日本の劇場は、圧倒的に女性客に支えられているけれど、英国は、金融街シティに勤める男性ビジネスマンも、ふつうに話題の演劇を観に行くらしい。日本の劇場だって、男性のハートにグサッとくる作品を上演しているんだけどなあ……。
岡田将生主演の『ハムレット』演出のため来日中のサイモン・ゴドウィンは、いま英国演劇界で、もっとも注目されている演出家のひとり。
2歳になる双子の娘さんとパートナーとともに来日し、稽古のためのひと月半の東京生活をスタートさせた直後に取材した。「6月に結婚するんです。順番逆なんだけどね、双子が先に出てきちゃったもんで」 とニコニコしながら、元気な2人の2歳児に振り回される日々を語る様子に、父親としてしっかり子育てしている日常がうかがえた。『まんぷく』に主演していた安藤サクラは、乳児のわが子を伴い大阪出張していたそうだけど、こちらは、父親が出張先に手のかかる幼子を伴い、妻(になる人)と育児に励んでいるというケース。これ男性に限らず、日本人にとっては、少なからずカルチャーショックではないだろうか。
一方、サイモンにとっては、日本の多くの商業劇場の観客が、女性ばかりであることが不思議な光景。「それはどうしてだろう」と、ちょっと戸惑い気味だった。
劇場が、英国のように社会問題を考察する場であるよりも、人気スターを観るために大枚をはたく女性客に支えられている場であることを理解するのは、容易ではないだろう。
そもそも英国(他の欧州各国もそうかも?)では、演劇に携わる人間は医者や弁護士と並ぶエリートが多いそうだから、伝統的にお芝居を娯楽ととらえ、ヒエラルキーなど関係なく楽しむ日本とは、文化的背景が異なるのだ。前者の方が賢そうに見えるけど、個人的には、後者の方が健全だとも思う。
つまり、優劣はない。こうやってお互いの違いを認識しながら、影響を与え合って、いいとこ取りの魅力的な作品が生まれることにこそ、意味があり、未来があるというものだ。
サイモンは、今回の『ハムレット』について構想を語ることは避けていたけれど、きっと日々東京にいて感じることが自然と反映された、問題意識のにじむ『ハムレット』が観られるはずだ。男性の観客にも来てほしいと、切に願っていると思う。
※目利きインタビュー「岡田将生主演の『ハムレット』を演出するために、サイモン・ゴドウィンが日本にやってきた!」の記事はこちらから。
https://otocoto.jp/interview/simongodwin/
【おまけ】サイモンさんの双子の娘さんの名前はアイリスとアルベルティーヌ。後者はプルーストの『失われた時を求めて』から取ったそうで、妻(になる人)の名ローズとあわせて3人とも花の名前で揃えたそうです。
【東京公演】
会期:2019年5月9日~6月2日
会場:Bunkamuraシアターコクーン
チケット:S席¥10,500 A席¥8,500 コクーンシート¥5,500(税込・全席指定)
【大阪公演】
会期:2019年6月7日~11日
会場:森ノ宮ピロティホール
チケット:¥11,000(税込・全席指定)
伊達なつめ
伊達なつめ
Natsume Date 演劇ジャーナリスト。演劇、ダンス、ミュージカル、古典芸能など、国内外のあらゆるパフォーミングアーツを取材し、『InRed』『CREA』などの一般誌や、『TJAPAN』などのwebメディアに寄稿。東京芸術劇場企画運営委員、文化庁芸術祭審査委員(2017、2018)など歴任。“The Japan Times”に英訳掲載された寄稿記事の日本語オリジナル原稿はこちら
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