※以下の記事は「トニー賞直前!注目ミュージカルBest3レビュー」からの抜粋です。
『エイント・トゥー・プラウド』は、1960~1970年にかけて次々とヒットを飛ばしたモータウン・レコードのテンプテーションズの歴史を、ヒット曲に乗せてテンポ良く紹介するジュークボックス・ミュージカルとなっている。
テンプテーションズの成功は、一夜にして成ったわけではない。一幕目では、デトロイト界隈のクラブで歌っていた彼らが、モータウン・レコードの創立者ベリー・ゴーディにより巨大なスーパースターとなっていく過程が描かれている。人種差別が色濃く残っていたその時代に、如何にして黒人歌手グループが、白人の世界に受け入れられたのかを見るのは興味深い。二幕目では名声と富を手にした彼らを描く。しかし恋愛問題、長期ツアーの疲れ、残した家族との隔たり、スポットライトを一身に受けたいという思い等が彼らを内側から蝕んでいく。そして苦しみから逃れるために手を出した麻薬や酒のせいで、次第に一人、また一人とグループに留まれず去っていくのだった。
結成後20年の間に24人のメンバーが入れ代わったテンプテーションズだが、この作品内では主要な4、5人のメンバーの入れ替えだけが描かれている。その都度、新メンバーが新しい風を吹き込み、メガヒットを生み出し続ける彼らの弾力性と回復力には脱帽する。まさにレジリエンスだ。メンバーが変わっても以前と勝るとも劣らないレベルで歌って踊って演技ができるという3拍子の揃った俳優達が、次から次へとステージに登場してくる。才能が集まるニューヨークならではの贅沢な作品で、ブロードウェイの底力を感じざるを得ない。テンプテーションズのヒット曲を、生で、しかも圧倒的な歌唱力と踊りで見られるという、モータウン・ファンには堪らない作品となっている。
文/井村まどか
photo by Matthew Murphy 2019Imperial Theatre
Imperial Theatre
249 W 45th St
New York, NY 10036
2時間30分(15分の休憩含む)
SCORES
舞台セット 8
作詞作曲 10
振付 10
衣装 8
照明 8
総合 9
井村まどか
井村まどか
ニューヨークを拠点に、ブログ「ブロードウェイ交差点」を書く。NHK コスモメディア社のエグゼクティブ・プロデューサーで、アメリカの「ドラマ・デスク賞」の審査・選考委員も務める。 協力:柏村洋平 / 影山雄成(トニー賞授賞式の日本の放送で、解説者として出演する演劇ジャーナリスト)
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