企業やサービスとそのファンを結び、新たな価値を共創する場として注目を集める“コミュニティ”。先日、コワーキングスペース・WeWork GINZA SIXにて、先駆的にコミュニティ運営に取り組む方々をゲストに迎え、トークセッションを開催しました。
2019年1月16日(水)に、WeWork GINZA SIXで開催されたトークイベント「コミュニティから生まれるイノベーションの可能性」。株式会社カヤックの佐藤純一さん、株式会社コルクの佐渡島庸平さん、WeWorkJapan合同会社の治田耕一さんの3名が登壇されました。
カヤックは、Webテクノロジーを駆使した広告制作で知られていますが、本社を置く鎌倉にて地域コミュニティに入り込み、商店街の中にオフィスを点在させて有機的につながるまちづくりをしています。2013年、同じように鎌倉に拠点を置く企業と共に、鎌倉をよくするためのアイデアを持ち寄るコミュニティ「カマコン」をスタート。鎌倉で働く人のための「まちの社員食堂」や、「まちの保育園 鎌倉」、鎌倉の企業同士が協力して地域で人財を採用する活動「まちの人事部」など、地域の関わりを増やす活動を続け、2018年11月に出版された『鎌倉資本主義』(柳澤大輔著/プレジデント社)も話題になりました。
コルクは、クリエイターのためのエージェント会社。クリエイターと共に作品をつくり、そこから生まれる世界観を丁寧なコミュニケーションで“刺さる”コミュニティに浸透させることで作品とファンを結び、数々のヒット作を生んでいます。さらに、コミュニティ「コルクラボ」の運営も手がけ、いわばコミュニティの実験場として、メンバー同士が交流し合いながらともに挑戦する足場づくりをしています。
コミュニティ型ワークスペースを提供するWeWorkは、2010年にニューヨークで創業、日本では2018年2月から事業を展開しています。クリエイティブでデザイン性あふれるワーキングスペースの中で、日々コミュニティイベントを開催し、入居者同士や内外のゆるやかなつながりの中でビジネスマッチングの機会を提供。東京だけでなく、横浜、大阪、福岡にも展開し、現在国内に16の拠点を運営しています。
企業の顧客コミュニケーション支援の一環として、アマナでもコミュニティ運営支援サービス「POOL」のサービスを2018年8月に開始しましたが、コミュニティマーケティングが注目を集めるのに先駆けて、早々に取組みをはじめていた各社。コミュニティというキーワードにたどり着いた経緯や、こうして今注目を集めている背景など、アマナでコミュニティマーケティングを担当している新居祐介がお話を伺いました。
佐藤純一さん(カヤック/以下、佐藤。敬称略):職住近接、つまり「住んでいるところと働くところが近いことはそれだけで幸せである」というのが僕らの基本的な考えです。働きやすい、住みやすい地域や環境を作っていくという意味では、つながっていくことはすごく大事。なじみのお店ができたり、商店街の方とちょっとした挨拶ができたりするのは嬉しいし、仲がいいのは楽しい。カヤック社員の平均年齢は29歳。若い社員が多い中で、仕事自体のチームワーキングだけでなく、地域全体がオーガニックにつながっていくことも体験してほしいなと思っています。
僕らが地域コミュニティの一員としてやっているのは、「地域の中に“関わりしろ”を提供する」ということ。自分たちの余白を何らかの関わりしろとして地域に提供し、地域の人たちに使ってもらう。逆に地域の人の中に関わりしろを用意してもらえれば僕らは喜んで伝えます、という関係性。そうして人が集まりながら、関わりしろにあふれるような地域やオフィスをデザインしていくのは大事だと考えています。
佐渡島庸平さん(コルク/以下、佐渡島。敬称略):コミュニティという言葉自体は新しいものでも何でもなくて、単に“目立ってきた”ということだと思います。技術が未熟だった時代は、効率を高めるには人が技術のほうに合わせるしかなくて、時には生き方を我慢せざるを得ないこともあった。ところが、人間中心主義の、人の感情を大切にする社会に変化してきている中で、「あなたのやりたいことは何ですか?」と社会全体で聞かれるようになってきている。だから、感情を伝播し合っているものが目立つようになってきた、ということだと思うんです。
――佐渡島さんは、テクノロジーの進化によるコミュニケーションのあり方の変化に伴って、人間同士の距離を縮めるのにかかる時間も変わってきていると言います。
佐渡島:今はslackやLINEなど短文主義の中で、遠い人とも気軽に頻繁にコミュニケーションをとれる時代。昔は近況報告から始まっていた同窓会も、今はSNSのタイムラインで見たものについて、「あれってどういうこと?」と聞くところから会話が始まったりする。コルクラボのイベントでも、200人全員が1度にお互いを知ることは難しいですが、オンラインで「よくあの発言をしている○○さん」と認識している状態から実際に対面で会うと、その後の人間関係がスムーズにいきやすいように思います。
