2019年2月6日まで東京・天王洲で開催中の落合陽一展覧会「質量への憧憬」。開催前夜の設営の様子を収めたメイキング映像が、会期初日に公式Twitterへ投稿されました。アマナスタッフにより急遽企画・実行されたその映像制作の舞台裏をお届けします。
本日はレセプションのため、通常より一足早くクローズさせていただきました。
初日より沢山の方にお越しいただき、誠にありがとうございました!お礼の意味を込めまして、まさに撮れたてのメイキングムービーを公開いたします。
ぜひ会場の雰囲気をお感じになってください!#落合陽一#質量2019 pic.twitter.com/6JrhFqfS9c— 落合陽一「質量への憧憬」展 公式アカウント(1/24~2/6) (@shitsuryou_2019) 2019年1月24日
メディアアートを含めた一連の制作において、「イメージによる表現」と「物質による表現」の間の表現の可能性について探求し続けてきた落合さん。その表現方法の1つである「写真」を接点に amana squareで開催された本展は、“写真家”としての一面に迫り、その美的感覚やイメージを表現しています。
メイキング映像では、本展の何を、どう伝えたかったのか? その想いを、全体を統括した渡邊慶将、ディレクターの小川凜一、ビデオグラファーを務めた秦和真に聞きました。
――メイキングムービーの制作に至った経緯は?
渡邊慶将(以下、渡邊):落合さんの展示が始まる前日のお昼頃、展示会場のsession hall前を通ると、まだ何も設営されていませんでした。これから設営が行われるなら、その過程は残さないともったいないと思ったのが制作のきっかけです。アーカイブという意味でも絶対撮った方がいいと、すぐにディレクターの小川凜一とカメラマンの秦和真に声をかけました。
小川凜一(以下、小川):撮影の内容を聞いて、すごく面白そうだと思ったのが第一印象です。現代アートは好きですし、展示の場面に立ち会える。しかも落合さんご本人もいらっしゃるということで、作品が作り上げられていく様子を想像したらワクワクしました。
秦和真(以下、秦):私も落合さんがどのような思考で落合さんが展示を作り上げていくか気になって、すぐに「やります」と返事をしました。
渡邊:映像コンテンツがあれば、落合さん自身がSNSなどで発信してくれるのでは、という逆算もありました。また、それを見たことで、より多くの人が展示に来てくれたらいいなと。「いいことが起きればいい」、最初はそんな思いでした。
――その時点ではまだ何も設営されていない状態。ストーリーの軸はどう考えましたか?
小川:最初に意識したのは、今回制作したムービーがどこで発表され、誰が見るのか。最終的に、落合さんのファンをはじめとしたTwitterのフォロワーに向けたムービーと設定したんです。
撮影に入る前に落合さんについての情報を検索してみたら、意外とモノをつくっている場面の映像はありませんでした。ファンの方なら特に、作っている最中の様子が気になりますよね。落合さんをすでに知っている人たちが見ることを前提としていたので、説明的な要素は入れないことに決めました。
――実際、どのように映像におさめっていったのでしょうか? ディレクション時、またカメラを回す際に気をつけたことはありますか?
秦:落合さんの動きがすごく速かったんです。会場全体に配置される展示作品すべてのことを同時に考えているので、動きが止まることがない。追いかけてもほしい構図を狙えず、最初は撮りにくかったですね。
小川:彼を追いかけても追いつけないので、途中から一定の場所でカメラを構えて待つことにしました。というのも、SNSで見られ、シェアしてもらうことを考えると、映像自体は長くても30秒ほど。設営全てを記録する必要はないと判断しました。
――設営に張り付いて撮影し、翌朝にはムービーが完成。どのようにしてそのスピード感を叶えましたか?
秦:ある程度撮影したら、ほしいシーンがそろっていなくてもまずは編集しました。動きの読めないリアルな設営の様子をおさめるので、撮影と編集をその場で繰り返し、足りない映像を狙って撮っていきました。
渡邊:実は開催当日に公開することは途中で決めたんです。撮影を進めると同時に、落合さんのスピード感に影響され、これは2〜3日温めて出すものではないなと感じました。彼が翌朝7時には設営を終えて帰ると聞いたので、それまでに許可も取ることになりましたね。
―― 撮影現場で印象的だったことはありますか?
小川:当初、落合さんは展示を指示して、自分で実作業することはほとんどないんじゃないかと予想していたんです。ところが、設営が始まるとダンボールを開封するところから始まり、落合さん自身で手を動かしていた。しかも、それがとても楽しそうに見えたのが印象的でした。僕自身もワクワクしたし、そんな彼の姿が垣間見られれば、ファンの方も喜んでくれるんじゃないかと思ったんです。
秦:そんな現場の雰囲気を伝えるためには、いわゆる“黄金比”と呼ばれるような、一般的によく使われる構図はいらないのではないかと思いました。全体が分かる広角映像など説明的な映像や、よく使われる構図は減らして、面白い構図を狙っていきました。LEDの作品越しのカットはその一例です。
渡邊:最初はムービーにBGMを入れていたのですが、途中で彼の世界観を1つの音楽で表現するのは違うと思ったんです。かと言って無音は寂しいので、現場の音を活かしながら、落合さんのコメントを入れることにしました。改まってインタビューする時間はないので、彼がフッとひと息ついているところを狙って話しかけ、「来場する方に一言メッセージを」とお願いしました。映像は30秒なので、深い質問はなし。そうしたら、落合さんが上手くまとめてくださり、そのまま使用しています。
私たちも個展のステートメントは読んでいましたが、それに寄り添うのは安易だなと感じました。このムービーに関しては、シンプルに集中して作っていること自体が大事。それをうまく撮影して編集すればいいんじゃないかと。
――今は誰でも気軽に映像を撮り、世の中に発信できます。アマチュアならではの生っぽさが好まれ、これまで以上にスピード感が求められることも多い。コマーシャル撮影を行ってきたアマナとしては、今回の制作と、映像がもたらした効果についてどう感じましたか?
小川:SNSで反響のある映像を見ると、アマチュアが撮ったシンプルな映像がよくあります。僕たちが今回作ったメイキング映像は、公開後1週間で8万回再生を超えました。時間の制限があったので、あえて編集を凝らなかったのですが、それがありのままを表現することにつながり、多くの人に見てもらえる結果となったのだと思います。
制作期間が2週間ほどあり、しっかり撮影すれば映像の完成度自体は高かったと思いますが、SNS上でシェアされる映像とは異なります。今後の仕事でも、目的に合わせて適したムービーが提案できるようになりたいですね。
渡邊:今、プロとアマチュアの定義づけは難しくなっています。映像分野のプロも付加価値を付けて表現していかなければならない。今回は若手二人に声をかけ、それぞれは「ムービーディレクター」、「カメラマン」という肩書きを使っているものの、カメラマンの秦がこれまではディレクターに一任されていた編集時のトーン調整に関わる場面もありました。お互いの領域に口を出し合い、一緒に仕事して気づくことも多いと思いますし、従来の領域を越えた関わり方を重ねることに、プロの価値を上げる可能性がある気がしています。そういう意味でも今回のムービーを作って本当によかったです。
テキスト:島村美樹 インタビュー撮影:金成津(amanaphotography/@sonnzinn)
落合陽一展覧会「質量への憧憬」