コンドルズ ・近藤良平のダンスの原点とは?

コンドルズ ・近藤良平のダンスの原点とは?

優れた身体能力を持つプロのダンサーから、ふつうの会社員風の中年男性まで。年齢も経歴も身長も体重も多種多様な男性たちが、ダンスだけでなく、ベタなコントや人形劇まで、おもしろそうなことを次から次に繰り出して、最後はなぜか全員学ランの群舞で極(き)める。
ユニークなダンスカンパニー・コンドルズは、先鋭なコンテンポラリーダンスのイメージを、親しみやすいものに変えてくれた功労者だ。そのベースには、主宰者・近藤良平のダンス原体験が、色濃く反映しているはず。コンドルズ以外にも、振付家としてプロアマ問わず、あらゆる身体条件の人たちを踊らせてしまう踊らせ名人は、どのようにダンスと向き合ってきたのだろう。

「踊り始めたのは、大学の頃からです。今は50歳を過ぎてるので、“もう30年ぐらい踊っています”って言えるけど、その間、毎日踊り続けて磨きをかける修行みたいなことをしてきたわけじゃないですからね。かいつまんでるだけだから、つまみ食いの30年(笑)」

大学時代というと’80年代後半から’90年代にかけて。

「ちょうどオルタナティブとか第三世界というのが流行った時代。子どものころ南米に住んでいたこともあって、大学の前半は、民族音楽を演奏したり、アフリカから日本にやって来て歌ったり踊ったりするアーティストのお手伝いをしたりして、わいわいやってたんです。

ダンスについては、中学生の時にマイケル・ジャクソンを見たり、 高校の時に映画『愛と喝采の日々』でジョルジュ・ドンを見たりはしたけど、ブレイクダンスは、まだやんちゃな感じのストリートのものだったし、ダンスというと、おニャン子クラブが踊ってるようなもののイメージしかなかったなあ。だから自分のやってることが(多様なものが可能な)コンテンポラリーダンスという意識もなかったし、知らないことばかりで“ダンス”というくくり方自体が、とても新鮮だったんですよね」

近藤が影響を受けた指導者は…?

ということで、大学の後半はダンス部に所属。指導者や影響を受けたダンサーについて聞いてみたくなったのだけど、返ってきた名前は「コンラート・ローレンツ」や「カバ園長」「植村直己」…。

コンドルズ ・近藤良平のダンスの原点とは?

「コンラート・ローレンツは動物行動学の権威で、ノーベル賞も受賞してる人。あとは上野動物園の初代古賀(忠道)園長とか、東武動物公園のカバ園長(西山登志雄)とかね。そう、“園長”になりたかったんですよ。それと、冒険物ね。植村直己とか大好きで、冒険そのものも楽しいんだけど、どちらかというと、たとえば星を見て方角を確かめたり、裸一貫で身体の感覚を研ぎ澄ませて危険を察知したりするのに憧れて、自分の身体の触覚を鍛えて、素早く反応できるようになるには、ダンスをするといいんじゃないかと思って、踊ってたんです。人に見せることには、ぜんぜん興味なかった」

動物行動学が出てきた時点では、「昆虫が師」と言って憚らない中国少数民族出身の神秘の舞姫ヤン・リーピンと共通するかもと思ったけれど、近藤の場合は動物の動きを取り入れるというよりは、その反射神経や瞬発力といった、優れた動物の能力そのものへの関心。言われてみれば、彼の踊る姿には、ピューマとかチーターといった、ワイルドかつ、俊敏でしなやかな獣を彷彿させるところがあると思い当たる。


ダンスを振り付けるということ

そんな唯一無二のカッコよさと並んで、近藤良平およびコンドルズを特徴付けているのが、思わずホッコリしたり、噴き出したり、きょとんとしたりしてしまう振付の脱力系ダンス。卑近なところでは、NHK大河ドラマ『いだてん』で、天狗倶楽部(T.N.G)というムサい男たちがT・N・Gの人文字を作りながら踊るすっとぼけ度マックスの振りも、近藤によるものだ(共同振付:木下菜津子)。天狗倶楽部は実在したサークルだそうだけど、なんだか超個性派男性集団のコンドルズと重ならないこともない。

コンドルズ ・近藤良平のダンスの原点とは?
インタビューのあと踊ってくれたダンスは、SHORT MOVIEで見られます!

