テクノロジーライターの大谷和利さんが注目した、
年に1度、経営内容の総合的な情報を掲載して発行される企業の年次報告書は、株主などにとっては重要な資料であり、それなりにこなれたデザインが施されることが一般的になりつつある。
しかし、クロアチアのアドリスという多角化企業ほど、この年次報告書を有効に使って、自社の企業哲学を広く認知させている会社はないだろう。
同社は、観光業から保険まで広範囲なビジネスを展開しているが、自らのビジネスが堅調に成長していることや、それが社員と顧客のおかげであることを、年次報告書のビジュアルを最大限に活用しながら株主や金融機関に印象付けているのだ。
その最新作では、報告書自体を火にくべ、海に投げ入れ、車に踏ませ、プレスで挟み、凍らせ、子供のおもちゃにするという具合に、過酷な試練にさらす様子を公開。その迫力ある映像が、経済の波に揉まれても安定した経営を行うアドリスという会社を象徴する、という思い切ったアイデアで関係者を驚かせた。
この映像を見た当初は、あくまでも映像的な演出かと思ったのだが、実はそうではなく、株主用のものを含めて、本当に火や水、圧力、低温に強い特殊な素材を使った年次報告書を作って配布したというから、1本筋が通っている。
しかも、この会社は、ここ数年に渡って、ブックデザインの限界に挑むような年次報告書を発行し続けてきており、そのすべてに骨太のメッセージが込められているのである。
ここまでのコストをかけられるのは、とりもなおさずアドリスのビジネスが順調であることの証でもあるが、地味で裏方的な存在と思われがちな年次報告書でさえも、アイデアとビジュアルの力で企業の哲学や魅力を効果的に伝えるためのツールになりうるということを示している。
日本の企業も、世界をアッといわせるような年次報告書を考えてみてはいかがだろうか。
※図版は、すべて公式ビデオからのものです。