コンテンツマーケティングにおいて核となるのは、消費者と企業・ブランド間のエンゲージメントです。そこで本コラム『デジタル・エンゲージメント』では、テクノロジーライターの大谷和利さんが「コンテンツマーケティングの元素表」を評価軸にしながら、マーケターたちが創造性を駆使して編み出したエンゲージメントを高めるための工夫を連載形式で紹介。読者の皆さんに新たな視点や気づき、アイディアを提供していきます。vol.5の今回は、レディースファッションを軸に、子供服や雑貨、美容から食品まで、幅広い自社企画商品をカタログやウェブなどの独自メディアで生活者に販売する、ダイレクトマーケティングの企業「フェリシモ(FELISSIMO)」に迫ります。
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フェリシモは、筆者自身も雑貨・ショッピングバッグ系のアイテム購入でよく利用している通販サービスであり、商品パッケージに同梱されてくる紙のカタログ類も数、質ともに非常に充実していて、見たり、読んだりする楽しみがある。
そのデジタル版ともいえるWebサイトやSNSのコンテンツも、同様に充実しており、魅力に溢れたものだ。その根底にあるのは、単に物欲を刺激するのではなく、顧客の興味に合わせた入り口を用意しながら、その知的好奇心に訴えて知見を広げたり、生活の愉しみを見つけてもらいたいという意思であり、そのための仕掛けが随所に散りばめられている。
▲メインのWebサイトのトップページは、通販系の比較的オーソドックスな作りだが、顧客が何を求めているかというニーズに対してツボを押さえたキャッチが並ぶ。また、LINEのアカウントフォローを促すバナーが上部に近い目立つ場所に置かれているのも特徴的だ。
特に大きな役割を果たしているのが、ソーシャルポストやブログポストであり、同じSNS内でもレーベルごとにアカウントを分けたり、複数のブログを用意することで、エンゲージメントを高めようとする工夫が見てとれる。
公式SNSアカウントは、先のLINEをはじめ、Facebook、Twitter、Instagramというメジャーなものを網羅しているが、特筆すべきは、「猫部」というスペシャルコンテンツサイト内に「猫部トーク」という猫の話題に特化した投稿ページを設けている点だ。これは、いわば独自のSNSを運営する試みであり、コミュニティの情勢につながると同時に、猫好きの顧客からの投稿を商品開発などに活かすこともできるだろう。現在はベータ版(テスト運用)だが、今後の展開に期待したい。
▲フェリシモのソーシャルアカウントのまとめページを見ると、各レーベルや活動ごとに独立した公式SNSアカウントが与えられていることがわかる(実際のリストの長さは、この3倍近くある)。ここまでソーシャルアカウントを充実させている企業は、とても珍しい存在といえる。
▲たとえば、「シロップ」はフェリシモ内に数あるレーベルの中でも北欧系のゆるくて可愛いファッションアイテムのラインで、これがその公式Instagramである。同名のレーベルのWebページと公式Instagramアカウントは、相互にリンクされている。
▲Instagramの個別ポストからレーベルサイトへのリンクは、直接、そのアイテムに飛ぶのではなく、プロフィール情報内にあるレーベルのトップページへのものとなっている。情報をポストする上では、そのほうが効率が良いが、SNSポストからアイテムへの直リンクにすれば、エンゲージメントをさらに高められる可能性もある。
▲こちらは、上質な普段着の提案を行う「サニークラウズ」レベールの公式Instagram。レーベルごとにフォロワー数が異なり、約2000人のシロップに対して、サニークラウズは2万人を超えている。しかし、これらを一緒にして増やすことには意味がなく、レーベルごとの個性を活かして情報発信チャンネルを分けるからこそ、効果が上がるのだ。
▲「猫部」の公式Twitterのフォロワーは6万8千人を超えており、猫テーマのコンテンツの強さが表れている。フェリシモ自体が積極的にキャラクター性やストーリー性のある猫を発掘し、その関連コンテンツを作ることで、ビジネスにつなげている。
▲独自のSNSにあたる「猫部トーク」。我が子(=飼い猫)を自慢したい愛猫家の心をくすぐるお題のハッシュタグ(このタイミングでは「#後頭部」)に合わせて、顧客から写真と短いコメントによる投稿が行われている。
また、SNSと並ぶフェリシモのコンテンツの柱がブログであり、こちらは商品そのものではなく、その活用法や、様々なテーマに沿った情報発信が行われている。それらの多くは、顧客の有志を部員とした「部活動」の名で行われている、趣味や社会貢献的なコンテンツページとも連動しており、興味に基づくコミュニティの醸成に役立っている。
▲部活動の数は、この図に収まりきれないほど多く、全部で25もある。すべてではないが、その活動報告的なものがブログとなっていたりする。また、部活動のいくつかは、コンテンツマーケティングの元素表のRo(ラウンドアップ)に相当する場合もあり、識者とともに生活の質を高めることを目指す姿勢が打ち出されている。
▲「女子DIY部」のブログのトップページ。フェリシモが扱っている製品をDIY的にアレンジして使い方を提案し、その製作過程や使い勝手をレポートする内容となっている。失敗談も含む等身大の内容が特徴といえる。
