「教育の正解」はアートが導いていく

vol.55

アート空間がひらく教育の未来

Photographs by Kelly Liu

Text by Misaki Nonaka

最近、ビジネスパーソンのあいだでAIやテクノロジーといったシステム上の理論では答えを出せない「アート思考」が注目されています。そしてそれは、これからの時代を生きる子どもたちにとって大切なものであるとされ、その重要性に気づいた親世代がアートに触れられる空間をつくろうとしています。

今回は「アート空間がひらく教育の未来」をテーマに、アートやデザインから受ける創造的思考を育む施策を幼児教育現場に取り入れている株式会社ポピンズ代表取締役社長の轟麻衣子さんと、まちの保育園・こども園を運営するナチュラルスマイルジャパン株式会社代表取締役の松本理寿輝さん、そしてアマナグループから、イエローコーナージャパンの田中愛子と『MilK JAPON』編集長の星本和容を迎え、子どもの教育、そして大人や企業においてアートのある空間がどういった影響を生み出すのか。その可能性について議論していきます。


空間が創造性を育む。ファシリテーションの重要性

会場のsession hall入り口
アマナのsession hall入り口。今回はトークテーマに合わせて初めて午前中にイベントが開催された

星本和容(『MilK JAPON』編集長/以下、星本):早速ですが、今回は「アート空間がひらく教育の未来」ということで、アートを軸に教育というものを語っていきたいと思います。

まず、アートのある空間の一例として、ポピンズが運営する英語学童のアクティブラーニングインターナショナルスクールアネックス(PALIS)にはイエローコーナーのアートフォトが導入されています。立ち上がった経緯も含め、アート空間が子どもの教育にどう影響を及ぼすのかお聞きしたいなと。

田中愛子(株式会社イエローコーナージャパン/以下、田中):イエローコーナーの本国フランスと日本では、お客さまのアート空間に対する意識の違いが明確にあります。本国の店舗に来るお客さまはどんな作品をどこに掛けたいのか想定の上で来店しているのに対し、日本では「いままでアートに囲まれて生活してこなかったので、どういうふうに飾ればいいのか分からない」という声を聞くことがよくありました。

そんなとき、ポピンズの轟さんとお会いする機会があり、その違いについて会話したところ、「最終的には教育だよね」と。そこで、子どもが毎日学ぶところにアートフォトを飾るとどういった影響があるのか一緒に研究しましょう、ということでイエロコーナーの作品を置いていただいたのが取り組みのきっかけでした。

イエローコーナージャパンの田中愛子
イエローコーナージャパンの田中愛子

轟 麻衣子(株式会社ポピンズ代表取締役社長/以下、轟):ポピンズは、“ありきたりなスペースからの脱却”を軸にして園づくりを行っています。一日8〜9時間、週5日も大切な子どもを預ける場に安心・安全を求めるのは当たり前ですが、美しい空間・美観ということも含めた環境設定も大切だと私たちは創業当時から考えていました。

モノは子どもの成長に影響を与えます。しかし、ただそこにあるだけでは命が吹き込まれていません。子どもとの関わり方や、教育者の促しや導きといったソーシャルインタラクション(社会的相互作用)が起こることで、初めてモノに命が吹き込まれるんです。今回のイエローコーナーとの取り組みでは、アートフォトを取り入れた空間づくりを通じて、どういった創造や発見が子どもたちのなかで生まれていくのか。また、保護者はそれをどう感じてくれるのか。そういった環境設定から始めることにしました。

株式会社ポピンズ代表取締役社長の轟麻衣子さん
株式会社ポピンズ代表取締役社長の轟麻衣子さん

星本:自分の子どもが成長過程で物事を取捨選択していく未来を考えたときに「自分が美しいと思うものが美しい」とか「良くないものは良くない」とか、そういう自分のモノサシを確立するためにも、独創的思考を身に付けられるアートフォトはすごく魅力的なだと。作品をセレクトするうえで基準はありますか?

