ヘッドマウントディスプレイが人気を呼び、マスメディアでも取り上げられることの多くなったVR。でも実際ビジネスに取り入れるとなると、使いどころやメリットといった点で悩んでしまう方もいらっしゃる方もしれません。
前回はそのヒントとなる業界別の5つのVR導入事例をご紹介しました。今回は引き続きVRコンテンツの制作を考えている方に向けて、VRがもたらす2つのバリューと、VRの強みをさらに引き出すための演出面でのポイントをご紹介します。
最初に紹介するのは、VRがもたらす「近さ」というバリューです。現実ではちょっと手が届かない高額な商品もVRを使えばその質感やディテールまで消費者に届けることができますし、有名人やキャラクターもまるで目の前にいるかのように、その表情や動き、声を再現することができます。
今年10月、PlayStation VRの本体と同時発売が予定されている「サマーレッスン」も、そんなVRがもたらす「近さ」を活かした事例です。
プレイヤーは家庭教師として女子高生やアメリカ人女性に語学のレッスンをするのですが、3Dキャラクターの造形や背景がとてもリアルに作り込まれていて、実際に2人きりで会話をしているような感覚になります。レッスン中に顔を覗き込まれたり、不意に近づいてきてすぐ横に腰かけたり‥、現実ではありえないような「近さ」は、思わず緊張して声を出しそうになってしまうほど(笑)。
現在公開されているのはデモ動画ですが、実際のゲームではきちんと顔を見てリアクションをしないとキャラクターの機嫌を損ねてしまったりする仕掛けも施されているそうです。
続いて紹介するのは、WHITE社からリリースされた「MilboxTouch ver. VR PAC-MAN」。私の世代にとっては非常に懐かしい1980年代の名作ゲームのVR版です。このコンテンツはVRならではの「場所」というバリューを活かしてユーザーに没入感を与えています。
これまで俯瞰で表現されていたゲーム内のステージは、VRによる360°フルCGによって再現。プレイヤーはパックマンの視点になり、敵キャラに追いかけられながらステージ上のエサを食べ、突破していく感覚を、まるで自分がパックマンになり、その場にいるかのように味わえます。
MilboxTouchには明治大学が開発した「Extension Sticker」という技術が使われていて、プレイヤーの向きに連動して進行方向が変わるだけでなく、MilboxTouchの側面部分をタッチ操作することによってパックマンが前後に動きます。こうした相互作用は「インタラクション」と呼ばれ、VRコンテンツでユーザーを誘導し、没入感を向上させる効果的な演出方法の1つです。
ちなみに、「場所」というVRのバリューは、前回ご紹介したVRの留学シミュレーションの事例でも活かされています。「場所」という視点を持ってもう一度ご参考にしてみるのもいかがでしょうか?
VRコンテンツで高い没入感を提供するためには、より安全・快適にVRの世界を楽しんでもらう演出面の工夫も大切になってきます。
激しい動きや視点の変化を伴うVRコンテンツでは、視覚と重力にギャップが生じ、乗り物酔いのような症状(VR酔い)が出ることがあります。VR酔いの多くは、VR映像の展開に翻弄され、自分の居場所が分からなくなってしまうことで生じるため、それを防ぐためには視界を広くしたり、動きの起点となる物体を設けたりするのがポイントです。
また、操作性への配慮も欠かせません。どんなにリアルで臨場感のあるVR映像でも、操作に対して反応が早すぎたり遅すぎたりすればストレスが生じ、没入感も削がれてしまいますよね?操作性はOSやデバイスによっても違いが出る可能性があるので、VRコンテンツの制作ではさまざまなデバイスでテストを繰り返すのが有効です。
VRコンテンツは「近さ」、「場所」という2つのバリューを活用し、演出面の工夫を取り入れることによってVRの持つ強みを引き出すことができます。ゴールドマンサックスによるVRのマーケット予測でも、こうしたバリューを活かせる「ヘルスケア」、「エンジニアリング」といった分野が大きなシェアを占めています。今回ご紹介したポイントと事例を参考に、ビジネスにおけるVR活用のヒントにしてみてはいかがでしょうか?