vol.94
3D-CADデータを活用した3DCGアセット化の作業プロセスとは
3D-CADデータを活用して3DCGデータを効率よく制作するためには、アセットの管理が重要なポイントとなります。本セミナーは、「BtoBこそ取り組むべき、デジタルツインによる顧客体験変革と業務プロセス改善」の続編として、3DCGの制作やCGIのマネジメント業務に精通し、現在、アマナで3D-CADデータから3DCG制作用データへの変換を担当するCAD-CGI Sec.のマネジャー、鵜飼美生が登壇。「アウトプットに合わせた3DCGモデルデータ」と「3D-CADデータを活用したCG制作フロー」という観点から、3D-CADデータを活用した3DCGアセット化をスムーズに進めるための作業プロセスについて解説しました。
アマナは、過去20年にわたって3DCG制作に携わり、ビジネスの原点であった写真撮影を通じて培った製品のフォトリアル表現に関する知見を基に、業務拡大に伴うさまざまな3D-CADデータを取り扱ってきた経験を生かし、「クリエイティング・リアリティーズ」を追求してきました。
特に、3D-CADデータから3DCGモデルを効率よく制作し、それを製品の基本カット、イメージカット、そしてムービーというように、ワンソース・マルチユースで活用することは、プロモーション業務におけるDX推進に大きく貢献します。また、3DCGモデルデータは、マーケティングの世界で話題となっているメタバースや、バーチャル空間におけるコンテンツを充実させていくうえでも欠かせない要素です。こちらは、没入感のある新たな顧客体験を作り出すという意味で、CX向上につながっていきます。
このような観点から、企業の皆様には、3D-CADデータの活用をDX推進/CX向上のための大きな1つのきっかけと捉えていただければ幸いです。
アマナの鵜飼美生。
鵜飼美生(アマナ):それでは、アウトプットに合わせた3DCGモデルデータについてお話ししていきます。製品の3D-CADデータのアウトラインを活用することで、3DCGで画像や動画を精度高く、効率的に制作することができますが、その際に、目的に合わせたデータを用意することが重要です。
まず、3D-CADデータは、NURBS(ナーブス)と呼ばれる数式モデルに基づいて作られた曲面のデータですが、そのままでは3DCGソフトで扱いづらいため、平面の集合体であるポリゴン(多面体)データに変換してから、さまざまな用途に活用します。
分割数が多く精密な表現に向くものを「ハイポリゴンデータ」、分割数が少なく、その場で動かして見せるすのに適したものを「ローポリゴンデータ」と呼び、アウトプットの種類に応じてポリゴンの面の分割数を変えることが必要です。
たとえば、アウトプットが広告やCMなど高精細なビジュアルの場合、寄り(クロースアップ)にも耐えられるように、面の分割数が多いハイポリゴンデータが必要になります。一方で、動画コンテンツ用の場合、3DCG制作はリアルタイム描画に対応するUnityやUnreal Engine、あるいはPLAYCANVASなどを使用しますが、軽量化のために分割数を抑えたローポリゴンデータが必要です。
ハイポリゴンデータがあれば、そこからローポリンゴンデータに変換できそうですが、無理やり変換すると面が破綻したり、形状が壊れたりします。そうなると、手作業による修正が必要になって、結果的に作業時間やコストが増えるので避けてください。
たとえば、ハイポリゴンのジェットエンジンは、かなり寄っても高精細のイメージのままですが、これを無理やりローポリゴンにすると、タービンの羽根や穴のエッジの部分のディテールが崩れたり、面のつながり部分に隙間ができていることがわかります。
こうならないための解決策が、3D-CADデータの活用です。NURBSの状態であればポリゴンの分割数を設定したり編集するのも容易なので、ハイポリゴンとローポリゴンを別々に書き出すことができてコスト削減になります。
次に、カメラの3D-CADデータから、高品質な画像、動画制作に最適化された3DCGモデルとCGビジュアルを作るまでの基本的なワークフローを説明します。