田中:パッと見てすぐ何か分かるものというよりは、想像できるようなもの--。例えば、トリックアートのように何かの一部が見えているようなものですね。まだ第1弾なので、何がベストなのかを検証していければと考えています。実は今回、アートと空間インテリアをちゃんとコーディネートさせたいと思い、カリモクニュースタンダードの家具ともご一緒させていただいています。

ポピンズアクティブラーニングインターナショナルスクールアネックス(PALIS ANNEX)
9月に開校したポピンズ初の英語学童「ポピンズアクティブラーニングインターナショナルスクールアネックス(PALIS ANNEX)」。部屋にはカリモクニュースタンダードの家具と、イエローコーナージャパンのアートフォトを設えている

轟:子どもの観点を大切にするため、スクール装飾する絵2パターンを子どもたちに見せて「どっちが良い?」と尋ねたら、大人が良いと思っていたものと反対のものを選んだんです。子どもたちが感じるおもしろみや発見は大人のそれとはまったく違っていました。

星本:大人と子どもがパートナーとして対等な関係を築くことは「まちの保育園」の取り組みとも近いですよね。

松本理寿輝(まちの保育園・こども園代表/ナチュラルスマイルジャパン株式会社代表取締役/以下、松本):私たちの園では、朝の子どもたちとのミーティングで「今日何をしたいか」を決めていきます。ある日、4〜5歳の女の子たちが「美術館をつくりたい」と。そこから、「薄暗い」とか「それぞれ作品に名前が付いている」とか、美術館について一人ひとりが知っていることや経験したことをシェアしていきます。その情報を掛け合わせ、「じゃあ、昨日公園で見た葉っぱがおもしろかったから葉っぱの美術館をつくろう!」と、展示物となる葉っぱを収集しに行くことになりました。こういったプロセスは、保育者がわざわざ促すのではなく、子どもたちが自ら考えてやっているわけなんですね。

葉っぱの美術館

ここでひとつ驚いたことを紹介したいと思います。青色のグラスに水を張ってクローバーの葉を浮かべるという表現方法を思いついた子がいたんですが、その子から「小さい石は水に浮かんで、大きい石は沈みます。葉っぱはどんなに大きくても水に浮かびます。土の下にできたものは下にあるので沈んで、上にできているものは浮かびます」という、哲学的な招待状をもらったんです(笑)。子どもなりに、「石は土からできていて下に見える、葉っぱは木になって浮かんでいるように見える。その同じ原理が水中でも起こるんじゃないか?」という仮説を立て、実際に表現し伝えて見せた。その創造性もすごいのですが、ここで言いたいのは、子どもたちがこれだけの力を持っているということ。それを私たちが励ましていくことが大事なんです。

まちの保育園・こども園代表、ナチュラルスマイルジャパン株式会社代表取締役の松本理寿輝さん
まちの保育園・こども園代表、ナチュラルスマイルジャパン株式会社代表取締役の松本理寿輝さん

星本:そういったファシリテーションの重要性が問われていますが、そもそも大人がアート思考を分かっているのかを考えなきゃいけないですね。

松本:いままでの教育は「してあげること」にフォーカスしてきましたが、それと同じかそれ以上に「大人がどうあるか」が大事だという議論がヒントになるかもしれません。大人がアート思考に興味関心を持ったり、受け入れるために心を開いたりしているかが大事で、大人が意識していれば子どもにもアート的思考が芽生えることもある。これから先、轟さんたちがやっている、“大人も子どももアートに親しみが湧く居心地のいい環境”というのは、そういう意味でも大事だと思います。

『MilK JAPON』編集長の星本和容
『MilK JAPON』編集長の星本和容(左)

「朽ちていくオレンジ」に学ぶ、ものごとの本質

星本:そういった環境づくりについて、海外の事例を含めて轟さんからご説明いただけますか?

轟:よくいろんなところに視察に行くなかで、アートは自然のなかから発生していると感じることがあります。例えば、これは子どもたちが想像して木の根っこの部分をクレヨンで描いたもの。「ここに座ってキャンバスに何か描いてください」ということはまったくやっていません。これ自体がアートになり、子どもたちの創造力を高めることに繋がっていくんです。

子どもたちが描いた木の根

また、ここは私が大好きなアトリエで、部屋のなかの空間がそのまま外の緑と繋がっています。注目してほしいのが机の真ん中に置いてある緑色のクレヨンの種類。日本だとよく12色クレヨンが与えられますが、本当は緑だけでも100通りもあるんです。いろんな緑があって、どの緑も正しい。その概念を3歳から学んでいく世界もあることが分かりますよね。

海外のアトリエ

下の写真も同じで、光の加減、重ね合わせや影でいろんな色が生み出され、光を通したときの物事の変化を多方面から感覚的に捉えることができます。

海外のアトリエ

そういったいろいろな遊びが0歳児クラスから展開されているのを見ると、やっぱり私たちができることは環境設定なんじゃないかと思います。先ほど松本さんがおっしゃってくださったように、親も子どもも一緒に学びながらっていう視点ってすごく大切だと思いました。

タジリケイスケ(「H」編集長/以下、タジリ):アート思考を持っていない大人に対するアプローチの仕方はありますか?

