写真を介した地域ブランディングを、長野県御代田町から考える

キム・カンヒ「Street Errands」。

長野県御代田町で開催中の「浅間国際フォトフェスティバル」。日本では珍しい、屋外型の写真展です。地方自治体がこのようなイベントを行うことについて、地域ブランディングとして期待する効果、今後の方向性などを御代田町長・小園拓志さんに伺いました。

さまざまな形で見せる「浅間国際フォトフェスティバル」

──「浅間国際フォトフェスティバル」は、昨年のプレ開催を経て今年が第1回の本格開催となりました。メイン会場となるPHOTO MIYOTAは、御代田(みよた)写真美術館(MMoP:旧メルシャン軽井沢美術館)を中心に御代田町全域にアート写真が展示されています。

実際に展示をご覧になってみて、どのような感想をお持ちになりましたか。

小園拓志さん(以下、小園。敬称略):とてつもない規模感になったな、と思いました。たとえば会場に入って正面の展示棟の中に、シャルル・フレジェの作品が約150点展示されています。この一つの建物だけで一つの展覧会として機能している。会場全体で、そういった作品群がいくつも折り重なってくるような量が展示されているわけです。アートにおいて量の話をするのは野暮かもしれませんが、実際にすごいことになったなと。

それと、写真の表現の多様さも興味深いですね。巨大な暖簾(のれん)が木々の間に垂れ下がっていてそこに写真がプリントされていたり、モグラ叩きのように顔を出して写真と人間が一体化するような効果を狙ったり。「五感で楽しむ」というのが単なる掛け声ではなく、具体的な形を結んでいるのがPHOTO MIYOTAの魅力になっていると思います。

御代田町長・小園拓志

<PROFILE>小園拓志|Hiroshi Kozono 御代田町長。1977年北海道生まれ。東京大学法学部卒業後、北海道新聞社に入社。本社編集本部、報道センター、経営企画局で新聞製作の仕事に携わる。2017年、株式会社HandMadeに入社。2018年に退職し、家族で長野県御代田町に移住。2019年2月から現職。

 

──展示されている写真の量、多様性が増えたということでしょうか。

小園:多様な見せ方がされていますし、奈良原一高のようないわゆる著名な作家の作品もあれば、海外では知られているけど日本ではまだなじみのない作家の作品もあって、作家の多様性もあります。一日で見て回るには、ちょっと時間が足りないかもしれません。

浅間国際フォトフェスティバル

シャルル・フレジェ「CIMARRON(シマロン)」。

浅間国際フォトフェスティバル

キム・カンヒ「Street Errands」。

 

浅間国際フォトフェスティバル

ウィージー「Coney Island」。

 

国際的なイベント開催も、地元マーケティングに難あり

──御代田町の皆さんの反応はいかがでしょうか。

小園:PHOTO MIYOTAには、町民527人を被写体にした、全長110mくらいの写真が会場に展示されています。これは町民参加の観点で大変大きな効果がありました。プロのモデルさんのように扱ってもらって、プロのカメラマンに写真を撮ってもらう。それが貼り出されているわけですから、自分が、家族が、知っている人が写っているかなと、町の人が足を運ぶきっかけになっています。

私は今年2月の選挙で町長になってすぐ、浅間国際フォトフェスティバルの実行委員をしているアマナの担当者に話しました。地域に溶け込む努力をしてほしい、と。

どれだけいいことをやっても、マーケティングが弱かったらダメなんです。プレ開催だった昨年は、そのマーケティングが、特に地元マーケティングに難があったと感じました。それは今年になって改善しているとはまだ言いがたく、外向けの発信が型通りのことしかできていません。自分もSNSで自発的に発信していますが、それでもまだ足りないし、町役場もアマナも地元マーケティングに課題があります。

少なくとも今回、町民527人に関わってもらったことで、町から非常にポジティブな反応がありました。また、町の18区域全部に、暖簾の形の写真展示を点在させました。スタンプラリーのように回ってもらえればという意図もありますし、写真がプリントされた暖簾をくぐることでメイン会場に行くきっかけをつくりだせるとも考えました。