▲「猫部」のブログは、猫に関連する話題という括りなので、トピックもバラエティに富む。ブログメニューからもわかるように、猫グッズの企画から、マンガ、猫の譲渡会にいたるまで、14ものトピックに分かれている。
▲カタログとは別に有料で発行されている会員誌は、ある意味でコンテンツマーケティングの元素表のBk(ブック)に相当する。また、Ne(ニューズレター)にあたるメールマガジンも配信されている。
扱い商品に対する生産者のこだわりや、様々な習い事への誘い、そしてフェリシモ主催の講演会の告知と報告なども、それぞれ独立したセンスの良いサイトにまとめられており、販売を側面から支援したり、フェリシモという通販ブランドへのエンゲージメントを高める役割を果たす。これらは、それぞれのジャンルの製品や話題について、識者を交えて深掘りするRo(ラウンドアップ)系のコンテンツといえる。
▲道の駅ならぬ「Webの駅」は、各地の名産品を、食欲をそそるイメージや作り手の生の声によって紹介するコンテンツである。一部の商品は実際にオンライン注文できるが、それだけに留まらず、日本全国の街や特産品の魅力を紹介する内容となっている。
▲モノではなくコトにフォーカスし、日本の文化に根ざした生活体験を講座として提供する「にっぽんワークショップ」というコンテンツもある。ハード(製品)を販売するだけでなく、ソフト(使い方)とセットにするビジネスの方向性は、これからの消費のあり方を示唆するものだ。
▲ライフスタイルを向上させるマナーや技術を身につけられる通信講座的なサービスが「ミニツク」である。写真とイラストをうまく使い分けて内容をアピールし、リンク先のページを覗いてみたくなる工夫が見られる。
▲各界のプロを招いて、アートや文化をより深く知るために行なっている講演会が「神戸学校」だ。通販のイメージからは想像できないかもしれないが、ネット社会だからすべてオンラインで済ませるのではなく、実際に足を運んで体験を共にすることが大切になってくる。
▲すべてではないが、過去の講演会の詳細なレポートもあり、こうした蓄積もコンテンツマーケティングの重要な要素となる。講演者の権利関係で難しい場合もあるが、同じレベルのレポートの数を増やすこともエンゲージメントを高めるポイントになりうる部分だ。
先に触れたように、フェリシモはSNSへの力の入れ方が群を抜いているが、Webページも疎かにはしていない。むしろ、SNSに比べてデザインやレイアウトの自由度が高いことを利用して、レーベルや活動ごとに強弱をつけた特徴ある見せ方をすることで、それぞれのコンテンツを際立たせているといえる。
▲InstagramやTwitterにも展開している、これらのコンテンツのWebページを見てわかるのは、SNSよりも表現力に富んでいるということだ。SNSでは情報の扱いがフラットになりがちだが、戦略的に情報を見せることができるWebページが、それを補完する役割を担っているのである。
そのほか、フェリシモは、割合的には少ないものの、Vi(ビデオ)、Int(インタビュー)、Cs(ケーススタディ)的なコンテンツも用意している。今後、強化するとすれば、動画や、Facebookで採用されている3Dフォト(スマートフォンやタブレット上では見る角度によって、MacやPC上ではスクロールと連動して奥行きを感じられる写真イメージ)などは、同社のコンテンツと相性が良く、さらなるエンゲージメントの向上に貢献できるではないかと考えられよう。
▲動画は講演の記録に適していることもあり「神戸学校」のYouTubeチャンネルで公開されている。講演者の権利関係から、全公演を動画で公開することは難しいと思われるが、より充実が望まれるコンテンツだ。
▲「猫部」のブログでは、アニマルコミュニケーターの「岩津さんに聞く!」がコーナー化されているほか、単発のインタビューポストも散見される。猫の写真の強みが存分に発揮されているコンテンツである。
▲これは障がい者のためのモノづくりを軸にした「C.C.P.」で企画されたモニター利用者の取材ストーリーで、Cs(ケーススタディ)にあたるもの。他にも福祉作業所の訪問記などもあり、フェリシモの活動が社会貢献につながっていることが理解できる。
※文中で掲載している写真・図版は、すべてフェリシモ公式サイトからのキャプチャになります。
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大谷 和利(おおたに・かずとし)
テクノロジーライター、AssistOn取締役。スティーブ・ジョブズ、ビル・ゲイツ、スティーブ・ウォズニアックのインタビュー記事をはじめ、コンピュータ、カメラ、写真、デザイン、自転車分野の文筆活動を行うかたわら、製品開発のアドバイスなども行う。主な著書・監修書に『成功する会社はなぜ「写真」を大事にするのか』(講談社)、『ICTことば辞典:250の重要キーワード』(共著。三省堂)、『ビジュアルシフト』(監修。宣伝会議)、『インテル中興の祖 アンディ・グローブの世界』(同文館出版)。主な訳書に『Apple Design日本語版』(AXIS)、『スティーブ・ジョブズの再臨』(毎日コミュニケーションズ)。
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