フォントを検索して特定することができるアプリ「What The Font」。
たとえば、中国ではすでに13億人分の顔データが蓄積され、交差点などに設置されている監視カメラによって、ほんの数秒もあれば90%の精度で個人を特定できる技術が確立されている。このようなことが管理社会のために行われる現実は人権的な観点から批判されているが、AIを利用した画像認識技術が発達すること自体には、よい側面もある。もっと身近で業務に役立つアプリにも、こうした技術が応用されているのだ。
iOSとAndroidの両プラットフォーム向けに無償で提供されているWhatTheFontは、その名の通り、パンフレットや商品パッケージ、店の看板などで使われているフォントの名前を、スマートフォンのカメラで撮影するだけで特定できるというものである。
厳密には、名前は違ってもよく似たフォントも数多く存在するため「検索してマッチングする確率の高いフォント名を複数挙げてくれる」というべきだが、それでも見た目の印象が同じフォント名が簡単かつ瞬時にわかるのは便利だ。あるイメージに基づいて広報資料を作ったり、Webページやパンフレットのデザインをまとめたいというような場合には、特に活躍してくれるだろう。
パンフレットなどで気になるフォントを見かけたら、このアプリのカメラ機能でキャプチャすると……
文字と背景が重なっていても、このようにフォント部分のみが認識される。そして、フォント名を特定したい枠を選択すると画面下の青い丸の矢印がアクティブになる。イメージが傾いていたり、フォント枠の自動認識がうまく働かない場合は、角度補正や手動での範囲設定も可能だ。
すると、クラウド上でマッチング処理が行われ、数秒程度で複数のフォント候補が表示される。最上段がキャプチャされたイメージで、その下に、認識された文字列を合致率の高いフォントで入力した場合のサンプルが並ぶ。
さらには、その中から選んだフォントで、任意の文字列を入力してみて、見映えを確認することもできる。
WhatTheFontの認識機能は、その場で撮影しなくても、スマートフォンの写真アルバムに保存されたイメージに対しても有効である。そこで、たとえば広報やPRの担当者であれば、普段から街中や雑誌で見かけた気になるフォントをキャプチャしてコレクションしておくと、資料の束を持ち出さなくてもデザイン部門や外注のデザイナーにフォント名で指示を出せるようになる。
また、グラフィックデザイナーにとっては、仕事の7つ道具の1つに加えてもいいし、自らの目でフォント名を判断できるようになるための訓練用として使うこともできる。
同様の機能は、アドビシステムズのPhotoshop(ただし、こちらは画像検索に基づいており、仕組みが異なる)やCapture CCにも組み込まれているが、同社のCreative Cloudユーザーになる必要があり、また認識結果もAdobe Typekit内の類似フォントに限られる。
WhatTheFontの技術は、それらよりも歴史が古く、登録なしで使え、幅広いフォント名に対応しているので、より気軽に使うのに適している。
筆者も、よく知られたビール製品の商品名を認識させてみたが、このように文字が整列していなくても、きちんと処理することができた。この場合には、Estienneというフォントが一番近いことがわかる。
現時点での制約は、アドビの技術も含めて認識対象が英字フォントに限られることだが、日本字の複雑さやフォントの類似性を考えると致し方ない部分もある。しかし、英字だけでも十分実用的で、AIの威力を実感できるアプリだといえるだろう。
※図版は、最後を除きすべてWhatTheFontの公式イメージからのものです。