エヌ・ティ・ティ・コミュニケーションズ(以下、NTTコミュニケーションズ)の「OPEN HUB for Smart World(以下、OPEN HUB)」が1周年を迎えたタイミングでオープンした「OPEN HUB Virtual Park(以下、VIRTUAL PARK)」は、メタバース上に作られたデジタルツインコミュニティです。空間や距離に縛られないメタバース空間の特性を活かしながら、これからの時代にふさわしい新しいコミュニケーションの形や事業共創のあり方を模索しています。
「OPEN HUB」のスタートと今後のコミュニケーションについて取り上げた『「OPEN HUB for Smart World」という事業共創の場で求められるリアルとバーチャルの融合と、ある種の異質さについて』に続いて今回は、NTTコミュニケーションズでカタリストを務める大塚龍一さんと、アマナで企業やブランドのプロモーションコンテンツプランニングなどを手掛けるFIGLABテクニカルディレクターの新村卓宏、そして2度目の登場となるアマナでプロデューサーを務める佐藤千尋の3名が、「VIRTUAL PARK」立ち上げ期のエピソードや、今後の展望などについて語り合いました。
――「VIRTUAL PARK」構築プロジェクトはどのようにして始まったのでしょうか。
佐藤千尋(以下、佐藤):2022年に大手町プレイスウエストタワーにオープンした、最先端技術を備えたワークプレイス「OPEN HUB Park」をメタバース上に再現し、これまでにない新しいコミュニケーションの形や事業共創のあり方を模索できる空間にしたいというリクエストをいただいたのが最初で……。当初は具体的に何をするか、NTTコミュニケーションズさんの方でもまだ決めかねていたところもあり、今の形が見えてくるまで何度もディスカッションを重ねてきました。
大塚龍一さん(以下、大塚):リアルの場に開設したワークプレイスに、ありがたいことにたくさんのお客様が来てくださるようになる中、遠方の方たちとも同様にコミュニケーションが図れる方法を模索していました。オウンドメディアによる情報発信に力を入れたりウェビナーを開催したりと、場所に縛られないリモートでのコミュニケーションにも取り組んでいますが、より双方向である必要性を感じ、リアルでもリモートでもない3つ目の共創の場として、「VIRTUAL PARK」を立ち上げようと考えました。
メタバース上に再現するというアイデアは、各所でメタバース市場の拡大が予想される中で、「自社でも取り組んでみたいけれど何から手を付ければいいかわからない」といった声が、当社のお客様からもよく聞こえてくるようになったためです。アマナさんには、リアル環境ではハードルが高い新技術の実証など、自らを実験場としてさまざまなチャレンジができる、そんな場を作りたいと相談を持ちかけました。
新村卓宏(以下、新村):デジタルツインコミュニティを作りたいという部分ははっきりしていたのですが、それ以外の要件、どのように実装するか、どのような体験設計にするかについては、一緒に相談しながら決めていった印象があります。目的や狙いは変わらないようにしながらこちらが考える最良の手段を提案して……ということを繰り返しましたね。
――改めて「VIRTUAL PARK」の特徴を教えてください。
新村:どういうプラットフォームを使うべきなのか、何ができたらデジタルツインコミュニティは成功なのか、などといった話し合いを進めていくうちに、やはり普通のビジネスパーソンに会社のPCで3D空間にアクセスしてもらって、その中でいきなり何かしてくださいと言うのはなかなか難しいねという話になったんです。それで、わかりやすくてユーザビリティの高い入り口が必要だろうということで、まずはリアルの「OPEN HUB Park」のデザインを踏襲した、周囲を360度見回せて回遊もできる高精細なCGの世界を構築しました。
新村:次はそれをベースにして、その中に来訪者たちが互いに会話できるメタバース空間や、100年後の未来の姿からバックキャストで課題解決の糸口を探してもらうことを想定した未来年表など、それぞれ違う特性を持ったコンテンツを埋め込んでいきました。また、新しいコミュニケーションの形を考えるというところでは、「NTT XR Space WEB(DOOR)」を用いて、議論専用の空間「ホワイトキューブ」を提供しています。これは空間自体に意味を持たせることで議論を促進しようというトライアルの1つで、議論が深まっていくと来訪者たちが空間を遷移していく少しユニークな作りになっています。
大塚:リアルの空間の雰囲気を踏襲しつつも、書架が杉の大樹になっていたりと、リアルでは表現できない遊び心が散りばめられていて、新しい感覚を得られる空間になったと思います。特に、XRやメタバースの課題に悩んでいるお客様にとっては、誰かに相談したいと思ったときの最初の一歩が見つかる場になっているのではないでしょうか。
アマナさんには、こうしてユーザーの体験設計やコミュニケーションを活性化させるための導線作りまで考えていただき、とても感謝しています。おかげで社内への浸透は結構進んでいて、これまで紙の提案資料を用いた対面営業が中心だった担当者が、まずはお客様に「VIRTUAL PARK」に入ってもらい、「ここで一緒に何かしましょう」などと提案するケースもちらほら見られるようになっています。私としては、このような「VIRTUAL PARK」自体をオファリングツールとして用いる新しい提案スタイルが、この先も広がってくれることを期待しています。
――構築にあたって、苦労したことはありますか?
