大学運営に「デザイン思考」を取り入れる。関西学院大学のキャンパス活性化に向けた職員育成とは?

少子化による学生数の減少に加え、学びへのニーズや学生の将来設計に対する考え方が変わっていく中、大学に求められるものも変化してきています。関西学院大学は、創立150周年を迎える2039年に向けて、超長期ビジョン「Kwansei Grand Challenge 2039」を策定。その一環で学部再編が進む神戸三田キャンパス(KSC)では、学びの環境をつくる各職員が主体的に取り組みを推進できるよう、「amana Creative Camp」を導入しました。それにより、どんな変化が見られたのでしょうか? KSC事務室長の石原誠さんと、アマナのクリエイティブエバンジェリスト・児玉秀明に聞きました。

教育・研究を活性化させるためには、職員がデザイン思考をもつべき

――まずは、石原さんが当初感じていた課題感からうかがえますか?

関西学院大学・石原誠さん(以下、石原):本学は文系の大学という特色があります。私の所属する神戸三田キャンパス(以下、KSC)はもともと、総合政策学部と理工学部の2学部でしたが、2021年度から再編して理系4学部(理学部・工学部・生命環境学部・建築学部)と総合政策学部という体系に変わりました。

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石原 誠 | Makoto Ishihara
学校法人関西学院神戸三田キャンパス事務室長。1985年入職。西宮上ケ原キャンパスの勤務を経て、1995年4月から神戸三田キャンパス(KSC)に新設された総合政策学部の立ち上げに従事。途中人事部を経て、2015年4月から現職。KSC勤務は通算24年。

アマナ・児玉秀明(以下、児玉):この改革も「Kwansei Grand Challenge 2039」の取り組みの一環ですね。

関学・石原:そうです。我々事務職員にも、キャンパスの活性化に資するような働きが求められるようになりました。例えば、2025年春、KSC近くにインキュベーション施設と学生寮を合わせた複合施設がオープンする予定ですが、職員がどう関与しどんな価値をつくっていけるか、それを探ることも私の大きな課題の1つとして挙がっていました。

アマナ・児玉:これまでにない取り組みで、職員の方々も手探りでしょうね。

関学・石原:課題に対するアプローチを調べていく中で、NTTコミュニケーションズの「OPEN HUB for Smart World」で児玉さんが「Catalyst(カタリスト)」として登場している記事にたどり着いて。「前例のない課題や未知の問題に対して、最適な解決を図るために必要なのがデザイン思考である」という言葉に強く共感を覚えました。

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記事はこちら(NTTコミュニケーションズ「OPEN HUB for Smart World」より)。

関学・石原:私は、大学職員はいわゆる「事務仕事」をする「事務職」ではなく、学生を指導・サポートしたり、経営にも関与する立場にあると考えています。大学運営に教員とともに職員が積極的に関わることで、教育・研究を活性化させていく。そのためには、大学職員がデザイン思考を取り入れていくべきではないか。そう考えていたところにこの記事を見つけて、一度アマナさんの話を聞いてみようと思ったのです。

児玉さんのポートレートから受ける印象も含めて、お話してみたいと直感したところもありました。

アマナ・児玉:ご連絡をいただいてまず私が驚いたのは、石原さんの感性というか、情報感度の高さでした。当時、「OPEN HUB for Smart World」はオープンして間もないタイミングで、今でこそ200名を超えるCatalystがいますが、当時はまだかなり少ない時期です。私の記事にたどり着いたことにも驚きましたし、写真やビジュアルといった非言語情報やイメージの力を敏感に感じ取る感性をお持ちなのかなと思ったのを覚えています。

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児玉 秀明 | Hideaki Kodama
株式会社アマナ クリエイティブエバンジェリスト。マッキャン・エリクソン博報堂(現マッキャン・エリクソン)、フリーランスデザイナーを経て、1990年にアマナグループに入社。クリエイティブ・ディレクターとして長らくコーポレートブランディングや人材育成に携わる。2021年NTTコミュニケーションズ「OPEN HUB」 Catalyst就任。

――amana Creative Campは企業での導入事例は多くありますが、教育機関への導入は今回が初めてでした。このチャレンジをどう捉えていましたか?