外から来た人が町を巡るきっかけ、町の中に住んでいる人がメイン会場に足を運ぶきっかけの両方をつくり、その相乗効果でもっと好意的な反応が出てくるのではと思います。

浅間国際フォトフェスティバル

結果的に町民527人が撮影された、500 PORTRAITS。

御代田町長・小園拓志

御代田中学校3年生の作品の前で。

浅間国際フォトフェスティバル

サイアノプリント(青写真)で作られた、御代田南小学校5年生、御代田北小学校6年生の作品。

 

──地元マーケティングを意識したということですね。

小園:こうしたイベントに否定的な人もいます。少なくとも昨年の「浅間国際フォトフェスティバル」のプレ開催については、町民と関わりの薄い感じになってしまいました。BtoCのコミュニケーションがなくて町民への働きかけが大変弱く、フォトフェスに対してとても厳しい意見を持っている町民も少なくありませんでした。

今回は町民の参加のほかに、地元の小・中学生への写真講座やその作品展示などもあり、肯定的な反応が多くなっている感覚があります。

──イベントへの参加を促したのがよかったということですね。いわゆる「自分ゴト化」ということでしょうか。

小園:そうですね。フォトフェスが始まる前に町民とフォトフェスに参加する作家との前夜祭を行いましたが、これも私が強く希望したこと。作家と町民が知り合い、友人関係になってほしい、という思いがありました。どれだけ有名な人が来ても関心や興味がなければ人は動きません。でも友達が来たら、「じゃあ行ってみようか」となる。親近感が湧くんです。町の人がつい自慢したくなるようなイベントにするには、双方の距離を近づけることが大事です。

浅間国際フォトフェスティバル

ダニエル・ゴードン「VARIOUS」。

浅間国際フォトフェスティバル

畑直幸「Rayleigh」。

 

地域ブランディングでは何を大事にしたらいい?

──地域ブランディングで大事なことは何でしょうか。「町おこし」にも通じるかと思いますが。

小園:個人的には、「町おこし」という言葉の使い方が好きではありません。新しいことをするのもいいのですが、今ある価値を見直してそれを2割くらいいい方向に伸ばしていく。これが今の御代田町にとって必要なことで、「おこす」のとはちょっと違います。

現段階で大事なことは、今の町のありようをきちんと伝えることです。実は、町の人ですら気づいていない魅力がたくさんあるはず。御代田町は、軽井沢町、小諸市、佐久市に近くて便利ですが、町自体に買い物をする場所があまりありません。でもそれがいいのです。「スーパーベッドタウン」として、町がベッドタウンの機能に特化していくことが一つの答えになるのかもしれません。

──フォトフェスは地域ブランディングに役立つのでしょうか。

小園:地域ブランディングは短期、中期、長期で見るべき点が異なり、フォトフェスのあり方は長期で考えたほうがいいです。それこそ100年くらいの単位で。

となると、第1回を迎えたばかりの「浅間国際フォトフェスティバル」は、まだ生まれる前の状態と言ってもいいかもしれません。形が定まるまでは15年くらいはかかるかもしれないし、かかっていいのだと思います。

御代田町長・小園拓志

──フォトフェスが地域ブランディングとしての効果をもたらすために、今後どんなマーケティングが必要でしょうか。

小園:やっていることはスゴイことなので、それを正しく伝える必要があります。それも、文字の力をもっと使ったほうがいいでしょう。

フォトフェスに関して言えば、主催する側はBtoCの感覚が絶対に必要で、どうすれば町民が喜ぶのかを常に考えていなくてはならないし、それを最大公約数にするための言葉を見つける努力をしてほしいと思っています。

キレイなものを作るのはいいけど、それを愛する人がいなくてはなりません。町や地域性の関わりの中でどうするかが重要になりますし、それを正しく伝える、ということが大切です。

写真は、人を集めるツールになれます。フォトフェスについては、長くやっていれば文化になるし、また文化として定着するでしょう。それが御代田町のブランディングにつながるように、まだまだやることがたくさんありますね。

まとめ

日本にあまり例のない、屋外型展示のフォトフェスティバルを開催している御代田町。地域ブランディングとしてイベントをどううまく活用するか、その鍵はまさに地元マーケティングにあります。

ただ税収が増えればいいという考え方とは違い、その地にいかに文化を根付かせるか、そのための長期的視点を持つことが地域ブランディングには必要なのです。

撮影:高橋草元(アマナ)

KEYWORDキーワード

本サイトではユーザーの利便性向上のためCookieを使用してサービスを提供しています。詳しくはCookieポリシーをご覧ください。

閉じる