インナーブランディングの取り組みを社内に定着させるには?

社内に理念を浸透させるための組織をつくり、ワークショップやイベントで盛り上げたところで燃え尽きては意味がありません。浸透しはじめた理念を定着させるためには、企業の日常の中に落とし込む必要があります。

実践は小さくても始めてみる

人は目に見えるものを信用する傾向にあるもの。いくらワークショップやイベントで理念浸透の意義に触れても、会社の仕組みや業務に反映されていない状態では、社員の心は離れていきますせっかく生まれた炎も、フェードアウトして消えていくでしょう。理念を定着させるには、社員一人ひとりが当たり前のように理念にひもづいた思考を持ち、行動を起こせるよう、社風やコーポレート・カルチャーにまで落とし込む必要があります

そのために、理念に基づいた行動を実践するチームを社内につくることもひとつの手。すぐに全社へカルチャーを根付かせるのは難しいですが、少数精鋭ならば浸透は早く進みます。そしてそのメンバーが活躍し、その活動を社内へ伝えていくことで、目指すべき組織のスタイルが目に見えてきます。

すると「なるほど。こういう組織をつくろうとしているのか」「確かにうまくいっているな」「自分たちもあそこに近づきたいな」と、社内全体が少しずつ、確実にそのチームをベンチマークにしはじめます。理想論を伝えるだけでは、多くの社員の共感を生むことは難しいですが、こうした証拠を見せることで、大勢が信用します。その信用は、行動へと変わっていくのです。

評価システムは「加点主義」を取り入れる

褒めることも行動につながるため、理念に即した行動は、評価に反映させるのが最善です。意識したいのは「加点主義」にすること。ビジネスの世界では、シビアな数字を求める結果、成果評価が減点主義になりがちです。

一方で理念に基づくアクションは、一見数字に結びつきづらい評価指標。数字などの目に見える成果を求めるより、社員の提案や行動、成果など、どんなフェーズであっても、理念に基づいたアクションであれば、しっかり加点主義で評価するようにします。学校の通知表でいえば、「生活態度欄」を加えるイメージです。価されたり、褒められることが誘因になるため、スコアが高い人は全社大会などで表彰したり、社内メディアで評価を広く伝えるなど、積極的に伝える努力もしていきます。

理念浸透の進捗をモニタリングして、役員やトップに伝えていく「橋渡し役」も重要です。社内メディアが、理念浸透のために「火を灯し続けている人」「広めている人」などを継続的に報じていくことも、参加者の行動を後押しし、周囲の意識を変え、仲間を増やすことにつながります。

前進し続けるために不可欠なメンテナンス

理念そのものは、変わらずそこにある“道”のようなもの。ブレずに歩み続けていく必要がありますが“道の歩き方”は臨機応変にアップデートさせていく必要があります。世の中の変化のスピードが早く、不安定なだけに、細部は時代に適したカタチへ変容させていくことが不可欠だからです。

そのためにまず効果測定は欠かさず実施します。プロジェクト実施前のアンケート調査で「理念へ共感しているものの、行動に移せていない」と答えた社員が多い場合、理念へ共感し、行動へ移す社員の数をKPIに設定して、半年後や1年後に、数値の変化を見ていきます。効果があればその施策を磨き上げ、なかったら改善策を考えましょう。

中心となる運営チームのメンバーや、社内へ伝播する存在のアンバサダーの変更も視野に入れておきます。なぜなら通常業務とのバランスの問題から、途中で離脱せざるを得ない参加者がいるからです。都度フォローできるような体制づくり、気軽に相談できるような人材の配備や会議体をつくっておくといいでしょう。

【まとめ】インナーブランディングにはゴールなどない

一過性の施策ではなく、改善しながら長く続けていくことで、企業文化として定着させていくべき理念浸透の取り組み。体制や仕組みづくりも含め、企業に合った形で継続できる形を模索していきましょう。

理念を共有して、走り続けられるチームになる、それがインナーブランディングの最大の目的。そのため、理念浸透にゴールはありません。ゴールのない取り組みですが、スタートしない限り、何も変わらないのです。

インタビュー・文/箱田高樹 デザイン/下出聖子(amana design studios)イラスト/諸橋南帆(amana)

メンバープロフィール

 森川 綵

  株式会社アマナ ブランド戦略室 ブランドストラテジーディレクター

マネジメントコンサルを経て、ブランドコンサルティングに従事して20年以上。企業CI、事業ブランド化、サービス開発、店舗ブランド開発など多様なブランディングを経験。戦略的クリエイティブで企業の進化や変革の支援を目指す。

メンバープロフィール

 村上 英司

  株式会社アマナ クリエイティブディレクター

グラフィックデザイナー、Webディレクター、インタラクティブプランナーを経て、現職。企業のインナーからアウターブランディングを中心に、デジタルプロモーション、イベント開発や店舗制作などコンテンツ制作を通して、多角的なブランド開発を行う。

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