vol.102
弁護士が解説! 企業SNSからメタバースまで。知っておきたい著作権まわりのトラブル回避法
SNSやWebサイトなどを通して企業自ら情報発信する機会が増えたことで、権利トラブルが発生するリスクも増しています。本セミナーでは、知的財産権の第一人者である福井健策弁護士をゲストに迎え、企業が広報活動や営業活動をする上で知っておきたい著作権まわりの注意ポイントを解説していただきました。加えて、肖像権や参入企業が続々と増えているメタバースの権利問題についてもお話いただきました。
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まずは著作権の基本からお話ししましょう。著作権は「著作物」と呼ばれる、人が創作した情報だけに与えられる権利です。創作的な表現といっても非常に抽象的ですから、法律では著作物の参考例をあげています。
まず小説や脚本、講演などの言葉の作品、つまり文章やテキストが著作物となります。詩や短歌もこれにあてはまります。音楽では、作詞、作曲など楽譜に書ける情報は著作物ですが、それを歌う歌手、演奏するミュージシャンは著作者とはなりません。振り付けが著作物となる舞踊・無言劇(パントマイム)も、踊る人ではなく振り付けを考えた人が著作者です。絵画や彫刻だけでなく、CGやイラスト含めビジュアル作品はすべて美術の著作物ですし、漫画は文章と美術の複合的な作品ですね。建築芸術と言えるような創作性・表現性のある建物は、それ自体が著作物です。図形の著作物は、地図や設計図などが例にあげられます。そして、動画や映像は広く「映画の著作物」と呼びます。劇場用映画だけでなくテレビ番組やWeb上にある短い動画もこれにあてはまるんです。実写に限らず、アニメやゲームの動画もそうです。コンピューターのプログラムも著作物ですから、ゲームはプログラムの著作物でもあります。創作性のある写真も著作物です。
9つの著作物の例をお話ししました。これで大方はカバーできると思いますが、実務で判断に困るのは、この例だけでは判断がつかないケースです。そんなときは、逆の視点から考えると判断しやすいかもしれません。つまり「創作的な表現と言えないものは何か」「どういう情報は著作物にあたらないのか」です。ここで例を5つご紹介します。著作物にあたらないものは自由に使えますから、自由に使える情報として覚えておくと便利です。
① 定型的な表現
例えば小説を読んで印象に残った一文があったとします。自分が小説を書くときにその一文に似た言い回しを使ったとしても、大抵のケースでは法に触れません。どんな創作的な小説も一文ごとに分解すれば、ありふれた定型文が大半でしょう。小説全体が著作物だとしても、使ってよいかどうかは借りてきた一文が創作的な表現かどうかで決まるのです。
② 歴史的事実と客観的なデータ
新聞記事から、いつ、誰が、何をしたといった事実だけを拾い上げるのは自由です。ただし、記事の表現を真似るのはダメですよ。
③ アイデア
アイデアや方法論といった、表現の根底にある基本的な着想も著作権では守られません。例えば、猫の一人称で小説を書くというのは天才的な閃きですけれど、そのアイデアだけを借用するのは自由なんですね。
④ 名称、単純なマーク
多くの場合で「名称」や「単純なマーク」といったものも著作物にはあたりません。組み合わせがある程度有限なものを著作権で独占させてしまうと、使えない表現ばかりになってしまって、かえって社会が困ることになるからなんですね。五輪のマークは著作物ではないという日本の裁判例もあります。五輪マークは著作権ではなく商標登録で守られています。
⑤ 実用品のデザイン
最後にあげるのは「実用品のデザイン」です。例えばペン、メガネ、既成服、スマホなど、身の回りにある実用品のデザインの多くは著作物ではないんです。これらがすべて著作物だとすると、放送ビジネスなどは壊滅的なダメージですよね。
著作物は11の権利で守られています。どんな無断利用が禁止されているのか、大事なところだけピックアップしてご紹介しましょう。
① 複製権
作品の複製を禁止する権利です。手で書き写したものも含まれます。
② 上演権・演奏権
公衆の前での作品上演・演奏を禁止する権利です。公衆とは「不特定又は多数」の人を指しますが、ここで注意が必要なのは『又は』というところです。不特定(=個人的なつながりがない)の人が1人でもいたらダメ、特定の人(例えば友人)だけだとしても大勢いたらダメということなんですね。もうひとつ気をつけないといけないのは、スマホなどでの音源再生です。これも演奏にあたります。
③ 上映権
公衆の前での上映を禁止する権利です。映像だけでなく、パワーポイントのプレゼンテーションも上映にあたるので注意が必要です。
④ 公衆送信権
公衆に作品を送信することを禁止する権利です。SNSやWebに著作物を勝手にアップして問題になるのは、この権利の侵害が多いですね。
JASRAC(一般社団法人日本音楽著作権協会)は、メタバースでの音楽利用の著作権ルールについて公表しています。メタバースでアバター相手に歌うのも著作権侵害になり得ますので、一度ご覧いただくとよいと思います。
⑥ 展示権
美術や写真の原作品、いわゆる「オリジナル」にだけに働く珍しい権利です。複製されたものには適用されないので、印刷されたポスターや雑誌を展示するのは自由ということですね。
⑧ 譲渡権
こちらは作品を無断で公衆に譲渡することを禁止する権利ですが、一度正規の流通ルートで販売されたものは以後の転売・譲渡は自由だという例外規定があります。限定グッズや非売品がフリマサイトやオークションへ出品される問題は、法的にはどうでしょうか。一度正規の流通ルートを経た限定グッズの出品は、著作権に限って言えば問題ありません(著作権以外の何かの規約に触れることはあるかもしれません)。しかし非売品は正規の流通ルートに乗っていませんから、権利侵害となりますね。