松本:アートに興味関心を持つ人とアートのある環境をつくりながら、良いと感じることを社会にシェアしていくことは大事ですが、全員が同じことを考えたりアート思考を持ったりしなくても良いと思います。

最近「自分の内にあるもの」や「出会ったものと惹かれ合う」ことで、感性や創造力が引き出されるという議論が行われています。「自分の内にあるもの」とは、子どもたちが生まれながらにして持つ有能性や個性、可能性のこと。子どもも主体となり知を構成できるのだと、大人が再評価・再確認する必要があります。

社会的に「出会うこと」もとても大事なことです。具体的に心が動くような出会い方として、先ほどの「学童施設に飾るアートフォトを子どもに選んでもらった」というのも良いアイデアですし「本物との出会い」が実現しています。

轟:このオレンジの写真を見せて「オレンジは何色?」と聞くと、日本だと「オレンジ」や「黄色」という答えが出ますが、イタリアの子たちは「緑」や「黒」といったさまざまな色が出てきたんです。

オレンジ

なぜだろうと思い現地の先生に伺うと、オレンジができてから朽ちるまでのライフサイクルをプロジェクトとして見せる取り組みをしているのだと教えてくれました。初めは橙色だったものがだんだん干からびて黒くなり、最後にはカビが生えて緑になる。その光景を体験した子どもたちにとって、オレンジはいろんな色を持つ存在になります。そこに本質的な学びがあるのかもしれません。

星本:私の推薦図書である、美術評論家・布施英利さんの『子どもに伝える美術解剖学: 目と脳をみがく絵画教室』には、著者が母校に戻って授業をするという内容が書かれています。著書のなかに「魚を描いてください」というシーンがあるんですが、子どもたちはみんな一様に左を向いた横から見た魚を描くんですね。次の日、近くの川に釣りに行ってヘラブナ釣りをして、そして釣った魚を解剖させます。最後にもう一度魚の絵を描いてもらうと、みんな各個人が思い思いの魚を描くんですよ。ある子は魚の正面を捉えていたり、解剖のことを細かに描いていたり、泳いでいる魚を描いたり。いままで平面に捉えた魚しか描いてなかったのが、釣りや解剖を経験すると新しい視点が加わるんです。布施さんは「優れた芸術家は自然から学ぶ」と言っています。

『MilK JAPON』編集長の星本和容

そしてもうひとつの推薦図書『こどもたちが学校をつくる』という本には、小学校5年生の子どもたちが校舎をつくるプロジェクトが書かれています。建築をつくるには、まず土地を決めてデザインし、構造計算をしてそれに合う材を選んで、その材を手に入れるために業者と交渉し話し合うといった工程を経て建てていく--。

そこには、サイエンス、テクノロジー、エンジニアリングなどいろんな要素があり、そのなかには子どもたちが惹かれ合うポイントがあるんです。サイエンスにもアート的な要素がありますし、実は全部繋がっている。アートという言葉を表層的に捉えるよりも「自分なりの美意識を持ちましょう」というのが適切な表現かもしれません。

松本:いまのお話で共通すると思ったのが、世界的に注目され始めているテーマ「ワンネス」です。禅の「一如」という発想から世界に広まった言葉で、要するに、“ひとつ”。子どもたちの主体的学びも大事ですが、同時に社会がどうあるかという点で、教養自体もエコシステムが唱えられ始めています。学校で勉強を教えられることも大事だけど、友だちや先生、社会との関係性を考えるにあたって、「ワンネス」というテーマで教育をマクロに見ることも求められていると思います。

例えばさっき轟さんの話にあったオレンジのプロジェクト。アイデア自体はすばらしいと思いますが、実際に色や匂いをどう表現するか。アートの分野は、複数の感覚を使って理解することが大事にされているんですよね。要は、オレンジの変化を知識としてインプットするのではなく、感覚的に体感するための方法を総合的に考え、ミクロの視点でワンネスをやっているということなんです。

オレンジの変化を感覚的に体感するプロジェクト

轟:本当におっしゃる通りで、五感を使って学び取るというところですよね。子どもの学びは個々でまったく違っているし、正解がないぶん全てが正しい。だからこそ、教育者がそれぞれの個性をいかに導き出せるか。私たちができることは環境設定だけで、あとは子ども自身が自らの体験を通じて熱狂するものを見つけられるか。そういった熱狂するポイントや没頭力が全てその子のスキルセットとして大人になったときに繋がっていくんですよね。やり遂げる力、何かをやり抜く力。これがアートを身に付けた結果に繋がっていくので、アートと学びは本当に切り離せないと思います。

