#36
英国の人気劇作家の最新作が日本で世界初演される運のよさ――『FORTUNE』

#36 英国の人気劇作家の最新作が日本で世界初演される運のよさ――『FORTUNE』

10月に、カナダの人気劇作家ニコラス・ビヨンが、自分の戯曲を翻訳上演した日本のプロデュース・カンパニーのために、(依頼されたわけでもないのに)新作を書き下ろしたという僥倖というべき椿事があったばかりですが、今度はイギリスの人気劇作家サイモン・スティーヴンスの新作が、日本で世界初演されることになりました。ついてます!

サイモン・スティーヴンスは、オリジナルの劇作から古典戯曲の翻訳、小説の脚色、戯曲執筆の指導など、非常に柔軟かつ精力的に創作活動を行う、現代英国を代表する売れっ子劇作家だ。日本ではこれまで『ハーパー・リーガン』(2007年)、『千に砕け散る空の星』(3人の作家による共作、2012年)、『夜中に犬に起こった奇妙な事件』(マーク・ハッドンの同名小説を脚色、2014年)ほか数本が翻訳上演されている。 
『スリー・ビルボード』など映画も手がける劇作家マーティン・マクドナーとは同い年で、残虐さを厭わない描写など、共通点を指摘されることもあるようだ。が、主に家族にかかわる問題を取り上げながら、心理的ホームドラマにならず、大胆な飛躍を行って世界を広げてゆく作風は独特で、演劇だからこそ可能な、視覚的でフレキシブルな表現とも、とても相性がいい。

『FORTUNE』は、そんなスティーヴンスの最新作。あらゆる望みをかなえる代わりに悪魔に魂を引き渡す契約を交わす『ファウスト』の世界を、現代のロンドンに移し、老齢のファウスト博士が、41歳の成功した映画監督フォーチュンに置き換えられている。まるで、スティーヴンス自身を重ねたかのような設定だ。ルーシーという名のチャーミングな女性の姿をした悪魔によって、フォーチュンのリアルな日常が、次第に超常現象的に歪んでゆく。

『FORTUNE』製作発表記者会見。前列左から鶴見辰吾、田畑智子、森田剛、吉岡里帆、根岸季衣。後列左から美術・衣裳のポール・ウィルス、作者のサイモン・スティーヴンス、演出のショーン・ホームズ。撮影:尾嶝 太
『FORTUNE』製作発表記者会見。前列左から鶴見辰吾、田畑智子、森田剛、吉岡里帆、根岸季衣。後列左から美術・衣裳のポール・ウィルス、作者のサイモン・スティーヴンス、演出のショーン・ホームズ。撮影:尾嶝 太

製作発表記者会見で来日したスティーヴンスは、「『恐怖』が、私が作家として物語を紡ぐ際の起点になっています。自分が理解できない、こわいと思うものについて探究したいのです。いま人類は、経済的にも環境的にも裂け目にいて、今後10年以内に何が起こるか、わからないような状態。もしかしたら私たちは、この裂け目から永久の業火の中に落ちてゆくのかもしれない。(その恐怖に)立ち向かい、理解するための作業として、演劇がある。いまほど『ファウスト』という物語が必要と思える時はないでしょう」と語っていた。

このタイムリーな野心作を演出するのは、長年にわたってスティーヴンスと共働してきたショーン・ホームズ。自在に飛躍するスティーヴンスのテキストを、ビジュアル効果も駆使しながらヴィヴィッドに立ち上げる手腕で、作家からも絶大な信頼を得ている。今回は、俳優のムーブメント等のステージングを担当する小野寺修二ら、日本のスタッフとの共同作業で、稽古場では、次々に日本語の語彙を増やして、スタッフ・キャストを驚かせる日々。サイモン・スティーヴンスをもっともよく知る演出家のひとりとして、その世界観の具現化に期待が集まっている。

映画監督フォーチューン役の森田剛は、『夜中に犬に起こった奇妙な事件』以来、2度目のスティーヴンス作品への主演。せりふ量の多さに「サイモン、キターッ!と思った」。フォーチュンが想いを寄せるプロデューサーのマギー役の吉岡里帆は「小劇場の学生演劇に出会って以来、舞台への憧れが強く、ずっとやりたいと思っていました」。
映画監督フォーチューン役の森田剛は、『夜中に犬に起こった奇妙な事件』以来、2度目のスティーヴンス作品への主演。せりふ量の多さに「サイモン、キターッ!と思った」。フォーチュンが想いを寄せるプロデューサーのマギー役の吉岡里帆は「小劇場の学生演劇に出会って以来、舞台への憧れが強く、ずっとやりたいと思っていました」。

英国の劇作家の新作を、英国の演出家で、日本のキャスト・スタッフにより世界初演するというのは、おそらく初めての事例ではないだろうか。スティーヴンスは、以前ドイツとエストニアと英国三者のコラボで上演し、大反響を呼んだ自作『スリー・キングダムズ』(2011)以来の興奮だと語っていた。確かに、森田剛主演、吉岡里帆初共演という話題もさることながら、単に外国の演出家を招いて既成の戯曲を上演するのとはいささか異なる高揚感が、会見場には漂っていた。

スティーヴンスやホームズは、このように海外に対してオープンで、多様な文化と人脈を積極的に開拓していく気概を持つタイプの演劇人であることがわかったのも、収穫だった。「演劇の国」の誇りが前面に出て、閉鎖的なイメージが強かった英国演劇界も、少しずつ変わり始めている。遠目にそう見えなくもなかったけれど、日本にいてそれが実感できるとは思わなかった。 
日本の演劇界側も、こうしたちょっとタナボタ的な好機をしっかりものにして、ふつうに対等なパートナーとして、当たり前に各国の優れた演劇人とコラボをすることを目指したい。

公演情報
FORTUNE(フォーチュン)

作:サイモン・スティーヴンス
演出:ショーン・ホームズ
美術・衣裳:ポール・ウィルス
翻訳:広田敦郎
出演:森田剛、吉岡里帆、田畑智子、市川しんぺー、平田敦子、
菅原永二、内田亜希子、皆本麻帆、前原滉、斉藤直樹、津村知与支、/根岸季衣、鶴見辰吾 (岩崎MARK雄大、遠山悠介、渡邊絵里)

 

日時:東京2020年1月13日(月・祝) ~ 2月2日(日)
会場:東京芸術劇場 プレイハウス
問い合わせ:パルコステージ03-3477-5858

 

日時:2020年2月7日(金) ~ 2月9日(日)
会場:まつもと市民芸術館 主ホール
問い合わせ:サンライズプロモーション北陸025-246-3939

 

日時:2020年2月15日(土) ~ 2月23日(日)
会場:森ノ宮ピロティホール
問い合わせ:キョードーインフォメーション0570-200-888

 

日時:2020年2月27日(木) ~ 3月1日(日)
会場:北九州芸術劇場 大ホール
問い合わせ:キョードー西日本 0570-09-2424

 

公式サイト https://stage.parco.jp/program/fortune/

PROFILE

伊達なつめ

伊達なつめ

Natsume Date 演劇ジャーナリスト。演劇、ダンス、ミュージカル、古典芸能など、国内外のあらゆるパフォーミングアーツを取材し、『InRed』『CREA』などの一般誌や、『TJAPAN』などのwebメディアに寄稿。東京芸術劇場企画運営委員、文化庁芸術祭審査委員(2017、2018)など歴任。“The Japan Times”に英訳掲載された寄稿記事の日本語オリジナル原稿はこちら

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