テクノロジーライターの大谷和利さんが注目した、世界の先進的なビジュアルユースのトピックを取り上げる連載「VISUAL INSIGHT」。第10弾で紹介するのは、VRを活用した航空会社の驚くべきプロモーション。VRに興味がある人だけを取り込むのではなく、今、別会社の飛行機を利用しようとしている人にVRを通して自社のフライト体験を実感してもらうという斬新な取り組みを紹介します。
先日、世界的スーパースターのエルトン・ジョンが、向こう3年間に渡って行われる自身最後の全世界興行「Farewell Yellow Brick Road」ツアーを、VR映像として記録し、後世に残すという発表を行った。
また、平昌オリンピックでも、CPUメーカーのインテルが、同社の「True VR」技術を使った試合の中継を行い、あたかもその場にいるかのような感覚で競技を観戦することができた。冬季オリンピックがVR配信されるのはこれが最初だが、同社は、すでにメジャーリーグベースボールの試合を毎週配信しており、2024年までのオリンピックの世界公式パートナーにもなっている(つまり、2020年の東京オリンピックもVR中継されるということだ)。
このように、VRが臨場感の再現に最適な映像手法として根付きつつある中、KLMオランダ航空が、画期的なキャンペーンを実施した。期間限定だったので、すでにサービスは終了したが、何と、LCCを含む自社以外のすべての航空会社の搭乗客にKLM便へのフリーアップグレードを提供するというのである。
KLMは言う。「皆さんも、安いフライトに乗ったことがありますよね。食事は有料で、無料の機内映画もなく、仏頂面したCAが乗っているような。私達は、フライトというものが常に快適で、乗っていて幸せになるようなものではなくてはならないと考えています。そこで、私達のサービスを他のすべての航空会社のフライトにも提供することにしました。LCCも含めてですよ。さあ、無料の機内エンターテインメント、おいしい食事、親切なCAとの会話を楽しんでください。すべてVRで……。」ということで、空港で無料の段ボール製VRビューワーを配り、自分のスマートフォンに無償の専用アプリをダウンロードしてセットすると、いつでもどこでもKLMのフライトを味わえるようにしたのである。
Youtubeビデオ(https://youtu.be/PwTFsXDmHx0)に沿って、説明していこう。
このキャンペーンで、実際にどれだけの人がKLMにスイッチするかはわからないものの、少なくともKLMがユニークで親切なサービスを提供する航空会社であることは印象付けられる。SNSなどへの投稿を促す話題性もあり、ブランディングには大いに役だったはずだ。
ちなみに、先日、リハビリ患者がVRゴーグルを用いて、病院内に居ながらあたかも浜辺を散歩している気分で歩行訓練を行う映像を見たことがあったが、患者自身も大いに楽しんでいるようだった。
VRは、エンターテイメントからシリアスな実用目的まで、すでに身近なところで活躍している。あなたの会社でも、ぜひ、自社ならではのアイデアを加えて、VR映像によるプロモーションなどを企画してみてはいかがだろうか。
※キャプチャは、Youtube(https://youtu.be/PwTFsXDmHx0)より。