松本理寿輝さんと轟麻衣子さん

企業×幼児教育を礎につくる、ひらかれた街

星本:ここまで子どもへのアート教育という視点でお話いただきましたが、今日の来場者は大人なので、企業や大人がどうアートを取り入れたらいいのか?ということを、事例を踏まえてご説明していただけたらと思います。

轟:こちらは、今年8月にオープンしたヤマハの事業所内保育所で、私たちが手掛けています。保護者さまがヤマハに勤めている方々なので、音楽や芸術に対する想いがすごく感じとれる園になっています。クラス名が楽器名になっていて、各教室にはその楽器が置いてあります。子どもたちはそれを保育士と一緒に触ったり演奏したりする。先ほど申し上げましたが、モノには命を吹き込まないといけない。楽器に触れるということがモノに対する子どもと保育士・教育者の関わり方なんです。

ヤマハ事業所内保育所

園庭もすごくこだわっていて、ベランダが鍵盤状になっています。私は「この鍵盤を踏み込んだら音が鳴るのかな」と思ったんですが、「子どもが鍵盤を踏むと、後ろで保育士がいろんな音を立ててみる。すると、『こんな音が鳴るの?』といった遊び方ができるんです。子どもの発想も絡めて学びに繋げていく。そういう土台づくりを大事にしています」というお話をされていました。

ヤマハのブランド価値そのものが入り込んだ園をヤマハ勤めの保護者と一体になって進めていく。そうすると、音楽に触れる環境が子どもにとって当たり前の世界になっていきます。音楽家の子が音楽家になりやすいように、何に触れて育ってきたか、自分にとって何が当たり前なのかは、子どもの将来の選択肢のひとつとして強く出る傾向があります。

ヤマハ事業所内保育所

星本:僕の周りでいうと、うちの奥さんも働いているし『MilK JAPON』会員もほぼ半数が共働き。女性が当然のように働く環境下で、事業所内保育所の可能性を含め、企業としてやる余地は多いにあると思います。CSR活動としても事業内保育園をつくることによって良い人材が集まることもあると思いますし、ポピンズとヤマハの事例を見て、子どもだけじゃなく親と今後入社する社員のためをすごく思ってつくっている、企業とアート教育の関係としてすごく良い事例だと思いました。

轟:いままでの保育園は「子どもたちを集める場」という立ち位置でしたが、私たちは絶対にそうではいけないと思っていて。「こういう園だったら通わせたい!」と思っていただけるような園であるべきですし、保育というよりも乳幼児教育という立ち位置で取り組んでいます。松本さんのところも同じような視点でやっているんじゃないでしょうか。

松本理寿輝さんと轟麻衣子さん

松本:私たちも保育・教育の場のデザインコンサルティング業として企業といくつかタイアップしています。これはTBSテレビと博報堂、博報堂DYメディアパートナーズの3社がつくった「はなさかす保育園」。私たちが企業と一緒につくる保育園としては、必ず「も」っていうのがテーマになっています。会社も地域も子どもも社員の方も、関わる全ての人がハッピーになるような仕組みを考えて、それを企業のブランド価値にも寄与して、サービスにも繋げていく。そういう総合的なことをいろいろと探っています。

タジリ:大人も子どもから学ぶことがあるわけですね。山口周さんの『世界のエリートはなぜ「美意識」を鍛えるのか? 経営における「アート」と「サイエンス」』に、最近の研修プログラムではベースとしてあるMBA(経営学修士)にプラスして、美意識を鍛えるために世界のビジネスマンが美術館やギャラリーに行き、そこでちゃんと美術を学ぶというのが組み込まれていると書かれていました。日本でもまちの保育園やポピンズのような取り組みが大人向けの研修プログラムとして活用されるんじゃないかと思います。

「H」編集長タジリケイスケ
「H」編集長タジリケイスケ

轟:私はよく保護者さまに子育てについてのご相談を受けることがありますが、ときには「できるだけほっといてあげてください」と言います。教育者しかり、自分は教える立場にあると勘違いしてしまいますが、私たちは学びをファシリテートしたりサポートしたり、発見の底上げをしてあげる存在だと思うんです。子どもたちは主体的に自分が情熱を燃やせるものを見つけていきます。見つけたものをきちんと見極めてあげて、どう深掘りできるかを伝える。それが先生の本当の役目だと思います。言ってみれば、“ティチャー”よりも“ファシリテーター”。そこの役割がすごく大切な気がしています。

