広告やプロモーション分野で重要なのが、CGを活用したVR・ARコンテンツ。特に、瞬時にリアルなイメージを作れる「リアルタイムレンダリング」は、動画を短期間で仕上げられるとして注目が高まっています。アマナデジタルイメージングのコンテンツ制作チームに、テクノロジーライターの大谷和利さんが話を聞きました。
CGを活用したVR・ARコンテンツは、広告やプロモーションなどの分野で近年、特に重要性が高まっています。それを支える技術の中でも特筆すべきは、モデリングされたデータを進化させたコンピュータのグラフィック能力を利用して、瞬時にリアルなイメージへと昇華させる「リアルタイムレンダリング」です。
このような先端的手法を駆使して、注目のコンテンツを世に送り出しているのが、アマナデジタルイメージングのCGコンテンツ制作チーム。坂本直樹、上見佳史、横尾達也、増田啓人の4名に、 テクノロジーライターの大谷和利さんがインタビューを行いました。
大谷和利さん(以下、大谷。敬称略):ひと口にコンピュータグラフィックスといっても、精緻なリアルさを追求した写真のような静止画イメージもあれば、スピード感やビジュアル的なインパクトを重視するゲーム用の動画もありますが、リアルタイムレンダリングとはどのような技術なのでしょうか?
坂本直樹(以下、坂本):元々私は広告向けの映像制作をメインに手がけていたのですが、広告の世界では即時性よりも画質が重視される傾向にあり、CGを使う場合にもプリレンダリング、つまり事前に時間をかけてコンピュータに描画させるスタイルがメインでした。ところが、2、3年前からVR関連の案件が増え始めました。お客様も単に見るだけの映像には飽き始めて、体験型のコンテンツを求める声が大きくなってきたと言えます。それを実現する技術が、リアルタイムレンダリングなのです。
大谷:VRコンテンツでも、単に周囲を見回すだけならばプリレンダリングされたCG画像も利用できると思いますが、体験型でインタラクティブに動かすとなると、ユーザーの操作に応じて、コンピュータがその場で描画を行う必要が出てきますね。つまり、リアルタイムレンダリングとは「モデリングされたデータから、瞬時に動画再生できるような速さでCGを生成する技術」と考えてよいでしょうか?
坂本:はい。しかし、従来のCG制作スタッフは、プリレンダリングには慣れていても、リアルタイムは得意ではありませんでした。そこで社内からリアルタイムでのCG描画に関する知見のある人材を集めて、そうした新しい流れに対応できるチームを作ったのです。
上見佳史(以下、上見):実は動画に限らず、静止画CG制作の仕事でも、納期は割と短いんです。それをプリレンダリングで行っていると時間がかかってしまうので、個人的な興味から早く作れる方法を模索していました。そんなときに、もともとは3Dゲーム用に開発されたUnreal(アンリアル)というリアルタイムレンダリングエンジンが無償で利用できるようになり、これを仕事に応用できるのではと気づいたのです。
大谷:上見さんはゲームにも造詣が深いそうですが、まさにそこから生まれた発想といえますね。
上見:常にアンテナを張ってさまざまな情報に気を配っておくことが重要で、特にVRのコンテンツ制作には他の分野で培った知識が活かせると感じています。
大谷:納期が短くて済み、自在に動くCGコンテンツを作り上げられるリアルタイムレンダリングは、いいことづくめのように感じられます。制作業務のすべてがこちらに移行するということはないのでしょうか?
増田啓人(以下、増田):確かにリアルタイムレンダリングは、いろいろな映像作りに活かせます。しかし、技術的にはまだ過渡期にあるといってよいでしょう。その分、伸び代も大きいので、今後に備えて積極的に取り組んでいることは事実です。私は、まだ入社して間もないのですが、会社に入ってわかったのは学生時代とは覚える知識の濃さがまるで違うということでした。そうした知識に自分自身の感性を加えて、見たこともないような意外性のあるコンテンツが作れるのではと期待しています。
横尾達也(以下、横尾):私たちの場合、経験を積んで作業効率が上がり、リアルタイムレンダリングを使用すれば1時間で500枚程度の画像を書き出せるようになりました。仕組みさえ整えれば、処理によってはこれまでの数百倍も高速化できるので、日々、仕事をしながらノウハウを貯めているという段階です。仕事の観点からは、1枚1枚の画像を作りこむのか、それともインタラクティブ性を重視するのかによって選択すべき手法が異なってきますね。
大谷:具体的には、どのような使い分けがあるのでしょうか?
横尾:ユーザーが自在に動かせることが魅力のインタラクティブなVR映像の場合には、毎秒90コマのCG描画が必要です。それは、無駄を極力減らしたモデリングデータを用いるリアルタイムレンダリングでしか実現できません。画質の点では不利になるものの、動きが加わることでカバーできる面もあります。
上見:同じく、画質を追求するならプリレンダリングですが、VR動画では何よりもフレームレート(1秒あたりのコマ数)を重視するので、リアルタイムレンダリングを用います。VRコンテンツの場合、クライアントのショールームなどで描画を行うマシンの性能も考慮しつつ、いかに滑らかな動きを実現するかがポイントです。とはいえ、CG内のライティングも最終的なクオリティに大きく影響するので、負荷を抑えながらよい仕上がりとなるよう、自分の経験を活かしたアドバイスを行うようにしています。
大谷:つまり、細部まで目がいく静止画CGの場合には、多少時間がかかってもプリレンダリングでじっくりと仕上げるほうが適しており、逆に短い映像でも数百枚から数千枚の描画が必要な動画では、短時間で滑らかな動きを作り出せるリアルタイムレンダリングを活用しやすいということですね。
横尾:インタラクティブなコンテンツでは、ともかくフレームレートを死守することに全力を注ぎます。そのため、事前にクライアントに画質や動きを確認していただくためのサンプルも欠かせません。また、リアルタイムレンダリングのための描画エンジンとしては、先に名前が挙がったUnrealと、もう1つUnity(ユニティ)という製品が勢力を二分しているので、両者を使い比べたり、3ds Max(統合的な3DCG作成ツール)をプログラミングでカスタマイズできるスクリプト機能を活用して、常に最良の結果が得られるように工夫しています。
大谷:それぞれの技術の適性から、バランスを見極めて応用していることがよくわかりました。
増田:現実には、クライアントの意向や演出上の都合によっては、盛り込みたいと思う情報量がリアルタイムレンダリングには向かない場合もあるんですよ。しかし、私たちが手がけるのは、企業がイベントやショールームなどで利用する映像がメインなので、予算に応じて導入するシステム構成を調整できる点が強みです。
坂本:今は、VRや展示系の映像ではリアルタイムレンダリングが主流となりました。それでも私たちは、依頼内容に応じて、その必要があるのかどうか、もっといえばCGではなく実写のほうがいいのではということまで、常に考えるようにしています。定評ある表現力の高さを活かしながら、我々だからこそ生まれるビジュアルの美しさで将来を見据えた仕事をしていきたいですね。
撮影:中橋広光(UN)