新村:これはデザイン面の話ですが、さっきお話したように議論専用の空間をDOORというVRプラットフォームを用いて作った際、通常、ウェブベースのメタバース空間では、3Dモデルのポリゴン数(3Dオブジェクトを構成している面の数。ポリゴン数が多いほど、よりなめらかに表現される)を抑えなければいけないのですが、求められているのはかなりリッチな表現だったので、そこは結構、苦労したというか……。ユーザーに伝えたいことや体験してもらいたい内容を精査して、省略できるところは思いきって省略するなど、いろいろと工夫を凝らしました。
佐藤:「OPEN HUB」が1周年を迎えたタイミングでオープンというのは譲れなかったので、納期との戦いも結構、大変でした(笑)。
ただ、限られた時間の中で、やれることを提案するというのは確かに大変だったのですが、指示されたことを形にするというよりは、「そういうことを実現したいなら、別の表現方法を選んだ方がよいと思います」などと、逆にこちらの意見をお戻しする場面も何度かありました。それを社内で検討された後に「アマナさんがそれを勧めるならそっちにしましょう」と受け入れていただくことができたので、本当に一緒に作り上げたという感覚です。
大塚:リアルやリモートではできない、バーチャルならではのことをしたいんだと言い続けてきたと思います。運用面に関してはまだまだ試行錯誤の段階ですが、同じ課題を持ったお客様同士が繋がり、コミュニケーションを図れる立派なバーチャル空間が誕生したことを嬉しく思っています。
新村:特に最初の頃は、リアルでこういうことをしているからバーチャルでも同じようにやりたいとか、逆にリアルでやっていることをそのままやるのが本当に良いのかといった議論を何度もしたことを思い出しました。我々としてもそのおかげで、バーチャル空間の意味、体験価値、可能性といったものを改めて考えるいい機会になったと感じています。
――制作サイドのモチベーションはどのようなものだったのでしょうか?
新村:まさに今が旬で、今後も大きな広がりが予想されているメタバースという領域のプロジェクトに携われていることが挙げられると思います。先程も話した、「会社のPCからいきなりメタバース空間に入って何かやれって言われても難しいよね」みたいな受け止めは、普段の制作環境では意外と気づきにくいところで人間の機微に関する知見が蓄積されていくことも貴重だと思っています。
――最後に、現在の状況と今後の展望をお聞かせください。
大塚:2023年3月にオープンし、10月に新しいコンテンツを追加実装する予定ですが、ようやく、基礎ができてきたというのが正直な感想です。事業共創を促すためのコンテンツも、コミュニティの活性化も、本当のスタートはこれから。シーズン2に期待してもらいたいですね。
ちなみに直近で検討を進めているのは、「VIRTUAL PARK」を訪れた人たちのログをもっと有効活用する方法についてです。バーチャルの利点の1つだと思いますが、どのような人が、どれくらいの時間、どのコンテンツにアクセスしたのかのログが取れているので、お客様自身もまだ気づいていない潜在的なニーズに先回りしてアプローチするようなことを今後はもっと積極的に進めていきたいと考えています。
新村:アマナとしても、恒常的にメタバース空間を訪れ、行動してもらうための工夫やきっかけ作りについて、考えていきたいと思っています。
大塚:さらに、来訪者たちが抱えている課題が視覚化されるグラフィカルマッピングのようなものを実装できれば面白いんじゃないかなと思っています。実現すれば、同じ課題を持っているお客様同士が繋がったり、自社の課題の解決に繋がるソリューションを持った企業とスムーズに出会うことができるはずで、コミュニティもより活性化するのではないかと考えているのですが、いかがでしょうか?
佐藤:バーチャル空間ならではの方法でマッチングを促すというのは、とても面白そうですね。この先、「VIRTUAL PARK」が発展していくためには、いかにユーザーを巻き込んで盛り上げる仕組みを作っていけるかがこれまで以上に重要になってくると思います。引き続き、皆さんと活発なディスカッションを重ねながら、新しい形のコミュニケーションを模索し、そして社会実装に寄与できるように伴走を続けていきたいと考えています。
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取材・文:石川遍
編集:大橋智子(アマナ)
撮影:AKANE(アマナ)
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