#35 ’70年代のディスコが舞台に甦る『サタデー・ナイト・フィーバー』

#35 '70年代のディスコが舞台に甦る『サタデー・ナイト・フィーバー』

ジョン・トラボルタ主演『サタデー・ナイト・フィーバー』は、これまで何度か舞台化されてきましたが、マシュー・ボーンの秘蔵っ子だったリチャード・ウィンザー主演の最新版は、映画版のイメージを裏切らない工夫に満ちています。

’70年代のディスコ・ブームを牽引し、ジョン・トラボルタの人気を決定づけた『サタデーナイト・フィーバー』(ジョン・バダム監督、日本公開1978年)。久しぶりに映画を見直してみたら、単純に忘れていたことや記憶違い、見落としなどが山ほどあって、唖然とするくらい印象が異なった。

カラフルに光るフロアとミラーボールの’70年代ディスコを再現した舞台版。中央はトニー・マネーロ役のリチャード・ウィンザー。(C)Pamela Raith
カラフルに光るフロアとミラーボールの’70年代ディスコを再現した舞台版。中央はトニー・マネーロ役のリチャード・ウィンザー。(C)Pamela Raith 

日常はパッとしないけれど、週末だけはビシッときめてディスコに繰り出し、得意のダンスで注目を浴びる青年。見どころはビージーズのヒット曲にのせた、ディスコでの彼の踊りっぷり――。

という大ざっぱな記憶に間違いは無いものの、主人公の青年トニー・マネーロは、ただのダンスばかではなく、いや、ダンスばかではあるのだが、イタリア系移民の家に生まれ、敬虔なクリスチャンである親と、その期待に応えきれず挫折した兄を家族に持ち、自ら遊び仲間の度を超した悪行に加担し、悩む友人の孤独を知りながら、その自殺を阻止することもできず、上昇志向のダンス・パートナーの背伸びの陰にある痛々しさを知っても、なす術なくうつむくだけ……といった、非常にリアルで切実なバックグラウンドを持つ人物であり、そんな彼の複雑な心の内が、細やかかつヴィヴィッドに描かれた名作映画であることに、約40年の時を経て、やっと気づいた次第。

「だから、自分が演じることに興味を持ったんです」 
と、英国で誕生した最新舞台版でトニー・マネーロ役を演じる、リチャード・ウィンザーも言っていた。

マシュー・ボーン作品で大活躍してきたリチャード・ウィンザーが、ミュージカルという新境地で6年ぶりに来日する。(C)Pamela Raith
マシュー・ボーン作品で大活躍してきたリチャード・ウィンザーが、ミュージカルという新境地で6年ぶりに来日する。(C)Pamela Raith 

ウィンザーは、大ヒットした男性版『白鳥の湖』など、ユニークなダンス作品で圧倒的支持を得ているマシュー・ボーン(振付・演出)に見出され、その数々の作品で、クリエーションの中核をなす働きをしてきたスター・ダンサーだ。ボーン作品は、せりふを声に出すことはないものの、ドラマティックなストーリーを伝えることを主眼とするので、ダンサーには豊かな演技力が求められる。ウィンザーは、恵まれた体躯とともに、俳優としての能力の高さを買われてボーンに貢献してきた実績があり、近年は演劇の舞台や映像作品への出演も多く、BBCテレビの長寿人気ドラマ『カジュアルティ』へのレギュラー出演で、俳優としての知名度も一気に上がったところ。

今回の舞台への主演も、『カジュアルティ』でのウィンザーのファンだったというプロデューサー/演出家ビル・ケンライトからのオファーで、ケンライトは、当初ウィンザーがダンサー出身であることを知らなかったという。それだけ、すでに俳優として認められていることが伺えるし、ウィンザー自身も、演じ甲斐のあるキャラクターだからこそ興味を持ち、未知のミュージカルに足を踏み入れる気持ちになったらしい。もちろん、ダンサーというアドバンテージが、フルに活かせる大役でもある。

ジョン・トラボルタのディスコ・ダンスについてウィンザーは、
「彼はもともとプロのダンサーではないけれど、どれだけのトレーニングを積んだか、彼のダンスを見ると、よくわかります。習ったものを完全に自分のものにし、一度それをすべて手放した後に、自然と自分の一部になるところまで持っていっている。その努力は見事で、心から感動しました」
と絶賛。自身は、プロのダンサーであるだけに、ディスコという未経験のダンス・ジャンルへの挑戦に高度なハードルを課して臨み、’70年代のディスコ・キングにふさわしい、クールでリラックスしたステップで踊る、セクシーなカリスマを演じきっている。

『サタデー・ナイト・フィーバー』といえばこのポーズ。実は映画版には無い白スーツでこの振付を踊るシーンもしっかり用意されている。(C)Pamela Raith
『サタデー・ナイト・フィーバー』といえばこのポーズ。実は映画版には無い白スーツでこの振付を踊るシーンもしっかり用意されている。(C)Pamela Raith 

映画版を見直してもっとも驚いたのは、白の勝負スーツに身を包んだトニー・マネーロが、右腕を上げ、腰をひねってきめる『サタデー・ナイト・フィーバー』の象徴といえるあのポーズのダンス・シーンが、映画には存在しないという事実。後のポスターやジャケット用に加工された画像が普及して、私たちの脳裏に焼き付いている、ということかと推測するが、この舞台版には、映画には無いそのシーンも、しっかり用意されている。映画版の忠実な再現に努めるだけでなく、人々が抱いている『サタデー・ナイト・フィーバー』に対するイメージを裏切らないことにも、しっかり配慮している秀作だ。

2018年に、ウィンザーもクリエーションに参加して英国で初演され、この年末に日本へ上陸する最新版『サタデー・ナイト・フィーバー』。ウィンザーはこの日本公演でトニー・マネーロ役を卒業するそうなので、東京公演が、最後のオリジナル・キャスト上演となる。ある意味、映画以上に『サタデー・ナイト・フィーバー』的なライブ版に注目したい。

公演情報
ミュージカル『サタデー・ナイト・フィーバー』
生演奏・英語上演・日本語字幕

日時:2019年12月13日(金)~29日(日)
会場:東京国際フォーラム・ホールC
演出:ビル・ケンライト
振付:ビル・ディーマー
出演:リチャード・ウィンザーほか
問い合わせ:0570-550-799(キョードー東京)
公式サイト:https://snf2019.jp/

PROFILE

伊達なつめ

伊達なつめ

Natsume Date 演劇ジャーナリスト。演劇、ダンス、ミュージカル、古典芸能など、国内外のあらゆるパフォーミングアーツを取材し、『InRed』『CREA』などの一般誌や、『TJAPAN』などのwebメディアに寄稿。東京芸術劇場企画運営委員、文化庁芸術祭審査委員(2017、2018)など歴任。“The Japan Times”に英訳掲載された寄稿記事の日本語オリジナル原稿はこちら

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