ユーザーが求めているのは「人との関わり」―スノーピークに学ぶ、コミュニティの本質

「人生に野遊びを」をテーマに掲げ、キャンプ・アパレルを中心にハイスペックな製品を通じた感動体験を提供するアウトドアブランド・Snow Peak(スノーピーク)。
 
企業とユーザーとのコミュニケーション方法が「マス広告」から「双方向のコミュニケーション」へと変化している昨今ですが、実はスノーピークでは、20年以上も前から、ユーザーとのコミュニティ形成に取り組んでいたそう。
 
実は、ほとんど広告を打っていないにも関わらず、売り上げは右肩上がりを続けるスノーピークに、ユーザーコミュニティが生まれるまでのお話と、そのコミュニティが事業に与えたインパクトについて、スノーピーク 山井氏にインタビューをさせていただきました。

スノーピークがコミュニティの大切さに気付いたきっかけ

ースノーピークでは現在、どのようにユーザーとのコミュニティを形成されているのですか?
 
現在は年に20回ほど、社長や私含め役員・スタッフとユーザーが一緒にキャンプをする「Snow Peak Way」というイベントの他、「雪峰祭」という地域のみなさまに感謝を伝えるイベントを年に2回行っています。飲食など地域の事業者のみなさんに出店いただき飲食やワークショップのブースを出したり、スノーピークのアウトレット販売をしたり、そのほか餅つきや獅子舞を出したりして楽しむお祭りです。

ありがたいことに、キャンプイベントは毎回3倍もの倍率になる会場もあり、本社「Headquarters」で行ったお祭りには今年、過去最高の6500人もの方々にご来場いただき、年々盛況になってきています。
 
ー6500人はすごいですね。 スノーピークが最初に、コミュニティ形成の大切さに気付いたきっかけは何だったのですか?
 
1998年に、当時働いていた若手スタッフが「直接ユーザーと繋がれるキャンプイベントをやりたい」と自発的に始めたことがきっかけです。
 
ちょうど先代から代替わりし、今の社長がキャンプビジネスを始めて、4期連続で売上を落としてしまった時期でした。当時はスノーピークのスタッフとユーザーが直接繋がれるような直営店もなく、そこが売上減少の本質的な要因として問題視されていたのです。
 
それに、事業目的として「人と自然をつなげ、人と人をつなげる」ことを掲げていたからこそ、我々もユーザーと繋がるのが大事だと考えました。
 
それから20年間イベントを続けてきて、現在では我々とユーザーだけではなく、ユーザー同士も繋がれるようなイベントになってきています。
 
ーなるほど、人との繋がりを大切にするスノーピークさんの企業理念と、その施策がマッチしていたんですね。

ユーザーと繋がることの本当の価値とは

ーちなみに、イベントははじめからうまく行っていたのでしょうか?
 
いえ、全然です。当時はスノーピークと言えば「知る人ぞ知る、超ニッチなアウトドアブランド」で、本当に熱狂的なユーザーしかいませんでした。キャンプイベントをはじめた当初は参加者が20〜30組いるかいないかで、イベント運営も赤字だったかと思います。
 
ーそんな中でも根気よく続けられたのは、なぜですか?
 
それは、ユーザーと繋がることが、短期的な売上以上に価値のあるものだったからです。スノーピークには「自らもユーザーであるという立場で考える」という企業理念があるのですが、イベントを通じてユーザーと繋がることが、「製品開発」にダイレクトに活かされているんですよ。
 
イベントの中では、ユーザーから直々に製品のフィードバックをいただいていて、製品や店頭のサービスに対してお叱りを受けることもあります。
 
ーイベントでは「フィードバック会」のような時間が設けられているんですか?
 
それが、自然とそういう話になっていくんですよね。キャンプ場を歩いていると、声をかけられて、雑談から始まり、「この商品はどうして作ったの?」「これがこうなったら良いのに」というような話になって盛り上がります。
 
本当にいろんな意見をいただいていて、それを踏襲してアウトプットできるのが会社の強みですし、ユーザーからしても「好きなブランドが自分の意見を聞いてくれる」機会があり、それを製品にアウトプットしてもらえることは、価値のあることだと思います。
 
ーユーザーも「一緒にブランドを作っている」というような感覚になれるんですね。

一方的な広告がユーザーに響かなくなっている理由

ーその「Snow Peak Way」や「雪峰祭」のイベント告知はどこで行っているのですか?
 
実は、自社ホームページに載せているだけなんですよ。
 
ーえっ! …では、ユーザーが自発的に見に来るのですか?
 
スノーピークではイベントや製品を含め、広告を打っていません。年度計画でも「広告宣伝費」ではなく「イベント運営費」となっています。
 
もちろん、我々にもブランドを認知してもらいたいとは思いますが、広告にお金を使うのならば、我々の製品を愛しているユーザーに還元しようという気持ちがあります。
 
これは、「マーケティングアドバタイズメント」の新しい形だと思います。
 
ー現在、「広告」という手法がユーザーに響かなくなってきているなか、その方向性はかなり本質的だと思います。
 
そうですね、企業が一方的に出す情報と消費者の欲求とのあいだにギャップが生じてきているな、と感じています。
 
ありがたいことに現在「キャンプ」そのものの需要が高くなっていますが、それは誰もが「自然とのつながり、人とのつながり」を求めているからだと思います。
 
スノーピークのユーザーは東京や大阪など都心部に住まわれている方が多く、自然環境に触れられない場所で日々ストレスを抱えながら週5日過ごしています。
 
文明が進歩していくにつれて、隣近所が顔見知りで、ご近所さんにお醤油を借りたりするような、根源的な人との繋がりが薄れていっていますよね。
 
その中で、ただ自然のなかで焚火で暖をとって、火が揺れ動くのを見ながら、お酒を飲んで話す、というのは人として根源的なコミュニケーションの形なんだろうなと思います。
 
今、一方的な広告が響かないというのも、ユーザーが求めているのが「潜在的な人との関わり」や「交わること」だからなのかもしれません。

スノーピークが思うコミュニティ形成の「はじめの一歩」

ーこれからは、スノーピークだけではなく、他の企業もコミュニティ形成に着手すると思うのですが、まずは何から始めたらいいのでしょうか?
 
簡単なことではないとは思います。うちも20年かかりましたから(笑)。ただ、私がイベントに参加する中で感じるのは、自分の好きなブランドの「中の人」に会える、というのは我々の予想以上に、ユーザーにとって特別だと感じていただけるということです。
 
たとえば化粧品だったら、自分の愛用しているアイテムがどんなふうに開発されているのかとか、どういう思いで作られているのかを知れるだけでも、価値があると思うんですよね。
 
そしてそれは、ホームページや動画などの間接的コミュケーションではなく、対面で行うことが重要だと思っています。
 
「直接会って話す」というコミュニケーションに勝るものはありませんからね。

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