実験、SF、未来の技術……、「バーチャルリアリティ」と聞くと、そんなイメージを抱く方もいるかもしれませんが、それはもう過去の話かもしれません。ユーザーに新たな体験をもたらす具体的なビジネスソリューションとして、既に多くの有名企業がバーチャルリアリティ(※以下、VR)に興味を持ち、マーケティング戦略に活用しています。その具体的な事例と、マーケット動向、さらに今後の可能性についてご紹介します。
出典:Happy Goggles – A virtual reality headset made from a Happy Meal Box.
スウェーデンのマクドナルドでは、子ども向けセットメニュー「Happy Meal」(日本版は「ハッピーセット」)の発売30周年記念プロモーションとして、ダンボール製VRゴーグル「Happy Goggles」を配布しました。食べ終わった後の「Happy Meal」のパッケージを開いて組み立て直し、付属のレンズを取り付けるとゴーグルになり、中に収納するスマートフォンを通してVRの世界が楽しめます。今年2月にプロモーション動画が発表されると世界中で大きな反響を呼びました。
また、楽しみながらスキーの安全性を学んでもらう目的で、このゴーグルに対応したスキーゲームも3月にリリース。高額な専用ディスプレイなどを使わず、子どもたちの遊びのひとつとして手軽にVRを体験できるコンテンツを提供しています。
トヨタが提供したのは、車の衝突回避支援パッケージ「Toyota Safety Sense」の各機能をVRによって疑似体験できるプログラム。ユーザーはVRゴーグル「Milbox」を装着して、衝突回避や車線はみ出しのアラートなど、実際の機能を作動させた時の360°の車内映像を見ることができます。それにより、ショールームや店舗にいながら、危険をともなうこともなく、ドライバー視点で最先端の安全技術を体感できるのです。
また、Toyota Safety Senseの各機能を動物の特性(例:距離を測るレーダー=コウモリ など)にたとえて、動物の目線をVRで楽しみながら安全機能への理解を深めることができるコンテンツも提供されました。
地方の魅力発信と旅行者へのPRの一環として、楽天トラベルと長野県の提携により開催されたイベントです。ユーザーはヘッドマウントディスプレイ「Oculus Rift」の映像を通じて、長野県の善光寺や、パワースポットとして有名な戸隠神社など、人気の観光地を疑似体験できます。
出典:バーチャルリアリティ観光体験/Virtual Reality Sightseeing
静止画を組み合わせた360°の映像は、視線の動きに連動して変化し、ユーザー側の操作により前後左右行きたい方向へ移動できるため、実際にその場所を訪れたかのような感覚(=没入感)を感じることができ、会場を訪れたユーザーから好評を得ました。
こうした企業でのVRの実用化に加え、今年2016年は、一般家庭にもVRが普及する年になると言われています。家庭向けのヘッドマウントディスプレイとして昨年末リリースされたサムスンの「GearVR」に加え、オキュラスのHMD「Oculus Rift」も3月28日に発売されました。
また、10月にはソニーから「PlayStation VR」の発売も予定されており、身近なハードに対応したVRプラットフォームが提供されることでこれまで関心のなかった人からも注目を集めることになりそうです。
市場調査会社TrendForceの調査によると、VRの市場規模は2020年までに700億ドル(約8.4兆円)に達するとのこと。多くのメディアで「2016年はVR元年」と指摘されるように、ヘッドマウントディスプレイの普及が進むことによってコンテンツを提供する企業とユーザーとの距離も縮まり、VRがより身近なものになっていくことが予想されます。
トヨタの事例のように、現実世界ではリスクをともなう行動を疑似体験として提供したり、ユーザーがその場にいるかのようなインタラクティブな空間を表現できるのがVRの特徴です。この点で、VRはゲームや映画などエンターテインメント分野と相性が良いと言われてきましたが、それ以外のさまざまな分野でもVRの導入が進んでいます。
歴史の舞台や建造物を再現。教科書の中でしか見ることのできなかった学ぶ対象が、VRによってより身近な存在に。
資料代や材料費などをかけず、VRで何度も繰り返してトレーニング。低コスト・短期間でのスキル拾得が可能。
ハードな自然環境もVRなら安全・快適。実際の使用シーンに近い環境を提供して、商品の性能をアピール。
今回ご紹介したように、現在進行形でさまざまな分野に取り込まれ続けているVR。さらに今後はヘッドマウントディスプレイの普及により、場所・時間を問わずユーザーにVR体験を提供できるようになります。
たとえば、イベントや展示会をVRで開催すれば、会場や期間の制約を受けることなく商品の魅力を伝えられますし、カタログをVR化することで、実際の使用シーンでの使い心地をユーザーにダイレクトに届けることもできます。知的好奇心を刺激し、コミュニケーションのあり方を変える手法として、ビジネスチャンスを生み出すヒントになるのではないでしょうか。