンセプトや着想が波及していくのか、どんな未来を見せてくれるのか楽しみです。商品企画の現場から積み上げた“らしさ”が、プロモーション活動などにも広がりを見せるのは、少し痛快でもありますね(笑)。

鎌田(シャープ) :スマホだけでなく、他のデバイスでも同じガイドラインでいけるのか。イラストもカスタマイズが必要なのか。これからもたびたび、ご相談すると思います。



コロナ禍で進んだコミュニケーションのオンライン化。遠く離れた場所にいても、心と思考を近付けられるのが大きな価値でしょう。ビジュアルの力でその価値をよりブーストさせたのが、今回のシャープとアマナの取り組みだったのではないでしょうか。クリエイティブを呼び覚ます可能性とやりようは、まだまだたくさんありそうです。

インタビュー・文:箱田高樹
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編集:高橋沙織(amana)

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