わざわざ足を運びたくなる「銀座 蔦屋書店」のビジュアル戦略

2017年4月、銀座に開業した商業施設「GINZA SIX」。話題のショップが集結する館内でも、特に関心を集めているのが、カルチュア・コンビニエンス・クラブ(以下、CCC)が「アート」をテーマに展開する新業態の「銀座 蔦屋書店」です。アートと日本文化が融合する空間は、書店というよりもギャラリーのような趣が漂っています。

店長の山下和樹さんにフロアを案内していただきながら、人の心を引き付ける店作りについて、ビジュアル・マーチャンダイジングを切り口にお話を伺いました。

「居心地」を作ることから始まる、生活提案

ライフスタイルの提案を軸に事業を展開するCCCが、新しい試みとしてオープンした銀座 蔦屋書店。「アートのある暮らし」を提案するというコンセプトに、書店やカフェ、イベントスペースなどで構成された約700坪のフロアは、いつもたくさんの人でにぎわっています。
「蔦屋書店には、書店ではなく家のような”居心地”を作るという基本の考え方があります。銀座店では、『和の粋』や『日本の美』を意識して、日本の伝統的な建築によく見られる意匠を取り入れています」と、店長の山下さん。

特徴的なのは、白木の什器を用いた直線的なデザイン。すべての通路が直角に交差して、京都の路地を歩くように通り抜けができ、本棚の背板をなくして抜け感を生むことで、向こう側に人の気配が感じられます。ダウンライトと間接照明もまた、空間に暖かみと落着きを与え、フロア全体が統一感のあるビジュアルで居心地のよさを醸し出しています。


それと同時に、動線の回遊性も考えられています。フロアにはエスカレーターとエレベーターの乗り場がそれぞれ2カ所ずつあり、多くの来店客は北側(みゆき通り側)からアクセスします。そこで最初に目に入るのが、おすすめ書コーナーとスターバックスコーヒー。この眺めが、ブック&カフェを基本とする蔦屋書店のコンセプトを示しているのです。

スターバックスの店舗に並べられたおすすめ書。

そこからカフェに面したメイン通路を進んでいくと、アートのある暮らしを提案する5つのMD(merchandising:商品・サービスの品ぞろえ)である、書店、カフェ、ギャラリー、イベントスペース、プロモーションストアを一望できるように、売り場がレイアウトされています。

「銀座は世界中から人が集まる場所なので、日本文化の提案をフロアの中央に据えています。海外から見た日本の魅力は、新しいものと古いものが混在していたり、ハイカルチャーとサブカルチャーが隣り合わせにあるおもしろさ。それが目でみてすぐわかるように、売り場を編集しています」と山下さん。

吹き抜けのイベントスペース。

圧巻は、中央の吹き抜けに日本建築の櫓をモチーフにした、高さ6mの書棚に囲まれたイベントスペース。さらにその外側を日本の暮らしや文化・風俗を伝えるゾーンが取り囲み、マンガもそろっています。メイン通路の一番目立つ場所には「大型本」のコーナーが。その奥では、「日本刀」のショーケースが存在感を放っています。

日本刀の展示コーナー。関連書籍もそろいます。

「銀座には目の肥えたお客様が多いので、ここにしかないものをいかに提案していくかが大事です。日本で唯一の、ビッグブックと呼ばれる大型本の常設コーナーを作りました。日本刀は、日本を代表する工芸品の極みであり、世界に通用するアートであることから取り扱いを始めました。今までの書店ではやらなかったことに、銀座ではチャレンジしています」

大型本のコーナー。

店舗の内装は、デザイン会社のトネリコが担当。「アートを身近にしたい」「世界の中の日本を見せていく」という思いに応えたデザイン提案が、同社に依頼した理由だそう。「何よりも、本へのリスペクトが感じられました」と山下さんが語るとおり、陳列されている本の一冊一冊が、展示作品のように感じられる視覚的な演出がなされています。

