デジタルとデータ革命により、私たちは自分好みのコンテンツを欲しいものだけ消費できるようになりました。消費者は、コンテンツを受け取る時間と場所、コンテンツを消費するためのデバイスを自分自身で選択することができます。そんな中、オールウェイズ・オン型のデジタルメディアエコシステムや膨大な量のコンテンツが巷に溢れていますが、彼らは「crisis of attention(注目すべきものが多すぎて注意力が散漫になる危機のこと)」や情報過多に悩まされているわけではありません。それどころか、高品質の映画・番組・音楽を楽しみ、魅力的なコンテンツをむさぼっています。
消費者は状況をうまく掌握していますし、新しい「注目のコントロール」は商業的コミュニケーションにも当てはまるのです。消費者は、ブランデッドコンテンツが自分たちの期待に沿うものであれば、注目・興味・ロイヤルティという形でブランドに見返りを与える用意をします。逆にコンテンツが期待外れで、さらには従来型のメディアからデジタルへの移行が不十分だと、広告をスキップしたり、ミュートしたり、最小化したりします。また、広告のない環境を探し求め、お金を払ってでも邪魔な広告をブロックする消費者もいます。
これらの動向はブランドに大きな影響を及ぼします。インパクトのある商業的コミュニケーションを生み出したい現代のマーケティング担当者は、ジャーナリストやプロデューサーのように思考と行動を持ち、編集的なアプローチや基準を適用しなければなりません。これによってブランドが今後募集するクリエイティブ人材の種類や、やる気を引き出して人材を維持する方法にも大きな影響を及ぼすでしょう。ブランドがパブリッシャーへと移行し、制作上のクリエイティブな負担を背負うにつれて、エージェンシーはクライアントを満足させるために、自社が提供するものを進化させるべきです。
自動車業界は、昔からクリエイティブなコンテンツキュレーションの先駆者です。BMWは、2001年から8人の大物ハリウッド監督を雇い、「007」シリーズや「ボーン」シリーズのような短編映画を制作しました。すべての映画には、さまざまなモデルの車が扮した「The Driver」という同名のヒーローが登場します。AudiとBBHも、2005年に独立したテレビチャンネルを制作しています。ここでも主役は車ですが、それぞれ番組のストーリーに溶け込み、広告のように感じませんでした。むしろ、Audi製品を特集している高品質の社説のような印象を受けました。
ごく最近では、Mercedesが、カスタマージャーニー全体にわたる(デジタルな)タッチポイントで欠かせない要素として顧客向けの雑誌をリニューアルし、パブリッシングで強い影響力を持つ存在になっています。Mercedesは、Looping Studiosとパートナーシップを締結し、性能・モータースポーツ・ヴィンテージカーなど、既存客や見込み客が関心を持つテーマについて取り上げています。同社がこれらのテーマに関して自社の役割や意見を語るのは、顧客に興味を持ってもらった後です。MercedesのパートナーであるLooping Studiosを運営しているのは、ドイツの大手雑誌Sueddeutsche ZeitungとSternの元編集者です。彼は、現代の商業的コミュニケーションに精通しており、高い編集能力を持っています。
現在、Mercedesは4種の顧客向け雑誌を1,100万部も発行しています。見間違いではありません、本当に「1,100万部」です。「Classic」はヴィンテージカーファン向け、「Me」は未来について考えるのが好きな人向け、「She’s Mercedes」は女性向け、「Circle」は富裕層向けです。それぞれのタイトルを見れば、Mercedesが高品質のコンテンツを直接手掛けていることは一目瞭然です。それぞれのコンテンツは雑誌として印刷されるだけではありません。雑誌は活動に欠かせないハブであるものの、掲載されているコンテンツはライブイベント・YouTubeチャンネル・Facebookコミュニティ・Instagramフィードでも共有されます。
顧客の関心をもとにエコシステムが構築されているため、すべてのチャネルで消費者が望み、好み、シェアするようなコンテンツを配信しています。同社は、適切な顧客から適切な注目を集めているため、雑誌に他の業界の広告主を誘致できるまでになりました(「Classic」にはRolexやPatek Philippeといった高級時計企業の広告が掲載されています)。
ブランドがパブリッシャーとして成功することの何が新しいのかというと、広告主が資金を提供してくれるような優れたコンテンツは、制作自体が目的ではなく、もっと大きな目的を達成するための手段だという点です。カスタマージャーニーが度々中断される世界において、ブランドはジャーニーの途中で顧客を逃がさないように努力しなければなりません。ブランドは、顧客がどこにいてもコンテンツを届け、(顧客が購入したい製品に関するコンテンツだけでなく)彼らの幅広い関心に合ったコンテンツを提供して初めて、自社について話すことが許されるのです。
もうひとつの優れた事例はNet-a-Porterです。同社はデジタルファーストのファッション小売業者で、「Porter」や「Mr Porter」といった雑誌の発行に大きな投資をしています。「Porter」の題字の「O」の中に「Powered by Net-a-Porter(協賛: Net-a-Porter)」というキャッチコピーが書かれた隔月誌は、Vogueにも匹敵する編集技術を誇ります。しかし「Porter」は、印刷雑誌だけでなく、ブランドのデジタルアセットを効果的に見せるプラットフォームでもあります。スマホで見開き広告にカーソルを合わせると、オンラインストアにリダイレクトされます。カスタマーエクスペリエンスはあらゆるタッチポイントにわたってシームレス。高品質なコンテンツ制作が目的ではなく、「ブランドへの没入的なエンゲージメントによって売上を向上させる」という目的を達成するための手段であることを完璧な形で実証しています。
私たちは現在、新しいコミュニケーションパラダイムへの過渡期に生きています。MercedesやNet-a-Porterなどのブランドは、コンテンツ第一アプローチを全面的に採用しており、消費者が望むコンテンツを配信するためのチームやパートナーを備えています。UnileverやP&GといったFMCG(日用消費財)の最大手企業も、この分野に大きな投資をしています。Unileverは社内エージェンシーであるU-Studiosに、P&GやGuardian Labsは編集パートナーに投資しています。
ブランドがインハウス(内製化)とアウトソース(外注)のどちらを選択するかは、イノベーションに対する彼らの文化や態度に左右されます。しかし、どちらのアプローチを取るにしても、消費者はお気に入りのメディア・社説・商業的コミュニケーションを選別し、優れたコンテンツに対する自身の欲求を満たさないコンテンツを排除してしまうことを忘れてはいけません。品質は正直者ですから。
Michael KargはEbiquityのグループ最高経営責任者です。
この記事はThe DrumのMichael Kargが執筆し、NewsCredパブリッシャーネットワークを通じてライセンスされたものです。ライセンスに関するお問い合わせはlegal@newscred.comまでお願いいたします。
元記事「What Consumer Demand for Great Content Means for Brands」は2019年5月16日にInsights.newscred.comに掲載されました。
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