基本的に、これからすべての出会いはオンライン先行だと思います。リアルに会うことのコストを考えると、TwitterやInstargamで何千人という人をフォローして、その中からわざわざ会いたい人は誰かを決めていく、そういう流れになるのではないでしょうか。
――人が集い共創していく場としてのコミュニティを活性化させるコツはどこにあるのでしょうか。佐藤さんの言葉を借りれば、活性化とは、「仲よくなって、熱量があがり、関わり代が多くなっていく」こと。それをどう設計していくかがコミュニティ運営の鍵を握ります。
佐藤:何らかの共通性や共感性をもちながら、何かを一緒にやっていくことで人はつながっていくので、「どう一緒にやるかを組み立てる」という話になります。カマコンの場合は、ブレストを通じてジブンゴトにしていくというプロセスを大事にしています。集まって何かを一緒にやっていくうちに、その人を属性的に見ることを超えて、その人との関係性が大切になる瞬間ってあると思うんですよ。そういった、仕事とボランティアの間をつくる段階を設計していくのは、1つの方法かなと思います。
佐渡島:履歴書に書くのは、「doの肩書」。これは常に自分が役に立つことを証明し続けなければいけないので、すごく疲れるんですね。一方、「beの肩書」は、「どういう状態なのか」「どういうことが好きなのか」を示すもの。同じ職業でも「beの肩書」次第では全然違った人物像が浮かび上がってきます。自分と他人のdoとbeを知ることでコミュニケーションがとりやすくなるんですね。「beの肩書き」という本が出ているんですが、コルクラボではこれを使ってお互いのdoとbeを知るワークショップをやったりしています。
治田耕一さん(WeWork Japan/以下、治田。敬称略):WeWorkでは日々コミュニティイベントをやっているのですが、今日のようなスピーカーセッションもあれば、またあるときはワインのイベントなどもやりながら、ビジネスの分野関係なく交流できる場面を並行して作っています。そういった雑多性や偶然のきっかけがあると、より幅のあるコミュニティができていくように思いますね。WeWorkは、よく“リアル版のソーシャルネットワーク”と形容されますが、会って話をして柔らかな関係性を作ることがオンラインのアクティベーションになる、という意味ではうまく機能していると思います。
佐渡島:そうですね。よく、「オフラインなのかオンラインなのか」という二項対立型になりがちですが、オフラインとオンラインをどういう順番で組み合わせながら共同作業を継続していけるか、というところの設計が、長期的な関係性を築く鍵を握っているように思います。
――最後に、コミュニティビジネスの今後の展望について伺います。
佐藤:最近になって、「コミュニティ」「コミュニティマネジメント」といった話題をよく耳にするようになりました。この雰囲気はとてもいいことだと思うけど、次のステップを考えたときに「コミュニティ」という言葉の使われ方の幅が広すぎる感じがあるので、「自分たちが目指すコミュニティとは何か」というところを突き詰めて考えるようになっていけばいいなと考えています。
佐渡島:人は、ピンポイントで細かい話ができる人ほど親近感を覚えやすいところがあります。ワインもそうだし、釣り仲間とかゴルフ仲間は、そこでしかできない話がある。会社仲間が仲よくなりやすいのも、会社でしか通じない細かい話ができるからですよね。部署が違ったりプロジェクトで一緒になったりしないと、同じ会社にいても仲よくなりにくい。その「細かい話を、誰と誰ができるのか」というところをサポートするようなツールが開発されたり、AIでマッチングを促されたりといったことが今後どれぐらい出てくるか。そこが人間関係のあり方を変えるだろうなと思っています。そういった、人の感情や思いをサポートする新しいサービスを見つけたところが、今後のコミュニティビジネスを制するんじゃないでしょうか。
治田:「コミュニティとは何か」と考えるととても難しいんですが、情報化社会になる前の時代の歴史に学ぶところがたくさんあるのではないかと思って、最近歴史を勉強し始めています。今、現実世界に何が起きているのかに気づけることは非常に重要で、この「気づきの交差点」のためのプラットフォームやツールが出てくると、コミュニティはもっと面白くなるんじゃないかなと思っています。
――人と人のつながりに行き着く、そういう根源的なところは変わらないけど、技術によって何か違う広がりができるんじゃないかということですね。これからの展開が楽しみです。
撮影:芦埜翔太(UN)