まず大まかな流れですが、①最初に事前確認をして3DCG制作に必要な資料資材を受領。次に、② 3DCGモデルデータのセットアップを行い、③質感を設定します。そして、④製品の仕様チェックののち、⑤アングルハントで適切なアングルを決定。さらに⑥ライティングを決めて⑦レンダリングとなります。この場合のアングルハントやライティングは3DCGソフト内で行われますが、実際の写真撮影と同じく、その場で配置や角度を調整しながらシャッターを切るように画像をレンダリングしていくわけです。ただし、最終段階でのアングル変更要請は、ライティングからやり直しとなって納期にも影響が出ますので、ご注意ください。
こうして画像が出来上がったら、⑧必要な部分に2Dレタッチを施し、⑨チェックを経て納品となります。ここでは、①と②について詳しく説明していきますが、あくまでもアマナにおけるフローとなる点であることはご了承ください。
①の事前確認のチェック事項は、クライアント様のCG化の実績の有無や要望課題などです。特に、CG化の実績の有無はその後の作業に大きく影響します。そのため、初期段階での確認や、状況に合わせたサポートが重要です。
次に制作内容ですが、制作ボリュームやスケジュール、納品形態などを細かく確認していきます。また、効果的なビジュアル表現のために、商品の仕様だけでなく、コンセプトやターゲット層、訴求ポイントなども把握しておくことが大切です。そこで、基本的な確認事項の漏れを防いでコミュニケーションや進行を円滑化するために、制作実施指示書を用意しておきます。
では、3DCG制作資材の説明に移りますが、必要な資材はこちらの4つです。
1つ目のCADデータは、形式が大きく3パターンに分かれます。パターンAは、代表的な3D-CADソフトのネイティブ形式のCADデータですが、データ容量が1ファイル1GB以上になると処理が重くなりますので、分割して扱うことが必要です。加えて、CADソフトの名前やバージョン、トップアセンブリのファイル名も確認しておくことで、作業をスムーズに進められます。トップアセンブリというのは、3D-CAD上でパーツを組み立てた際の最上位の構造を意味しており、通常は製品自体にあたるものです。
一方で、ネイティブフォーマットでのデータ提供が難しい場合には、パターンBの互換フォーマットデータで対応します。しかし、CADデータは、ネイティブフォーマットから互換フォーマットへの変換時に破損しがちです。そこで、破損部分を補完しやすくして時間的なロスを減らす意味から、2種類のファイルを用意していただきます。その2種類のフォーマットは、STEPとParasolid形式、またはSTEPとACISの組み合わせが推奨です。どちらも、アセンブリ情報が付加された状態で、データ容量は1ファイルあたり1GB以上にならないように注意します。
そして、パターンCですが、元が3D-CADではなく2D-CADの場合、3DCGデータを制作するのはかなり工数がかかり、細部の形状確認も大変になるため、現実的ではありません。しかし、どうしても2D図面から3DCGの制作が必要になった場合には、DWGかDXFが一般的なフォーマットです。加えて、元データの表示イメージを書き出したPDFファイルがあれば、制作サイドで正しい形状を確認でき、より確実といえます。
さらに、A、B、Cのすべてのパターンに共通することですが、内部構造までビジュアライズする場合は内部のデータも必要となりますので、ご注意ください。
なお、アマナでは主に3ds Max、Maya、Houdiniを3DCGソフトとして使用しています。
さて、必要な資材の2つ目は、デザイン仕様書です。これは、各部品に対して色や質感を指定するための指示書です。また、製品に可動部がある場合は、軸となる部分や可動範囲がわかる資料も必要となります。同様に、内部構造などもビジュアライズするのであれば、内部データの指示書も必要です。ただし、こうした仕様書の準備が難しい場合は、現物やモックアップなどを取材して対応することもできます。