アマナ・児玉:私は、母校の多摩美術大学で7年ほど非常勤講師を務めた経験があり、またアマナでも長らくクリエイター育成に携わってきたので、もともと教育に対する興味は強かったんです。

KSC職員の方々は、各領域を担当されるプロフェッショナルの集まりです。入学する学生を増やす施策を考える方、広報を担当される方、キャンパスの運営を担っている方。そこには大学を運営する機能が集約されています。教員の方々はアカデミックな立場で学生と向き合いますが、石原さんたちは大学の経営に関わる部分で学内のあらゆる機能を束ねている。企業でいうと「管理部門」にアプローチするイメージかなと感じ、より一層興味を持ちましたね。

関学・石原:職員は、それぞれ任された領域の仕事に真摯に取り組んでいます。一方で、領域が分かれているがゆえの非効率さも個人的には感じていて、そのあたりも正直にお話しました。

児玉さんから、「クリエイティブな発想を持つことで、改善や新しい取り組みにつながる」という意見をうかがった時、共感する部分があった反面、「業務に『創造性』を取り入れていくのはまだハードルが高い。もう少し先のことではないか」と感じたりもしていたんです。そこで、まずはクリエイティブな仕事の進め方がどのようなものかを職員自身が知ることによって、今の業務の進め方との間にあるギャップをどのように埋めていけばいいかを考える機会になればと考えました。

アマナ・児玉:新たな考え方やフレームワークを単純にプラスオンするのではなく、まずは現状を把握し、そこにどう組み込んでいくかを地に足をつけて考えるのは大事ですね。

関学・石原:amana Creative Campに参加することで、職員が自分たちの仕事に対してワクワクできるようになる。研修の題材として、そのような方向に導いていただけたら成功だなと感じました。

日々の業務に追われる職員たちに、どうアプローチするか

―― 一方で、他の職員の方々はどのように感じていたのでしょうか?

関学・石原:業務効率化の必要性は認識しているものの、日々の仕事に追われて、「業務にクリエイティブな発想を取り入れる」と言っても、最初は正直ピンと来ていなかったかもしれません。

アマナ・児玉:「クリエイティブ」とか「デザイン」というと、どうも多くの人にとって専門的でハードルが高いものというイメージがあるようです。

でも、少し言葉を変えて「顧客志向」「顧客中心」と伝えると、どの企業でも当たり前のこととして取り組んでいるので、途端に身近なものになる。私は今回のamana Creative Campを通して、まずは関西学院大学の職員の方々に、「クリエイティブやデザインというものは特殊なことではない」ということに気づいてもらえたらと思いました。

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KSCにて実施されたワークショップの様子。今回のamana Creative Campは2日間にわたって実施され、DAY1では「なぜ今、社会にクリエイティビティが求められるのか」をテーマにオンラインにてレクチャー。DAY2は、KSCにて対面で実施され、KSC活性化のためのアイディエーションをメインにワークショップが行われた。

関学・石原:DAY1のレクチャーの中で、「クリエイティビティとは人々の中にあり、常識にとらわれることなく、自分の気持ちに素直に向き合えば、自然と創造的になれる」という言葉を児玉さんから紹介してもらいました。これは、デンマークのビジネスデザインスクール・KAOSPILOTの学長の言葉だそうですが、聞いた時、「ああ、私が求めていたのはこれだ」と感じました。

先程、児玉さんがおっしゃったように、「クリエイティビティ」と言われると、なんだかハードルが高く、自分たちには関係ない、そんな力はないと感じがちです。私自身がそうでしたし、職員の多くもそう感じていたようでした。でも、その誤解をワークの冒頭で解いていただき、参加者も安心感を持ってワークに取り組めたのではないかと思います。

接点のなかった職員同士が、同じ目標に向かうことで生まれる気づき

――DAY2のワークショップは対面で行われましたが、特に印象的だったシーンはありますか?

