2019年11月から今年にかけて、東京に新しい劇場が次々と誕生しています。しかも街の風景を変えるほどの存在感を放つ、中・大規模の劇場が目立つのです。 新しい劇場は街と、そこを行き交う人々との間に、刺激的で良好な関係を築けるでしょうか。
オリンピック・パラリンピック開催を間近に控え、東京の風景は、ますますめまぐるしく変わっている。3週間ほど前に、なじみの池袋駅西口周辺を歩いていたら、遠くの方に見慣れない大型のLEDビジョンがあるのが目に入った。オーケストラの演奏が映し出されているので、何かのニュース映像かと思ったら、大画面の真下のステージで、フルオーケストラによるクラシック音楽のライブ・コンサートが行われていた。
東京芸術劇場前の西口公園広場には、以前も野外ステージがあったけれど、すっかり改修されて見違えるように立派な舞台と音響・照明等各種設備が整い、上空には客席をグルリと囲む、照明機材やデジタルコンテンツを仕込んだリングがあって、この空間全体の名称でもある「グローバルリング」を体現している(正式名称は、池袋西口公園野外劇場)。
昨年11月23日のこけら落とし公演『マハーバーラタ ~ナラ王の冒険~ ―東アジア文化都市 2019 豊島バージョン』(宮城聰演出、SPAC出演)は大雨に見舞われ、以後冬の間は防寒対策必至なのが、オープンエアのさだめ。夏には酷暑のなか、オリンピック・パラリンピックのパブリック・ビューイングでにぎわう様子が目に浮かぶ。ヴィヴィッドに気候変動を体感せざるを得ない、アクチュアルな劇場(?)といえそうだ。たぶん天候穏やかな秋には、東京芸術祭で、刺激的なプロジェクトをじっくり堪能できそうなのが楽しみ。ちなみに、ここは豊島区の施設なので、プロでもアマでも、条件が整えば使用可能。池袋駅前でものすごく人通りの多い場所なので、アピール効果は大きいのではなかろうか。
同じ池袋駅の反対側、東口からほど近いところにあった旧豊島区役所と豊島公会堂跡には、ハレザ池袋という3つのビルと公園からなる複合施設が誕生した。2019年11月に、内外のミュージカルや宝塚歌劇などをラインアップに掲げた東京建物 Brillia HALL(豊島区立芸術文化劇場)が入る中央のビルと、その右隣のとしま区民センターが入るビルが開業。今年7月に3つ目のビル、TOHOシネマズが入る高層オフィス棟がオープンする。
以前あった区役所や公会堂は、レトロ感さえ漂う老朽ぶりだったので、明治通りの奥に広がる新しい3つのビル一帯は、まるで別世界のように感じられる。そんななか、東京建物ブリリア ホールのこけら落としシリーズとして上演されたコンドルズ公演「コンドルズ×豊島区民 Bridges to Babylon」は、オープニングとラストに公募参加の豊島区民が出演。総勢約180名の老若男女が揃った姿は、ほほえましくも壮観で、客席にも参加者の家族や友人と思しき観客が詰めかけていたようで、スタイリッシュな外観とは裏腹の、オープンで庶民的な雰囲気に、ちょっとほっこりした。
今後は宝塚歌劇や、渡辺直美主演で日本キャスト版が初演される『ヘアスプレー』など注目のミュージカル公演、そしてロベール・ルパージュが演出を手がけることで話題の鼓童公演『NOVA』も、この劇場で上演される。華やかな大劇場エンターテインメントと、アニメやコスプレ・ファンの聖地でもある池袋東口エリアで、どんな人の流れが築かれていくのか、かなり興味深いものがある。
劇団四季は、JR東日本グループによる竹芝エリアの再開発計画「WATERS takeshiba(ウォーターズ竹芝)」の一翼を担う。浜松町駅から徒歩7分ほどの、かつて四季の[春][秋]劇場があった場所を含むウォーターフロント・エリアに、ラグジュアリーホテルや商業施設からなる、新たなビジネス街が建設され、その一廓に、1998年から2017年まで稼働していた[春][秋]2つの劇場を、「JR東日本四季劇場[春][秋]」として、新たに建築する形で開場させるというものだ(隣接する自由劇場は、場所も建物もこれまで通り)。
昨年9月に参加した工事現場見学ツアーでは、ホテルが入るタワー棟の16階から浜離宮を見下ろし、シアター棟では、完全に骨組みと足場のみの劇場の姿を目にして、規模を体感。ひたすら想像力をを膨らませた。※下の動画は建築中の四季劇場[春]。最初と最後に映っているのが舞台面になるところ。
この四季劇場[春]のこけら落とし公演として今年9月10日に開幕するのは、ディズニーミュージカル『アナと雪の女王』。日本では2014年に公開された同名アニメーション映画の舞台化で、ブロードウェイで2018年に初演されたプロダクションを、劇団四季のキャストにより日本語で本邦初演する。
映画版では『アナと雪の女王2』も昨年11月末の公開以来大ヒットしており、継続する「アナ雪」旋風の勢いから察しても、舞台版の盛り上がりは想像に難くないところ。いままではちょっと殺風景だった劇場周辺も、おしゃれなエリアになって、観劇の楽しみが増幅しそうだ。ちなみに、工事現場見学を終えてポツンと地上の同位置に立った際は、あまりにも周囲の風景が今までと異なっていて、どちらが浜松町駅方面かまったくわからずプチ・パニックになった。
このほか3月には、パルコ劇場も約3年半ぶりに新築開場する予定で、オープン記念の豪華ラインアップが注目を集めている。
池袋も竹芝も、ある程度大規模なまちづくりレベルの地域開発の中で、劇場が重要な役割や期待を担わされている点で共通している。景気がいいわけでもないのに、次々と新劇場ができることに、不安を覚えないわけではないけれど、劇場が人々にとって身近な場所になるチャンスを、ここで逃してはならない。劇場関係者の端くれとして、今年はしっかりこのことを肝に銘じ、一層舞台芸術の普及に努めたいと思う。
伊達なつめ
伊達なつめ
Natsume Date 演劇ジャーナリスト。演劇、ダンス、ミュージカル、古典芸能など、国内外のあらゆるパフォーミングアーツを取材し、『InRed』『CREA』などの一般誌や、『TJAPAN』などのwebメディアに寄稿。東京芸術劇場企画運営委員、文化庁芸術祭審査委員(2017、2018)など歴任。“The Japan Times”に英訳掲載された寄稿記事の日本語オリジナル原稿はこちら
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