⑨ 貸与権
無断でレンタルビジネスに使うことを禁止する権利です。
⑩ 翻訳権
作品の無断翻訳を禁止する権利、「翻案権」は自分の作品を「パクるな」と言える権利です。作品を真似て類似の作品を作ることを禁止できます。盗作論争は、この翻案権の侵害があるかどうかの論争です。
⑪ 二次的著作物の利用権
原作を翻案して作られたものを「二次的著作物」と言います。小説の漫画化や映像化、ゲーム化等がこれにあたります。例えば、井上雄彦氏が描いた漫画『バカボンド』(講談社)。吉川英治氏の『宮本武蔵』が原作の翻案で、吉川氏の遺族から制作の許可を得ています。では、この作品をアニメ化(再翻案)する場合、誰の許可が必要でしょうか。答えは、漫画の著作権を持つ井上氏と、その原作の著作権を持つ吉川氏の遺族ということになります(正確には、今は吉川氏の著作権はもう切れていますが)。二次的著作物を利用するときには原作者の許可も必要となる。これが最後の「二次的著作物の利用権」です。
著作権法にはたくさんの例外規定があります。今回は広報活動、営業活動に関わりそうなものをピックアップしてお話ししましょう。
個人的な楽しみや勉強のために著作物を録画したり複製したりすることは、例外規定で許されています。しかし、会社の業務のために資料をコピーするのは私的使用ではないというのが通説です。撮影した写真の背景に著作物が写り込むことも、軽微であれば著作権侵害にはなりません。CG化も許されているのでメタバースにもこの規定は適用されます。
引用は皆さんもご存知だと思います。一定の注意点を守れば、人の作品を自分の作品の中で紹介することができます。企業の広報活動においても使えます。
次の「公開の美術・建築の利用」も大きな例外規定です。公開の美術とは屋外に展示されている美術(パブリックアート)です。例えば著作物かはやや微妙ですが、上野の西郷隆盛像、東京タワー。こういった美術や建築物は写し込んでも問題ありません。商業利用であっても大丈夫です。
ごく最近規定された例外に、検索・解析サービスのためのアーカイブ化と軽微表示があります。検索サービスや情報解析サービスでは、検索やAIの学習のために情報を蓄積する必要があるため、市販の作品などをスキャンしてデジタル化することも許されています。この他、著作権者の所在不明や意思表示が確認できない場合の、時限利用を許す規定などが今後に向けて検討されています。
利用形態、使いたい素材・要素とそれに関わる権利を一覧にしました。ここまでの復習にお使いください。赤丸は権利者に許諾が必要なもの、緑文字は例外規定です。この許諾・非許諾をうまく組み合わせていくことがプロジェクトの権利処理の要となりますので、皆さんぜひ身につけていただければと思います。
ここまで著作権についてお話ししてきましたが、肖像権についても少しお話ししようと思います。
Arthur Sasse氏が撮影した、有名なアインシュタインの写真で考えてみましょう。この写真を利用しようとした場合、許可をとるのはSasse氏の遺族だけでよいでしょうか。この写真の著作者はSasse氏ですが、写真の主役はアインシュタインなので、アインシュタインの遺族にも許可を得なくてはいけないのではないか? 判断に迷いますね。これが肖像権の問題です。実は著作権と違い、肖像権法という法律はありません。判例はあるけれど条文はない。なので非常に曖昧で、過去の裁判例から読み解いていくしかありません。ケースによってもさまざまですから、一般人にはなかなか難しい判断です。
肖像権の考え方の指針を示そうと、私が法制度部長をしているデジタルアーカイブ学会では「肖像権ガイドライン」というものを公開しています。ご興味あれば一度ご覧ください。
最後のトピックはメタバースの権利問題についてです。すでに参入している企業にとってもこれから参入する企業にとっても、メタバースの権利処理は大きな壁のひとつとなるでしょう。
例えば、実在の街や実在の人物をメタバース内に再現するとしたら、どんな権利処理が必要になるでしょうか。建物や、看板のような屋外の美術は例外規定でセーフになるかもしれませんが、実在の人物を再現するとなれば肖像権を検討しなければなりません。ポスターなど、ものによっては公衆送信権にも触れる可能性がありますし、商標権を侵害するものがあるかもしれません。このように、仮想といえど、世界を丸ごと作るには、いろいろな要素とそれに関わる権利処理がでてきます。
本日は、著作権の基礎知識、肖像権の問題を最近の話題に絡めてご紹介しました。皆さんのお役に立てれば幸いです。
深すぎる落とし穴を避けると同時に、萎縮しないためにも正しい知識が役に立ちます。権利問題に萎縮して魅力的な広報活動ができないようでは、何のために権利を学んでいるのかわからなくなってしまいます。正しい知識を活用してぜひ創造の幅を広げていただきたいと思っています。
(終わり)
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昨今、SNSやオウンドメディアなどでさまざまな情報コンテンツの発信が増えている中、それに比例してコンテンツにかかる権利トラブルのリスクも高まっています。アマナでは長年のクリエイティブ制作の中で培った著作権に関するナレッジを、セミナーコンテンツ『amana著作権勉強会』としてご提供。 さまざまなトラブル事例をもとに、情報発信を行う際、注意しなければならないポイントを解説します。