ブロードウェイ here and now
ザ・シェール・ショー/The Cher Show

ザ・シェール・ショー/The Cher Show

半世紀以上ヒットを出し続け「ポップスの女神」と呼ばれている歌手シェールの生涯を描いたミュージカル作品。

現在72歳のシェールは、最初のヒットである1965年の「アイ・ガット・ユー・ベイブ」以来、35曲のスマッシュヒットを出し続け、60年間全力を挙げて芸能界の常識を破り続け、その境界線を超え続けて、大衆文化に大きな影響を与えてきた。彼女は歌手としてグラミー賞を受賞するだけでなく、テレビタレントとしてエミー賞を、さらに映画俳優としてアカデミー賞を受賞してスターの座を確立してきた。しかし、ここに至るまでの彼女の私生活は、芸能界での成功とは反した険しいものだった。

離婚を繰り返す母親の元で、貧しい暮らしをしていた子供のころのシェールから一幕目は始まる。シェール役は、年齢や曲の種類によって3人の女優(ステファニー・J・ブロックStephanie J. Block、ミカエラ・ダイヤモンドMicaela Diamond、ティール・ウィックスTeal Wicks)によって演じられている。シェールの声は女性には珍しい低く太い為、同じ様な声を出せる女優を探すのは容易ではないだろうと気になっていたが、3人共、歌は上手いがやはり声の質は期待するほどシェールには似ていない。 

16歳の時に母親の元を離れてロスに出てきたシェールは、18歳にして12も歳上のロックスター、ソニー・ボノと結婚し、彼と一緒にテレビショー「ソニー&シェア」を大ヒットさせる。しかし強い女性として成長していく彼女をコントロールしようとするソニーとの結婚は破綻。二人の間に生まれた娘は、シェールがコンサートツアーをしながら、一人で育てていくことになる。

二幕目はシェールの2度目の結婚と離婚、アカデミー賞の受賞、そして50歳を過ぎて、若者の間で大ヒットとなったディスコ調の「ビリーブ / Believe」が歌われ、シェールの絶えることのない芸能界での成功を描いていく。一幕目に比べると、紹介されるヒット曲は減り、俳優としての業績を辿る一方、派手な場面が少なくテンションは下がり気味になる。

シェールのファンにとっては、数多いヒット曲を生演奏で聴ける喜びに加え、一幕目後半では、彼女の衣装もファッション・ショーのように紹介される。「セクシーで奇抜で、同時に美しい」と当時大反響を呼んだボブ・マッキーのキラキラとした衣装デザインは大人気を呼び、当時「ニューヨークでスパンコールの在庫切れを起こさせた」という話は有名だ。『ザ・シェール・ショー 』の衣装デザイナーでもあるが、エミー賞を9回も受賞していて、米国テレビ芸術科学アカデミーへの殿堂入りを果たした巨匠である。このステージでの衣装のオン・パレードはまさに圧巻で、観客から大きな拍手が沸き起こる。 

全体で見ると、やや彼女の経歴が盛りだくさん過ぎて、ストーリーを追うのに急がしく、シェールを国際的なスターに登らせたカリスマ性や、私生活の問題の中での彼女の気持ちの起伏などが見えてこないのは残念なところ。 シェール本人が共同プロデューサーとして関わっていることから、過去のエピソードはどれにも思い入れが強く、構成面での取捨選択が上手くできなかったのかも知れない。

シェールの細かい経歴やヒット曲については、インターネットなどで検索してもらうこととして割愛させていただくが、2018年にはメリル・ストリープと共に映画に出演し、同年12月にケネディ・センター名誉賞を受賞した。そして現在ツイッターで335万人のフォロワーを持つシェールは、何歳になっても凄いスターだ。

脚本は『ジャージー・ボーイズ 』(2005)も書いたリック・エリス/Rick Elice。

演出はジェイソン・ムーア/Jason Moore。オフ・ブロードウェイからブロードウェイに移りトニー賞を受賞した『アベニューQ』も彼の演出だが、低予算だった映画『ピッチ・パーフェクト』もヒットさせたことで、小さいものを大きくヒットさせることで知られている。

振付はクリストファー・ガテリ/Christopher Gattelli。 ミュージカル『ニュージーズ 』(2012)でトニー賞最優秀振付賞を受賞している。『スポンジボブ・スクエアパンツ 』(2017)、『マイ・フェア・レディ』(2018 リバイバル)、『王様と私』(2015  リバイバル)ではトニー賞にノミネートされている。

装置デザインは、クリスティン・ジョーンズ/Christine Jones。演劇『ハリー・ポッターと呪いの子』(2018やミュージカル『アメリカン・イディオット 』(2010)でトニー賞を受賞している。

照明デザインは、ケビン・アダムズ/Kevin Adams。『春の目覚め 』(2006)、『三十九階段 』(2008)、『アメリカン・イディオット 』(2010)、『ヘドウィグ・アンド・アングリーインチ 』(2014) でトニー賞を受賞している。

文/井村まどか
photo by Joan MarcusNeil Simon Theatre


Neil Simon Theatre

250 W 52nd St
New York, NY 10019上演時間:2時間20分(10分の休憩含む)

Neil Simon Theatre

SCORES

Wall Street Journal 4
New York Times 5
Variety 6

舞台セット 7
作詞作曲 9
振付 7
衣装 9
照明 7
総合 7

井村 まどか

ニューヨークを拠点に、ブログ「ブロードウェイ交差点」を書く。NHK コスモメディア社のエグゼクティブ・プロデューサーで、アメリカの「ドラマ・デスク賞」の審査・選考委員も務める。 協力:柏村洋平 / 影山雄成(トニー賞授賞式の日本の放送で、解説者として出演する演劇ジャーナリスト)

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