関学・石原:実はこれまで、担当ごとの職場研修は何度も実施しましたが、すべての職員が集まって同じ研修を受けるのは初めての経験でした。私自身それがすごく新鮮でしたし、職員もそれを楽しんでいるように見受けられました。

アマナ・児玉:同じ職場にいても、担当業務が違うと、どんなことを考えながら仕事をしているかが案外見えないものです。普段なかなか接点のなかった職員同士が同じ目標に向かって意見を出し合うのは、貴重な経験になったでしょうね。

ディスカッションの中で「これがクリエイティビティなのか」「こう考えるのがデザイン思考か」ということが体験としてわかってくることによって、腑に落ちてくる。私も一緒にワークに参加しながら、そう感じました。

関学・石原:いくつかのチームに分かれてディスカッションを進める中、あるチームではディスカッションの最中に職員の声がだんだん大きくなって積極的に発言しているのを感じたり、別のチームでは笑い声が絶えなかったり。そういう雰囲気を作り上げていただいたことはとてもよかったですね。

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職員自ら課題を見つけ、解決する機運が生まれてくることに期待

―― 実施から数カ月が経ちましたが、石原さんからご覧になって、職員の方々に変化を感じることはありますか?

関学・石原:実は、実施から2カ月ほど後に事務室のロケーション変更があり、これまでバラバラの場所にいた職員が同じ場所で仕事をするようになりました。異なる部署の担当者同士が、集まってコミュニケーションしているシーンを目にする機会が増えています。これは単に物理的に近くなったからというだけではなく、ワークショップを通して職員が一堂に会し、「自分たちはキャンパスの活性化に向けて何ができるのか、どういう価値をつくれるのか」について、フラットに意見を交わす場を持てたことが影響していると感じています。

アマナ・児玉:ワークショップでは、各チームに私もファシリテーターとして参加しました。事前に、「チーム編成はあえて異なる部署の人たち同士で組んでほしい」と私から石原さんにお願いしていましたが、これまでなかなか接点がなかった人たちが一つの課題に向き合ったことで、今までとは違うコミュニケーションが取れているのではないでしょうか。そして、これは新しいロケーションに集結するための助走にもなったのでしょうね。

関学・石原:そう思います。今回のamana Creative Campを通して得られた各チームのアイデアを今後に生かしていくためにも、まずは冊子やデータにまとめて職員同士で共有できる形にしておきたいと考えています。ワークで思考したプロセスを思い出すことによって、職員の意識が変わっていくこともあると思いますから。

アマナ・児玉:他の人がどんなことを考えているかがわかることで、クリエイティブ思考の裾野が広がっていくでしょうね。

関学・石原:はい。そして、管理職からの号令で物事を進めていくのではなく、現場の職員自ら課題を見つけて「こうやって解決していこう」という機運が生まれてくることに期待しています。それが将来的なKSCの活性化につながるのではないかと思っています。

アマナ・児玉:今回の取り組みが、KSCを変えていこうという自発的な動きにつながるきっかけになってくれたら、我々としても嬉しいですね。今回は石原さんがリーダーシップを取ってスタートしましたが、一人ひとりの職員が何かを変えるために発想することが理想的な姿ですから。石原さんのお話から、その芽は確実に芽生えてきていると感じます。

文:高橋満(ブリッジマン)
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編集:高橋沙織(amana)

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複雑で先行きの見えない世界においては、 人本来の持つ創造性を解き放ち、主体性を持ち躍動できる人材が求められます。amana Creative Campでは、 再現性を持ったクリエイティブナレッジを提供することで、個の創造性を高めると共に、企業の競争力を高める文化創りへと導きます。

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