#29 二人芝居の意外な可能性――『受取人不明ADDRESS UNKNOWN』

#42 舞台芸術の理想型――音楽・美術・演劇・映像・身体表現が融合 したオペラ

往復書簡のスタイルを巧みに使った二人芝居『受取人不明 ADDRESS UNKNOWN』。昨年の初演でイケメン路線だとばかり思っていたら、今年の新キャストが新たな可能性を示してくれました。

ナチズムの脅威が友情を無惨に破壊し、報復の衝動が地獄を生み出す――。昨年、大河内直子の演出で本邦初演され、戦慄の展開で衝撃を与えた二人芝居『受取人不明 ADDRESS UNKNOWN』の、新キャストによる再演を観た。

原作は、ヒトラー全盛期の1938年にアメリカで出版された、クレンスマン・テイラーによる同名の書簡体小説。これを2004年に演出家(フランク・ダンロップ)自らが脚色し、オフ・ブロードウェイで上演した際の脚本を使用している(翻訳:小田島創志)。

ともにドイツ出身で、アメリカで画廊の共同経営をしていたマックスとマルティンは、1932年、マルティンのドイツへの帰国に伴い、往復書簡を始める。しかし、折からのナチスの台頭で、マルティンは瞬く間にヒトラーに心酔し、ユダヤ人であるマックスを遠ざけるようになる。友情を信じたいマックスは手紙を送り続けるが、救いを求めてマルティンを訪ねたマックスの妹をマルティンが見殺しにした事実を知ると、ついに逆上。書簡を使って、マルティンへの報復を始める――。

舞台は、サンフランシスコにいるマックスと、ミュンヘンにいるマルティンとに中央で分かれていて、互いに自身の手紙を読み上げるというスタイル。二人芝居だが、構造上対話をするわけにはいかず、制約の多いシチュエーションの中で、いかに朗読でなく、演劇として豊かな表現が可能か、という挑戦といえる。

『受取人不明 ADDRESS UNKNOWN』昨年の初演に続く青柳尊哉のマックス(左)と須賀貴匡のマルティン(右)のAチーム。撮影:交泰

マックス役は、声優として名高く、大河ドラマ『真田丸』で、木村佳乃演じる主人公・真田信繁の姉の夫、小山田茂誠を演じて注目された高木渉。マルティン役は、蜷川幸雄作品に欠かせない存在だった、「舞台の鬼!」という感じの元気印・大石継太。実に濃厚な初顔合わせだ。脚本では、マックスがちょっと小太りで、ハンサムなマルティンに憧れを抱いているという設定があるので、その意味では、もっとも戯曲に忠実なキャスティングと言っていいかもしれない。

で、きっと熟年らしい落ち着きや陰影が、この作品の新たな側面を引き出してくれるだろう――などという予想をしたのだが、これがまた、まったくの見当違いだった。互いの手紙の内容を聞く際のリアクションの豊かさといい、こちらの鼓膜が心配になるほどのせりふの声の大きさといい、この2人の真剣さ丸出しの熱量の高さといったら、ちょっと手が付けられないレベル。100席ほどの親密な空間であることなどお構いなしに、どんどんヴォルテージを上げていき、その底なしのパワーで観客を圧倒し慄然とさせるという、ベテランなのに、いや、ベテランだからこその、まさかの力業で押し切ってみせたのだった。 

みごとに予想を裏切ってくれた新キャストの登場で、この作品の可能性が、ますます多彩に広がった感。これからもいろいろなキャストの組み合わせで、コンスタントに上演してもらえたらうれしい。

公演情報

 

受取人不明 ADDRESS UNKNOWN
日程:2019年10月3日(木)~14日(月)
会場:サンモールスタジオ
原作:クレスマン・テイラー
脚色:フランク・ダンロップ
翻訳:小田島創志
演出:大河内直子
出演:青柳尊哉&須賀貴匡、池田努&畠山典之、高木渉&大石継太
公式サイト:http://www.ae-on.co.jp/unrato/

PROFILE

伊達なつめ

伊達なつめ

Natsume Date 演劇ジャーナリスト。演劇、ダンス、ミュージカル、古典芸能など、国内外のあらゆるパフォーミングアーツを取材し、『InRed』『CREA』などの一般誌や、『TJAPAN』などのwebメディアに寄稿。東京芸術劇場企画運営委員、文化庁芸術祭審査委員(2017、2018)など歴任。“The Japan Times”に英訳掲載された寄稿記事の日本語オリジナル原稿はこちら

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