世界の先進的なビジュアルユースのトピックを取り上げる本連載。今回は、インタラクティブな動画を利用した、アイスクリームブランドの動画広告をご紹介。ターゲットである10代のSNS世代へ向けて、興味を引くコンテンツ作りの工夫とは?
先日、韓国に出張した折、旅客機内で見たニューヨーク・タイムズ紙に、こんな全面広告が載っていた。
「たぶん、私たちにとって最悪の広告です。」
出稿主は、広告枠売買企業のThe Trade Desk(ザ・トレード・デスク)。同社は、テクノロジーを駆使して最適なメディアに、最良のタイミングで、絞り込んだターゲット向けの広告を打てることをいちばんのセールスポイントにしている企業だ。
しかし、それが可能なのはデジタルメディアだからこそといえる。ペーパーメディアでは、不特定多数に対して、いつ目にするかわからない広告しか打つことができないからだ。その意味で、自らの企業広告をニューヨーク・タイムズという一流の新聞に載せておきながら、自分たちから見ればコンバージョン率の悪い「最悪の広告」でしかないと言い放ったのである。
もちろん、これには、あえてそのようなメッセージを発することによって、今も新聞広告に固執している企業があれば、デジタルの世界に意識を切り替えてほしいという意図が込められている。
私たちは、特に広告においては、すでにそのようなデジタル優位の世界に生きているのであり、今回取り上げたコーネットというユニリーバ傘下のアイスクリームメーカーも、デジタルメディアでなければ実現し得ないインタラクティブなビデオを巧みに利用して、コンテンツマーケティングを行ってきた。
同社が力を入れるのは、ティーンエイジャー層の需要喚起であり、“Cornetto Love Stories – Two Sides”というビデオでは若者向けの恋愛指南的な内容の中に、チラッと商品を織り込むような見せ方によって、あまり押し付けにならない形でブランドの浸透を狙っている。
ビデオの主人公は、ちょっと内気なジョッシュと、煮え切らない彼の態度を持て余し気味の気さくなカーリー。視点を切り替えることで、親しいながら微妙な距離感のある2人の胸の内がわかるという仕組みだ。
ただし、第一幕にあたる冒頭のカフェのシーンはインタラクティブではなく、「それぞれの視点からはこんな風に見えますよ」ということを暗に説明する映像になっている。
これは、一般にはまだ普及していない自由な視点切り替えの手法をいきなり使用して混乱させるよりも、ワンクッション置くことで違和感を感じさせない工夫といえる。
ジョッシュとカーリーの曖昧な関係がわかったところで、視点を選択する方法についての簡単な説明があり、物語は第二幕へと移っていく。舞台は、学内の図書室だ。
また、視点の選択以外にも飽きさせない工夫として、実写だけでなく味のある線画アニメーションを使い、ノートへのいたずら描きの感覚で、妄想を視覚化して見せるシーンなども挿入される。
視聴者のもどかしさが高まったところで、物語は第三幕のクライマックスへと向かっていく。
ジョッシュは意を決してカーリーにヘッドフォンをつけてもらい、ラブソングを通じて自分の気持ちを伝えてプロムに誘うことにする。
よく見ると、視点が変わった際に(おそらく撮影時の構図などの都合で)本の配置が変更されていたりするので、そうした間違い探し的な興味で見直していくのも一興だ。
ここまで凝った、そして綿密な広告を作ろうとすれば、プロの手を借りなければ実現するのは難しい。たとえば、同じシーンでも視点を変えて撮るにはライティングをすべてやり直したうえで役者に同じ演技をしてもらわなければならず、リハーサルや撮り直しも含めれば、その手間は膨大なものになる。
しかし、今後、VR/AR環境が普及してくれば、このような一人称視点が入れ替わるようなコンテンツも普通に見かけるようになっていくはずだ。
そして、従来の広告ビデオならば1度見て終わりということも多いが、このような視点切り替え可能なコンテンツの場合、シーンごとに立場が変わるとどうなるのかを確かめたくなり、何度も見返してもらえたり、口コミやSNSで拡散される確率も高くなる。
したがって、少なくともこれに準じたアイデアを今からあたためておくことも重要といえ、“Cornetto Love Stories – Two Sides”は、そのためのヒントが数多く散りばめられたコンテンツなのである。
※図版は、すべて公式ビデオ<https://youtu.be/ljb3bDmKp5Y>からのものです。モバイル用のコンテンツは割愛されているので、インタラクティブに視聴するためにはコンピュータのブラウザからYouTubeにアクセスしてください。