必要な資材の3つ目は、商品にプリントされているロゴや文字、ラベルなどの版下データと、それらの位置およびサイズ情報です。これは、イラストレーター形式またはPDF形式のファイルで、必ずアウトライン化されているものを用意してください。もしも、ロゴや文字を製品上に配置するための位置やサイズ情報が版下データ内にない場合には、別途その資料も必要です。
4つ目ですが、色と質感の参考資料になります。具体的には、色チップやモックアップ、あるいは参考になる既存製品などがこれにあたりますが、準備が難しい場合は現物を取材して対応可能です。
なお、ここでご紹介した4つの資材は基本的なものですから、製品によっては別途異なる資材が必要なこともあります。たとえば、布製品の場合、型紙や縫製の詳細がわかるサンプル、ボタンやファスナーなどのパーツ類、そして柄の資料やデザイン画などが必要です。また、布製品は3D-CADデータがないことがほとんどです。たとえばソファなどの3D-CADデータはベースの硬い部品形状のみで、クッションや布部分はデータがないか簡易形状になっています。そのため、実物を取材して3Dスキャンを行うこともあります。アパレル系の製品も3D-CADデータはなく、2Dのパターンデータしかないため、2Dデータを3Dデータにする作業が必要です。布や革などの柔らかいものは硬い家電製品のようなフォトリアル感を出すことが難しく、そのあたりは今後の課題です。
いずれにしても、精度が高いCGモデルデータを作るには、情報やデータがあればあるほど良いといえます。
ワークフローの2番目に移りまして、必要な資材の受領後に3D-CADデータを3DCG制作に最適なモデルデータとなるようにセットアップしていくのですが、その主な作業項目は8つあります。
項目1は、データの事前確認です。データが開かない、または開いたデータに大きな破損があった場合、制作側では修正ができないため、再度CADデータを準備していただくことになります。
項目2は、最適なポリゴン変換です。形状の綺麗さとデータの軽さを両立させることが求められます。特に小さなネジなどは、製品本体と同じ分割数では粗くなるので、部品に合わせた調整が必要です。
項目3は、データの確認と報告です。仕様書やモックアップとCADデータとを比較して、確認を行います。データの過不足や破損部品などがあれば、関係部署への報告や修正依頼が必要です。
たとえば、レンズを外したカメラのビジュアルを作ろうとしてソフト上でレンズを外したら中身がなかったという場合には、 別途、データ支給依頼の資料を作ります。少し手間がかかっても、依頼内容を理解しやすい資料にすることが大切です。アマナでは、チェック項目をまとめた表を用意して、すべてがクリアになるように細かく確認しています。
項目4は、3DCGモデルデータの調整です。まずは面の向きですが、CADデータでは面の表と裏がそろっていなくても問題ないのに対し、CGでは裏面の部分が真っ黒に表示されたりします。そこで、すべての面が表を向くような調整が必要です。
続いて、不要部分の削除ですが、データを軽量化して作業効率をアップするために、設計時にのみに必要だったデータやビジュアライズに影響のない内部データなどを削除します。
さらに、1つの部品の中で頂点やエッジが結合されていない部分があると、CG制作上不具合が生じることがあるため、隙間を結合する作業を行います。静止画では小さなエラーに見えても動画では顕著になって製品自体の評価を落とす可能性もあるので、この作業は大切です。基本的にはソフトウェアで一括して結合できるものの、それで対応できない部分は、形状が崩れないように注意しながら手作業で結合していきます。
続けて、質感ごとの切り分け作業も行います。CADデータでは一つの形状でも、実際の製品では塗装や加工で仕上げが分かれている場合があり、CGにする際には、色や質感ごとにパーツを分離するほうが効率的です。そこで、仕様書やモックアップなどを参考にして、たとえば、操作ダイヤルの文字の底の部分の色指定が白になっているなら底面だけを切り分け、角の部分の仕上げが異なるならそれも切り分けます。
