#17 いやな感じのイケメンたち-向井理と東出昌大

#17 いやな感じのイケメンたち-向井理と東出昌大

向井理と東出昌大が、それぞれ話題の舞台で、いやな感じが見え隠れする複雑なキャラクターを好演している。向井は赤堀雅秋、東出は岩松了という、一癖も二癖もある優れた劇作家・演出家との出会いで、ポテンシャルを引き出されたようだ。

『美しく青く』(作・演出/赤堀雅秋)は、震災後をイメージさせる山と海に囲まれた町が舞台。 田畑を荒らし、人にも危害を加え始めた野生の猿に、自警団を結成して立ち向かおうとするそのリーダー保(向井理)と、家族や周囲の人々の、停滞した日々を描く群像劇だ。

保は見た目爽やかで、徘徊する義母(銀粉蝶)にも、それに手を焼きいつも気が立っている妻(田中麗奈)にも穏やかに接する一方、自警団の活動においては、猿を追い払うよりも射殺しようとし、猿害減少のためと、性急に民家の豊かな柿の木の伐採を要請する。柿の木の持ち主である老人(平田満)は、そんな正義漢面した青年の短絡と無知に、怒りを露わにするが、保はまったく悪びれない。

『美しく青く』Bunkamuraシアターコクーン公演より。自警団のリーダーとして猿の駆除に躍起になる保(向井理)と同級生のメンバー勝(大東駿介) 撮影:細野晋司
『美しく青く』Bunkamuraシアターコクーン公演より。自警団のリーダーとして猿の駆除に躍起になる保(向井理)と同級生のメンバー勝(大東駿介) 撮影:細野晋司

よき家庭人のように家族に対してふるまうが、実のところ思いやりに欠け、わかりやすい眼前の敵に対しては、過剰なまでの憎悪を剥き出しにする。やな感じにリアルを極める赤堀雅秋の視線が、向井理という、無条件に「善」を感じさせる風貌を持つ俳優を得ることで、より複雑さと生々しさを増していて戦慄を覚えた。今回は「震災」が背景にあることで、さらにその闇が深いことを示唆している点も興味深い。

『二度目の夏』(作・演出/岩松了)は、親から会社を引き継ぎ、結婚して二度目の夏を妻や使用人たちと別荘で過ごす、裕福を絵に描いたような慎一郎(東出昌大)と、彼を巡る人々との関係を微細に描く、こちらも優れた群像劇。

慎一郎は、後輩で親友の北島(仲野太賀)を別荘に滞在させており、落合(片桐はいり)ら使用人たちは、北島と慎一郎の妻いずみ(水上京香)の仲を危ぶんでいる。が、慎一郎は、まったくそれを意に介さない。そのせいなのか、周囲の心配と好奇の目はますます強まり、いずみと北島は、かえって追い詰められるように接近してゆく……。

『二度目の夏』本多劇場公演より。親友の北島(仲野太賀)と妻いずみ(水上京香)の仲を断じて疑わないという慎一郎(東出昌大)の真意は……。 撮影:宮川舞子
『二度目の夏』本多劇場公演より。親友の北島(仲野太賀)と妻いずみ(水上京香)の仲を断じて疑わないという慎一郎(東出昌大)の真意は……。 撮影:宮川舞子

慎一郎は、妻と親友の仲について、嫉妬はおろか疑いも一切見せず「私は信じている、大好きな二人のことを」とぬけぬけと言って憚らない。そのくせ、妻から面と向かって「愛されたい」と訴えられると話を逸らし、親友には、さりげなく亡父の愛人の話を聞かせたりする。屈託の無いお坊ちゃま然とした笑顔を保ちながら、二人に真綿で首を絞めるような打撃を与えていくのだ。

意図的に責めているのか、無意識の行為なのかは判然としない。岩松了ならではのシニカルな視線と婉曲話法が、東出の、お人好しそうで、何を考えているかわからないようにも見える雰囲気で強化され、非常に謎めいた怖い人物が現前している。

眼福な八頭身の青年たちが内包するネガティブな情動は、よりタチが悪く、蠱惑的だ。

公演情報
『美しく青く』

会場:Bunkamuraシアターコクーン
日程:2019年7月11日(木)~7月28日(日)
作・演出:赤堀雅秋
出演:向井 理、田中麗奈、大倉孝二、大東駿介、横山由依、駒木根隆介、森 優作、福田転球、赤堀雅秋、銀粉蝶/秋山菜津子、平田 満
問い合わせ:Bunkamura 03-3477-3244(10:00~19:00)
https://www.bunkamura.co.jp/cocoon/lineup/19_utsukushikuaoku/

大阪公演
会場:森ノ宮ピロティホール
日程:2019年8月1日(木)~8月3日(土)
大阪公演に関する問い合わせ:キョードーインフォメーション 0570-200-888(10:00~18:00)

M&Oplaysプロデュース『二度目の夏』

日程・会場:7月20日(土)~8月12日(月・休) 東京・下北沢 本多劇場
8月17日(土)~8月18日(日) 福岡・久留米シティプラザ ザ・グランドホール
8月20日(火) 広島・JMSアステールプラザ 大ホール
8月22日(日木) 静岡市民文化会館 中ホール
8月24日(土)~8月25日(日) 大阪・梅田芸術劇場シアター・ドラマシティ
8月27日(火)~8月28日(水) 愛知・日本特殊陶業市民会館ビレッジホール
9月1日(日) 神奈川・湘南台文化センター市民シアター

作・演出:岩松了
出演:東出昌大、仲野太賀、水上京香、清水葉月、菅原永二、岩松了、片桐はいり

問い合わせ:M&Oplays 03-6427-9486(平日11:00~18:00)
http://mo-plays.com/secondsummer/

PROFILE

伊達なつめ

伊達なつめ

Natsume Date 演劇ジャーナリスト。演劇、ダンス、ミュージカル、古典芸能など、国内外のあらゆるパフォーミングアーツを取材し、『InRed』『CREA』などの一般誌や、『TJAPAN』などのwebメディアに寄稿。東京芸術劇場企画運営委員、文化庁芸術祭審査委員(2017、2018)など歴任。“The Japan Times”に英訳掲載された寄稿記事の日本語オリジナル原稿はこちら

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