ブルーノート東京にトリオ “キューバップ”を観に行った。トリオ “キューバップ”は2015年に公開されたキューバ音楽のドキュメンタリー映画『Cu-Bop』で大々的に取り上げられていたキューバ生まれのジャズ・ピアニストのアクセル・トスカを中心にしたトリオだ。
キューバといえば、映画『ブエナ・ビスタ・ソシアル・クラブ』のようなルンバやサルサ、アフロキューバンに代表されるような「ザ・ラテン音楽」のイメージがあるが、キューバにだって多様な音楽が存在している。ロックもあればジャズもあるし、ヒップホップもあれば、ハウスもあるし、ビートミュージックもある。21世紀になってからアメリカとの政治的な距離がどんどん縮まり2015年に国交が回復したのと同じように、キューバ音楽もどんどんハイブリッドになっていった流れもあり、近年キューバの音楽はラテン音楽好き以外にも注目を集めているのだ。
今回の主役、アクセル・トスカもその流れにいる一人。キューバ生まれで、(ロバート・グラスパーやホセ・ジェイムスも卒業した)NYの名門ニュースクール音大に留学し、そのままNYで活動しているアクセルはNYのキューバ系のコミュニティーとの交流もありベタなラテンジャズもプレイするが、彼自身の音楽性に関しては、ヒップホップやR&Bなどとジャズを融合する現代的なジャズのスタイルを取り入れている部分が核になっている。ともに来日したNY生まれのキューバ系アメリカ人のアマウリ・アコスタもアクセルと同じようにハイブリッドな音楽を志向していて、微妙に出自が異なる二人がそれぞれのアイデアを出し合って、(U)NITYというバンドとしてオリジナルの音楽を作り上げている。今回のトリオ “キューバップ”はその(U)NITYの中の3人で来日したものだ。
アマウリのドラムはラテンのリズムを叩いていたと思えば、ジャズの4ビートへ、そこからファンク、更にはヒップホップへ、と様々なスタイルを自由に行き来し、時にそれらふたつが融合したり、並行したりもするもの。それに応えるように、アクセルはピアノやエレクトリックピアノ、シンセサイザーを駆使してジャンルに囚われず、どんどんジャンルを横断していくのが彼らのやり方だ。
ただ、僕が感じた彼らの面白さはそこだけではない。彼らはヒップホップと密接になった21世紀のジャズシーンを象徴する存在であるピアニストのロバート・グラスパーやドラマーのクリス・デイヴを尊敬していて、実際にグラスパーやクリスのような音楽をプレイするのだが、そこには不思議とラテンのエッセンスが入ってくる。彼らの音楽は必ずしも「ラテンジャズ」とは呼べないものだが、一方で聴けば聴くほど(主にリズムに)ラテンの欠片のようなものがところどころに聴こえてくるところが最大の個性になっている。特にアクセルがアコースティックのピアノを弾くとラテンジャズっぽさがいつの間にか出ていたりする。アクセルのピアノを聴きながら、自分がジャズという音楽の中にある即興という部分が好きなのは、即興で演奏しようとすると自分の中の核の部分が思わず出てしまったりするところかもしれないと、思ったのだった。
『(U)nity Is Power』(U)nity
https://itunes.apple.com/jp/album/u-nity-is-power/1248943685
柳樂 光隆
柳樂 光隆
1979年、島根・出雲生まれ。音楽評論家。元レコード屋店長。21世紀以降のジャズをまとめた世界初のジャズ本『Jazz The New Chapter』シリーズ監修者。共著に後藤雅洋、村井康司との鼎談集『100年のジャズを聴く』など。ライナーノーツ多数。若林恵、宮田文久とともに編集者やライター、ジャーナリストを活気づけるための勉強会《音筆の会》を共催。
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