ブロードウェイ here and now
アナと雪の女王 / Frozen

ブロードウェイ here and now アナと雪の女王 / Frozen

アンデルセンの童話を下敷きにしたディズニーの映画『アナと雪の女王』の本格的な舞台化は、カリフォルニアのディズニーのテーマパークやクルーズラインの船内劇場向けに先行されていたが、今回はブロードウェイとあって大きな期待が寄せられた。

前売りチケットに至っては、週末などの需要の高い公演でプレミアムがつき、一枚9400ドルで取引される異例事態となった。今回の舞台版では、大ヒット曲「レット・イット・ゴー / ありのままで」を筆頭とした映画でお馴染みミュージカルナンバーに、氷の魔法をコントロールできずに悩むエルサのソロや悪役ハンスの楽曲など、およそ10曲が新たに追加されている。

演出を手掛けたのはイギリス人のマイケル・グランデージ。ご存知のように北欧にある架空の王国を舞台に、手に触れたものを凍らせる力を持つ王女の姉エルサと、楽観的な性格の妹アナという対照的な主人公2人の絆、別れ、そして対立などの関係を軸に描かれている。舞台版の物語は原作映画とほぼ同じで、氷の怪物マシュマロウがカットされているが、主要なキャラクターは全て登場する。主人公たちを手助けするトロールたちは、舞台版では石の生物ではなく、アイスランドに伝わる妖精(Huldufólk)をモデルにした尻尾のはえたエルフに変わっている。

エルサのソロ「レット・イット・ゴー / ありのままで」が、第一幕の最後を飾る。サビのところで、長袖で首回りもタイトな紺色の重厚な服に身を纏うエルサの手袋とケープが飛び去り、一瞬にして銀色のドレスへの衣装に変わり、氷の魔法が役者の動きと連動した映像により再現されるところは、観客から歓声が沸き起こる。

ディズニーの人気作品の舞台化とあって製作費は3千万~5千万ドルと言われるほど莫大だ。舞台装置の規模も半端ではなく、上演されているセント・ジェームズ劇場のステージはスペースを拡張するため、建物の壁の工事まで行った。舞台装置の多くはCG映像に頼っているが、オーロラを映し出す緞帳や北欧風の背景などは美しいし、クリスタルの装飾品で有名なスワロフスキ製の衣装も装置も煌びやかで豪華だ。 40人の出演者に対して64枚ものかつらを使用しているという。

クライマックス寸前に、悪役ハンス王子が振り下ろす剣から姉エルサを守るため、自らからその剣の前に飛び込むアナ。その背中に寄りかかるようにして列を成すアンサンブルは皆凍ってしまうのだが、彼らが身にまとった白い衣装に、プロジェクション・マッピングによって氷の結晶が映し出され、音響効果に合わせて徐々に連鎖して広がっていくその迫力に拍手が起こる。

人間以外のキャラクターでは、マイケル・カリーが手掛けたパペットが重要な役割を果たしている。魔法によって命が宿った雪だるまのオラフは、等身大半分の高さのパペットの背後に役者がついて操る、『ライオンキング』のティモンのような手法となっている(同じデザイナー)。トナカイのスヴェンは、その大きさから、二人で前足と後足をそれぞれ操っているのだと思いきや、一人が両手両足に義足のような蹄を装着し四つん這いになりながら、動物らしい豊かな動きや表現をすべて担っていると聞いて驚いた。

主人公のエルサやアナの衣装も基本的なデザインや色使いは映画のままだが、アナ雪のファンの中には「楽しかったが、アナとエルサのイメージが随分違った」という意見も多い。アナはプリンセスというよりは素振りや喋り方が平民のようで、腕も太くガッチリとしたポッチャリ体型。城内で育ったプリンセスにしては、戴冠式の際に城を訪れてくる民以上に農民の様な雰囲気だ。エルサ(キャシー・レヴィー)は、第2幕では美しい銀のロングスカートではなく、何故か銀色のパンツで出てくるのだが、姿勢がイマイチでパンツ姿が似合わない。階級や男女の差をなくそうという想いがプロデューサー側にあったのかもしれないが、女の子というものは理屈抜きに純粋に美しいプリンセスに憧れているものだ。

カーテンコールでは客席に大量の紙ふぶきの雪が降る。正方形の5ミリと1センチなどに切り分けられたものが、キャノン砲のように一気にではなく一定のリズムでシンシンと降る。そして上から降るのではなく、両サイドから風に吹かれて舞い上がって降ってくる。大人でも、この雪の舞い上がる光景に心が踊るだろう。 

このブロードウェイの『アナと雪の女王』は、CGを使った見事な特殊効果と美しい舞台セットで、ディズニーらしく見せ場も提供され、シンプルではあるが笑と涙も揃っており、ティーンエイジャー用の作品として、かなりレベルが高いと言える。

開演前後、ロビーにはプリンセスの衣装を着て、母親に連れられて観に来ている小さい少女の姿があちらこちらに見られた。上演時間は映画の109分とあまり大差はないものの、映画のようなカット割りやアングルの変化のない生の舞台では、幼い子供達の集中力が持たないのかもしれない。上演中、途中で駄々をこねたりしている声も聞こえた。性的な大人向けのジョークも多少含まれているし、券面額で購入しても安くないブロードウェイのチケットなので、8歳位以下の子供には向かない作品かもしれない。代わりと言ってはなんだが、アイススケートショー「ディズニー・オン・アイス」でも『アナ雪』は短編としてではなく長編として制作されていて、こちらはかなり小さい子供も楽しめると聞いている。 

文/井村まどか
photo by Deen van Meer


Al Hirschfeld Theatre

302 W 45th St
New York, NY 10036
上演時間:2時間20分(15分の休憩)

Al Hirschfeld Theatre

SCORES

Wall Street Journal 7
NY Times 5
Variety 5

舞台セット 10
作詞作曲 8
振付 7
衣装 7
照明 8
総合 8

井村 まどか

ニューヨークを拠点に、ブログ「ブロードウェイ交差点」を書く。NHK コスモメディア社のエグゼクティブ・プロデューサーで、アメリカの「ドラマ・デスク賞」の審査・選考委員も務める。 協力:柏村洋平 / 影山雄成(トニー賞授賞式の日本の放送で、解説者として出演する演劇ジャーナリスト)

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