それから不足パーツやケーブル端子、ネジなどの規格品の追加も必要です。規格品の部分は、元データでは省略されたり簡易形状になっていることが多いので、資料や製品を参考しながら別途モデリングして追加や差し替えをします。
項目5は、エッジのR(丸め)加工です。金型用のCADデータにはエッジにRがついていないため、よりリアルなビジュアル表現をCGで行うにはRを付けなければなりません。ただし、CG制作の手法によっては、この加工をしない場合もあります。
項目6は、版下のオブジェクト設定です。製品表面のプリント文字や刻印は、CGでは版下の2次元データから3次元の板状データを作り、オブジェクトの上に配置する形になります。フラットではない面に対して配置する場合には、歪まないような角度に調整しながら制作することになりますが、テクスチャーを貼り付けて再現するよりも、3次元データを作るほうが、位置やサイズを正確に設定することが可能です。
項目7は、UV展開と調整です。UV展開とは、製品表面に柄や模様がある場合に、その柄や模様を貼り込む部分の3Dデータを平面に展開する技法を指します。カメラのグリップ部分の革のシボ加工などのテクスチャを貼る際などに、こうした作業が必要です。 グリップの3Dデータを平面に展開し、テクスチャに歪みがないように調整するのですが、たとえば自動車のハンドルのように形状が複雑なものでは、かなり大変な作業になります。
項目8は、リグ設定で、製品に可動部分がある場合の、軸や可動範囲の設定です。仕様書やモックアップを参考に設定しますが、カメラの背面の液晶パネルのように軸を入れて回転角を決めるだけで済む場合もある一方、可動部が多く、機構が複雑な医療用ベッドのような製品では難しい作業となります。
以上のような段階を経て3D-CADデータを3DCGモデルデータ化し、質感設定を行うと、基本カットからイメージカット、機能説明カット、動画制作までビジュアライズのマルチユース展開が可能です。そのためにも土台となる形状を精度高く丁寧に作ることがとても大切であり、そこから正しい色や質感を設定したモデルデータを完成させれば、後は演出表現のライティングなどの作業に集中して高品質な静止画や動画を作ることができます。
アマナでは、3D-CADデータ活用のために、以下のような各種ソリューションを提供しています。
・3D-CADデータコンバートサービス
3D-CADデータから3DCGデータモデルデータへのセットアップを行うサービスで、3D-CADデータを活用したビジュアル制作を検討、または内製化されているメーカー様などが対象です。
3DCG制作で扱いやすいデータへの変換はもちろん、版下の設定やUV展開なども含めて精度の高い3DCGモデルデータをご提供します。ただし、質感設定はご利用の3DCGソフトウェアごとに異なるため、このサービスには含まれませんので、ご注意ください。また、費用については製品の複雑さに応じて変わってきますので、お問い合わせください。
・3DCG制作導入支援サービス
過去約20年にわたり、さまざまなメーカー様と商品に対して、3D-CADデータ活用のCGビジュアライズを行ってきたノウハウに基づくコンサルティングサービスです。
3D-CADデータを活用したビジュアル制作を検討しているが何から始めたらよいか、どのような情報が必要なのかがわからない企業様、あるいは、すでに取り組んでいるものの制作フローや進め方に課題を感じているメーカー様をサポートし、問題を解決いたします。
・3DCG商品情報管理システム(企画検討中)
3DCG制作において必要な情報は、多岐にわたります。特に、3DCGモデル用のハイポリゴンデータとローポリゴンデータの効率的な生成を含めて、これらの情報を一元管理することが、プロモーションにおけるDX推進への第一歩です。そこで、3D-CADデータを可視化する3D-CADデータビューアーの搭載も視野に、クライアント様に3D-CADデータを格納していただければ、弊社側で3DCGモデルデータを作成できるようなシステムの開発を企画中です。
実際に使われるお客様が使いやすいシステムを設計するうえで、弊社と共同で開発に関わっていただける企業様を募集しておりますので、ご興味があればぜひご連絡ください。