アートの扉を開く、編集のチカラ

商品をより魅力的に見せてお客様との接点をつくるビジュアル・マーチャンダイジング。蔦屋書店では、コンシェルジュが売り場の編集を担当します。「アートのある暮らし」を提案することをベースに、いかにお客様に新しい出合いや発見を楽しんでもらうかという視覚的な演出は、そのジャンルのプロの手に委ねられています。
「あくまでも『生活』を提案しているので、文庫、コミック、雑誌というようなモノ分類は一切していません。提案したいスタイルをアート、建築、写真などのジャンルに分けて見せています。そうすることによって、インターネットの検索では引っかからないような一冊にも、ここでは偶然、出合えたりします」

たとえばアートの本棚では年代順に書籍が並べられ、眺めるだけで美術史をたどることができる仕掛けに。同時代のムーブメントなどの関連書籍を周りに置くことで、本棚の中で系譜や脈絡に気付くこともあります。山下さんは、「目の前にある一冊の本を手に取ることで、好奇心の扉が次々と開いて世界が広がっていく。そんなイメージで売り場を見ていただけたら嬉しいですね」とのこと。

本棚に書籍以外のアイテムが混在しているのも、出合いの楽しさを演出する仕掛けのひとつ。いろいろな切り口から楽しみを提案することで、アートに入るきっかけを作っています。

書棚には、アート作品も展示されて。

一般の書店では手に入らない美術館の図録もそろっています。過去の展覧会のアーカイブもあれば、ルーブル美術館やテート・モダンなどの海外美術館の最新図録も。「日本人は世界で一番、美術館に足を運んでいる国民だと言われています。ですから、美術館に行くという切り口で銀座 蔦屋書店にお越しいただいてもいいんです」という説明にも納得。
本物のアート作品を買うこともできるし、アート関連の本を買うこともできるし、カフェで読むだけも可能。本、カフェ、ギャラリーが渾然一体で存在することで、シームレスにあらゆるアートのニーズを満たしています。

モノを買うだけじゃない、コトを体験できる書店

「EVENT SPACE」は、フロア全体の中央にあり、地上13階、地下2階の建物のほぼ中間、GINZA  SIXのちょうどコアにあたります。今後、このイベントスペースをどのように運用していくのか、山下さんに聞いてみました。
「消費にはモノとコトがあります。モノを買うという体験だけでなく、コトを体験できるイベントを企画していきます。企業様からも話をいただいており、自社のブランドの世界観をアートや文化に絡めて表現したいという需要を実感しています」

企業とアートとの結び付きをプロデュースすることも、重要な取り組みの一つ。それを、生活者に向けてビジュアル化していくことが同店の果たす役割です。

「いろいろな分野を突き詰めていくと、アートになります。たとえば、食、旅、車や時計もそうです。スポーツの世界でも『芸術的なプレー』と言ったりしますよね。ここは、アートを突き詰めている最先端の店ですが、敷居は決して高くありません。そもそも本屋は生活動線に溶け込んだ存在。世の中で敷居が高いと感じているものを、私たちがやることでアートが身近になっていくんじゃないかと考えています」

ネット通販が小売業界を席巻していますが、蔦屋書店はそれらを競合としてとらえてはいません。むしろ、コミュニケーション手段としてネットを積極的に活用し、銀座 蔦屋書店のオンラインショップも立ち上げて情報を発信。さらにここにしかない商品を提案しようと、ものづくりにも挑戦しています。

銀座 蔦屋書店オリジナルの製品を販売。「アートと楽しむ」のは、江戸時代の風習に着想を得て。造り酒屋とのコラボレーションで製造販売しています。

「リアルにはリアルにしかできないよさ、ネットにはネットにしかできないよさがあり、私たちはその両方を持っていることが必要です。リアル店舗ではモノの質感や手触りを伝えたり、偶然の出合いを生む編集で見せていくことがテーマ。視覚的な演出が重要です。空間として存在するからこそ、ネットにはできない居心地のよさを創造することができます」

蔦屋書店が考えるリアル店舗の主役は、お客様と商品とスタッフ。これら3つの要素が最も輝くビジュアルを考え、空間をプロデュースし、売り場を編集していく。だからこそ、どれだけネットショッピングが便利になっても、わざわざそこに行きたくなる場所になることができるのでしょう。

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<INFORMATION>
銀座 蔦屋書店
東京都中央区銀座6-10-1 GINZA SIX 6F
営業時間:9:00~23:30(不定休)
https://store.tsite.jp/ginza/

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