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ミーン・ガールズ / Mean Girls

ミーン・ガールズ / Mean Girls

アメリカの公立高校での女子生徒たちの恋の対立、そして友情をコメディータッチで軽快に描いた2004年の映画『ミーン・ガールズ』の舞台化。『サタデー・ナイト・ライブ』で有名なティナ・フェイが、原作映画の脚本も今回の舞台の脚本も書いているとあって注目された作品。作曲は彼女の夫ジェフ・リッチモンドが手掛けている。

ちなみに原作映画の元となったのは、2002年に出版されたロザリンド・ワイズマンによるノン・フィクションの自己啓発本『女の子って、どうして傷つけあうの?/ Queen Bees and Wannabes』。皆が憧れながら憎むレジーナ・ジョージと云う役柄は、『ミーン・ガールズ』という映画の枠組みを超えて有名になり、アメリカでは、高級品を着飾って男性の注意を一身に受けるのが大好きで、人を傷つけることをなんとも思わないような女性を「レジーナ」という代名詞を使って表現する程だ。

原作映画の公開当時は普及していなかったスマートフォン、ツイッターやインスタグラムといったSNSを巧みに使いこなす今の高校生たちを反映させて、登場人物たちは何かあるとすぐにテキストメッセージで連絡を取り合い、SNSに写真などをアップする。そういうSNSの世界でのやり取りを観客にわかりやすく効果的伝えるのは、ステージを弧の形で囲むLEDスクリーンで、舞台装置の核を成している。

両親が動物学者だったためにアフリカで育ち、家庭学習しか受けたことのなかった主人公のケイディが、16歳にして初めてアメリカの高校に通い始めるところから物語は始まり、ストーリーの展開は原作映画と変わらない。学内で圧倒的な勢力を誇るレジーナと取り巻きの2人。卒業アルバムには、下級生の写真も載るが、レジーナの家に3人で集まり、その生徒達の写真にそれぞれ「コーンフレークが人間だったら、この子みたいよネ」とか「彼が代表チームのメンバーに選ばれたのは、お母さんがコーチと寝たからヨ」などの意地悪なコメントを書き入れるのが、彼女たちの娯楽だった。

有名なコメディアンのティナ・フェイによる台本は笑えるし、舞台セットもアメリカの高校時代を観客に思い出させて楽しめる。全体的にもテンポが良くスピード感もある。テーマは同じく若者の心を捉えた『Be More Chill』や『Dear Evan Hansen』の女性版というところか。

この作品で一番強調されているのは、今の若い女性に向けられる「自分らしく生きよう」というメッセージだ。今までもすでにアメリカ全体に渡り主流を占めていたこの手のメッセージは、例のハリウッド映画のプロデューサー、ハーヴェイ・ワインスタインによるセクシャルハラスメントのスキャンダルが暴露されて以来、さらに賞賛されるようになった。「女性よ、人の目を気にするな」とか、「男性の力に屈するな」というものだ。

しかし、アメリカ人の女性はすでに世界の他の国の女性に比べると、十分に自分らしく生きていると思う。だからこそレジーナ・ジョージのような女性が結構どこにでも居て、それをおもしろおかしく描いた映画『ミーン・ガールズ』がヒットする。レジーナこそ「自分らしく、したい放題に」生きている。たまには「人の気持ちも考えようヨ」というメッセージを投げかける作品があったらおもしろい…などと思う。

文/井村まどか
photo by Joan Marcus


August Wilson Theatre

245 W. 52nd St
New York, NY 10019
上演時間:2時間30分 (15分の休憩)

August Wilson Theatre

SCORES

Wall Street Journal 7
New York Times 8
Variety 9

舞台セット 8
作詞作曲 8
振付 9
衣装 8
照明 8
総合 8

井村 まどか

ニューヨークを拠点に、ブログ「ブロードウェイ交差点」を書く。NHK コスモメディア社のエグゼクティブ・プロデューサーで、アメリカの「ドラマ・デスク賞」の審査・選考委員も務める。 協力:柏村洋平 / 影山雄成(トニー賞授賞式の日本の放送で、解説者として出演する演劇ジャーナリスト)

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