昨今、マーケティング手法の一つとして”コミュニティ”が注目を集めている。
そんな中、コミュニティを作る上で誰にでも通用するようなメソッドがないのが現状であり、そもそもマーケティングを実践するためのコミュニティとはどのようなものであるべきか、そもそもどうやってコミュニティを形成するのか、というように企業でマーケティングやブランディングに携わる多くの担当者が悩んでいるのではないだろうか。
しかし、”コミュニティ”が自然発生的に形成されている場もある。それは、私たちが友人や家族と日常的に利用しているカフェだ。
そのように人が集まる場にこそ、何かヒントがあるはず。
5月30日に開催された「“コミュニティ”ってなんだろう?カフェ作りから考えるコミュニティ形成」では、すでにコミュニティの場作りを実践しているお二方をお招きし、場作りの考え方や意識して取り組まれていることを伺い、コミュニティ形成のヒントを探った。
ゲストスピーカーは、地域に賑わいを作るカフェの運営や「Dandelion Chocolate(ダンデライオン・チョコレート)」 などクラフトな食のブランドにも携わる株式会社WAT代表取締役 石渡 康嗣氏と、野外フェスなどで行列を作り、北海道産の食材にこだわりあげたてのドーナッツを提供する人気店「ヒグマドーナッツ(HIGUMA Doughnuts)」の代表 春日井 順氏。モデレーターは、株式会社アマナの新居 祐介が務めた。
“カフェ”というオフラインの場を運営されているお二人は、お客様とコミュニケーションを取る上で、SNSなどのオンラインの場をどう活用しているのだろうか。
お二人のお話から見えてきたことは、”まず自分たちが何を伝えたいか”という本質をしっかりと捉えた上で、オンラインのツールを使うべきだということだ。
春日井氏:「僕たちは、”ヒグマドーナッツ”という世界観を大事にしています。その世界観をお客さんに最高の体験として感じてもらいたいんです。それができるのが、オフラインと言われるようなお店でのコミュニケーションですね。たとえオンラインであっても、大事にしている世界観は崩してはいけないと思います。」
石渡氏:「僕も春日井さんの考えに近いところがあります。店頭ではできないことはオンライン上で発信するなど、必要に応じて使い分けることが大事なんだと思います。僕は普段は1人でいたいのですが、自分の身の回りのコミュニティを補完してくれるのがオンラインだと思います。僕の場合は、Facebookかな。」
“コミュニティ”は作るものではなく、自然にできていくもの、という考え方もある。とはいえ、カフェを運営する上ではビジネスとしても成り立たなければ場が成立しない。ビジネスとしても持続的なコミュニティを運営するために意識している事をお話いただいた。
石渡氏:「僕らが運営するカフェの多くは、その地域にすでにあるコミュニティが対象となるので、ある程度マーケットがはっきりしています。まず、その地域の人たちが明日も来てくれるためにはどうしたら良いかを考えると、自ずとアクションが見えてくるんです。このように、その場にある人間関係をどう繋いでいくかを考えることは、コミュニティビルディング(=形成)においてかなり有効だと思います。」
そのためには、店舗で設定したゴールとは別に、その過程としてコミュニティを形作っていく意識をスタッフに持ってもらうことが重要だという。とはいえ、誰もが初めから意識を持てるかといえばそうではない。WATでは、まずはコミュニティに入り込むのが得意な人を見つけ、そこからコミュニティ形成の手法を見出し、マニュアル化を考えているようだ。
一方で、春日井氏はお店に立つスタッフが接客に対して、共通の意識を持てるような言葉を伝えているという。
春日井氏:「僕はスタッフに対して、『お客さんが帰る時に、来た時よりもちょっとハッピーになれていることが僕たちのバリュー』だと伝えています。そうすることで、一つ一つの接客に少し変化が出てきます。ドーナツ一つを渡すにしても、お客さんをハッピーにするためには色々と考えないといけなくて。でも、その繰り返しがお客さんの『またここに来たい』に繋がると思っています。」
“コミュニティマーケティング”と聞くと、コミュニティを形成することが目的になってしまうことが少なくない。あくまでも、お客さんとのコミュニケーションをはかる一つの手法なのだ。
マーケティング手法としての”コミュニティ”をどう考えていけば良いのだろうか。
石渡氏:「僕たちは、ただ目の前にいる一人一人とのコミュニケーションを大切にしてきました。なので、意識的にマーケティングとしてコミュニティを使ったことがないのですが、一つの手段として何かあるような気はしますね。僕に言えることは、本質がしっかりしていて、伝わりやすいものが成功しているように思います。そうすれば、自然と興味を持ってもらえる。」
春日井氏:「そうですね。僕は、自分が好きなものを一生懸命にやっていたらいつの間にか人が集まってくれていた。もちろん店舗を運営する上で売上は大事だけど、純粋な動機を一番に伝えることが大事だと思う。自分は何が好きで、それをどうしたいのか。人はパッションに巻き込まれてくるのだと思います。」
“コミュニティマーケティング”という、顧客との新たなコミュニケーション手段を、企業はこれからどう活用していけば良いのだろうか。
商品やサービスが売れないと思うなら、その響かない何かを考えるべきだと石渡氏は言う。
石渡氏:「僕たちが運営しているカフェでも、全てがうまくいっているとは思っていませんが、うまくいっているものを取りあげると、本質があり、世の中に伝えていきやすい状態になっているように思います。我々のスタンスとしては、世の中に響かないのは方法論の前に、それが薄っぺらいからと考えています。ヒグマドーナッツさんのように、お客様とコミュニケーションを取りながら、商品を練り上げていくのは実に合理的だと思います。本質を磨き上げるための手段としてのコミュニケーション、「温かいお客様」という意味でのコミュニティ感は有効な気がします。」
石渡氏が携わるダンデライオン・チョコレートでは、Bean to Barの世界観や美味しさを深く知ってもらうために、お客様向けにワークショップを実施している。会社全体として見ると、決して利益のあるものではないが、本質を伝えるためには間違いなく必要な手段になっていると言う。
春日井氏:「僕も石渡さんの考えに同感です。そして自分がどういう場に行きたいかということがとても大事だと思うんです。何となくやっているものは響かないし、流行っているものを取り入れたところで持続性がない。自分はどれだけそのことが好きなのか、それをどうしたいのかをもっと考えてほしい。パッションを持って伝えていると、人が面白がってくれて自然にコミュニティができる。それが良い循環になっていくんだと思います。」
インターネットの普及によって、企業と顧客のコミュニケーションが容易になった今、相手に伝える”手段”にばかり意識を向けていなかっただろうか。そんなことに気付かされたイベントだった。
まず私たちが”顧客に伝えたいことは何か”をしっかりと捉えること。そして、その大事にしていることが一番伝わるコミュニケーション方法を考えていきたい。それを繰り返していくうちに、少しずつ興味を集め、共感を生み、コミュニティが形成されていくのだ。
これからコミュニティ作りを始めたいと思っている人にはぜひヒントにしていただきたい。