松本:例えば、沖縄へ行ったとき、私は東京の海と比較してきれいな沖縄の海に目を奪われていましたが、子どもは「わぁ、空がきれい」と言ったんです。見えているものをそのまま評価することはとても大事なアートやデザインの思考ですが、子どもはそれをもともと持っているんです。子どもたちは学びのプロなので、知っていることや出会ったことを組み合わせて仮説を立てる能力が優れているんですね。そういう意味で、私たちが発見することもたくさんあるわけなんです。

星本和容、松本理寿輝さん、轟麻衣子さん、田中愛子

轟:ポピンズの園ではすべての園で「See/Think/Wonder」という3つの軸を持つドキュメンテーションを保育士が付けています。「See=観察」は、教育者の目線で何が起こっているのかを観察すること。「Think=考える」は観察したものに対してどういう学びが起こったのか、どういう想いでやっているのかを考えること。そして最後の「Wonder=想像」はこれからこれがどのように発展していくのか想像することです。

ポピンズの園

例えば0〜2歳児のアートの授業でも日本の保護者は「完成品」を見たがる傾向がありますが、完成品ではないもののなかにはいろんな学びや美しさがあるんです。子どもの構想や発見に対してそれをきちんと説明をすることによって、子どもはこんなこともできるんだというのが分かるようになる。学びや発達の度合いを可視化してあげることがすごく大事な側面なんだと思います。

一流や本物を五感で感じて、感動のタネを見つける

タジリ:イエローコーナーでは、アート思考をベースにした取り組みをしているなかで、その効果やエビデンスも重要になってくると思います。田中さんからその点についてお話いただければと思います。

田中:生活空間や教育施設にアートフォトを取り入れる活動の他にイエローコーナーが力を入れているのが、オフィス空間や病院にアートフォトを導入する取り組みです。

北海道病院

いま、北海道の病院でやっている取り組みがあるんですが、病院という不特定多数のさまざまな感情を抱いた人たちが行き来している場所でどういったアート作品が好まれるのか、エビデンスを取る試みを始めました。これが今後どういう結果を生むかは未知数ですが、やはりきちんとエビデンスをとった上で、アートフォトの良さを日本の市場でオススメしていきたいと思っています。

轟麻衣子さん、田中愛子

星本:なかなかそのあたりが難しい取り組みですよね。例えば、ポピンズに通った子どもたちが大人になったときにどうなっているかは、なかなかエビデンスが取れない。難しさはあるけれど、やる意義はすごくあると思っています。

田中:いままではふんわり「アートって必要ですよね?」というようなことを多くの方が言っていましたが、導入するときに「数字としてこういう結果が出ています」ときちんとわれわれが説明できることが、企業の判断の手助けになればと思っています。

星本:ひとつ僕から質問してもいいですか? 松本さんも轟さんもいろんな企業とコラボレーションをされていますが、エビデンスで言うところの具体的な数値や効果が導き出しにくいなかで、どういった手法で説得されているのでしょうか?

星本和容、松本理寿輝さん、轟麻衣子さん、田中愛子

松本:頭よりも心で分かってもらうようにしています。つまり、体験してもらって巻き込むんです。もちろん、将来的に理想を叶えるためにはエビデンスが必要になってくるかもしれませんが、実際に子どもと関わってその豊かさを感じてもらうとか、子どもがひとつ行動したときに「こういう意味があるんですよ」ということを一緒に語っていくと、「深いな」、「おもしろい」となっていくと思います。

今日の話で私が思うのは、何かの深い経験は他の深さに繋がるということ。まんべんなくたくさんのことを学ぶよりも、夢中になれる何かに子どもたちが出会うことを私たちが応援するのが大事だと思うんです。それをアート思考に結び付けるといろいろ発見することも多くて、やはり子どもたちの創造性の高さのファンになってしまう。大人から子どもに手渡していくよりも、子どもと一緒に考えてつくっていく環境に繋げるのが良いと思います。

轟:アートがある空間づくりは、美しいものへの出会いを親や周りの大人がつくってあげるという環境設定ですよね。アート、音楽、芸術、なんでもいいですが、五感を通じてそのなかで一流や本物に触れ感動のタネを見つけられる、そういう空間がすごく大切だと思うので、ぜひ美しいものとの出会いをもっともっとつくっていっていただければと思います。

星本:大人も子どもも関係なく、さまざまなかたちで多くを学ぶ体験が、アートをきっかけに今後増えていくのではないでしょうか。皆さん、本日はありがとうございました。

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