「チャップリンやキートン、あとはやっぱり子どものころのドリフの世界ですよね。当時は漫才ブームもあったけど、わが家は親父に漫才は見ちゃダメと言われてたんですよ(笑)。そうでなくても漫才は言葉のやりとりが中心なので、もうひとつおもしろさがつかめなかったけど、いかりや長介や志村けんは身体を張っているので、ものすごくおもしろく感じられた。それが現在の自分のダンスの要素と、非常に密接につながっている気がします。おもしろいだけでなく、おもしろがってものを生み出そうとしている感じが、伝わってきたのが大きいですね。

振付については…、ちょっと待ってね、何に例えればわかりやすいかな…。例えば美味しいものを食べて美味しいと思った時の表情とか動きは、教わらなくても、自然とそう見える動きになってるじゃないですか。振付は、本人には自覚がない”そう見える動き”を、外から指摘することができるものなんだよね。その作業が、けっこうおもしろいかな。本人に振りを渡すと、その人が新しい動きを獲得する瞬間というのがあって、そこに立ち会うのが楽しい。

僕はナチュラリストではないので、その人が自然でいられる振付をするとは限らないですよ。たとえば、超真面目な人で、“そんな動きは絶対したくないです!”と拒否するような人にでも、その動きをやってもらうことはある。そんなことしたら、その人にとってはショックだよね。初めての海外旅行みたいに戸惑うよね。で、その様子が見ていておもしろかったりする。そういう意味で、興味は尽きないですね」

コンドルズ ・近藤良平のダンスの原点とは?

それはまさしく、コンドルズの原点というもの。体型も性格も千差万別なメンバーが、さまざまな状況と対峙する姿を、私たちも動物行動学的に(?)観ているのかもしれない。そしてコンドルズから波及して近藤には、プロアマ年齢問わず、ソロから大集団まで、全国津々浦々からオファーが殺到するようになった。

「最初に“かいつまんでる”と言いましたけど、それは僕自身がそういう興味の持ち方をするから、かもしれないですね。たとえば、天体に関する仕事をしている人から話が来たら、天体には特に興味は無いけど、引き受けますよ。そこから何かがつながる可能性があるという発想が、今はできるようになっているから。年齢が高いとか、まだ小さいとか、そういうことも一切関係ない。どんなに限られた動きしかできないとしても、そこに必ず発見はありますからね。

コンドルズについても、“正しいコンドルズのあり方はこれだ”とは決めていないですね。メンバーはみんな飛び出し気味で、違う状態でしかいられないけど、まわりの人たちが“それでいいんじゃない?”と言ってくれたことで、現在まで続いてきたような気がする。まあ僕たち、イチローみたいに、かっこよく辞めるタイミングがないんですよね(笑)。

コンドルズ ・近藤良平のダンスの原点とは?

彩の国さいたま芸術劇場では、10年以上やらせてもらっているので、なんだか同じホテルに毎年泊まりにくるみたいな感覚。ここ、フットサルのコートより広いんですよ。なのに、後ろの方の客席でもあんまり遠い感じがしない。大きいのに親しみが持てる劇場です。どこに何があるかも全部わかっているので、具材は豊富だし、調理器具もいっぱいあるという感じ。ただ、よくわかってはいるけど、舞台は前後左右だけじゃなくて、天地の使い方が、いちばん難しいので、そこをどうするかを、いろいろ考えているところです。何をやるかは、構想はあるけど、今しゃべってもボツる可能性もありますからね。まあ楽しみにしていてください」

取材・文/伊達なつめ
撮影/田里弐裸衣プロフィール

プロフィール

近藤良平

コンドルズ主宰・振付家・ダンサー
ペルー、チリ、アルゼンチン育ち。NHK教育『からだであそぼ』内「こんどうさんちのたいそう」、NHK総合『サラリーマンNEO』内「テレビサラリーマン体操」などで振付出演。野田秀樹演出、NODA・ MAPの四人芝居『THE BEE』で鮮烈役者デビュー。NHK連続TV小説『てっぱん』オープニング、三池崇史監督映画『ヤッターマン』などの振付も担当。2019年NHK大河ドラマ『いだてん』ダンス指導。立教大学などで非常勤講師を務める。第四回朝日舞台芸術賞寺山修司賞、第67回芸術選奨文部科学大臣賞、第67回横浜文化賞受賞。

公演情報

コンドルズ 埼玉公演2019新作 『Like a Virgin』

日時:2019年5月11日(土)14:00/19:00開演
5月12日(日)15:00開演

会場 : 彩の国さいたま芸術劇場 大ホール

さいたま市中央区上峰3-15-1
048-858-5500
(休館日を除く9:00~19:00)

構成・映像・振付:近藤良平

出演:コンドルズ

公式サイト:https://www.saf.or.jp/arthall/stages/detail/6372

コンドルズ 埼玉公演公式インスタグラム:https://www.instagram.com/saitama_condors_official/

PROFILE

伊達なつめ

伊達なつめ

Natsume Date 演劇ジャーナリスト。演劇、ダンス、ミュージカル、古典芸能など、国内外のあらゆるパフォーミングアーツを取材し、『InRed』『CREA』などの一般誌や、『TJAPAN』などのwebメディアに寄稿。東京芸術劇場企画運営委員、文化庁芸術祭審査委員(2017、2018)など歴任。“The Japan Times”に英訳掲載された寄稿記事の日本語オリジナル原稿はこちら

MEDIA

otocoto