ソニーデザインの真髄:本質を追求する1.5秒のストーリー|THE MEET UP vol.1

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Text by 中尾 慎

SPEAKER スピーカー

企業のブランディングやコーポレート領域のデザインをはじめとして、魅力的なデザインを生み出すために重視すべきものとは何なのでしょうか。

6月21日に開催されたアマナのリアルイベント「THE MEET UP vol.1」の本セッションでは、ソニーグループ株式会社クリエイティブセンターのシニアクリエイティブディレクター・前坂大吾氏をゲストに迎えて、ソニーのデザインで重視してきた「本質」に焦点を当てて、お話いただきました。

ファシリテーターは、企業のブランディングを中心に、コミュニケーションデザインを構築するアマナのブランドプランナー/Co-クリエイティブディレクターの村上英司が務めました。

ソニーの「クリエイティブセンター」のポジションと役割

日本ではエレクトロニクスのイメージが強いソニーですが、エンタテインメントや金融サービスなどさまざまな事業を展開しており、大きく以下の6つに区分されます。

【ソニーの主要6事業】
・ゲーム&ネットワークサービス
・音楽
・映画
・エンタテインメント・ テクノロジー&サービス
・イメージング&センシング・ソリューション
・金融

この主要6事業をクリエイティブの力でつなぐ「クリエイティブハブ」の役割を持つのが、前坂氏が所属する「クリエイティブセンター」です。クリエイティブセンターはソニーのヘッドクォーターである「ソニーグループ株式会社」の中核に位置し、ソニーグループ全体の企業価値の向上に貢献しています。

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前坂大吾氏(ソニーグループ/シニアクリエイティブディレクター)

ソニーの事業は前述の通り、プロダクト、デバイスソリューション、ファイナンス、エンターテインメントなど領域もさまざまです。そのため、以下のクリエイティブセンターが携わったプロジェクトを一部まとめたリール動画からもわかるように、クリエイティブセンターが手がけるデザインのアウトプットも多様化しています。

クリエイティブセンターでは、主に以下の3領域のデザインを手がけています。

インダストリアルデザイン(ID):プロダクトのハードウェアデザイン
UI/UXデザイン:メタバースやアプリなどのユーザーインターフェースやサービスのデザイン
コミュニケーションデザイン・空間デザイン(CD):ロゴやパッケージ、コピーやイベント空間などのデザイン

前坂氏は、「この3領域は独立して存在しているのではなく、互いに融合・進化している」と話します。

ソニーのデザインフィロソフィーから見る「本質」

「クリエイティブハブ」という役割を担うクリエイティブセンターでは、ソニーのデザインフィロソフィー【「原型」を創る(Create New Standards)】を策定し、その考えに基づいて日々さまざまなプロジェクトに携わっています。sony_design_philosophy.jpg

Sony Design Philosophy

ここでの「原型」とは、「物そのものの形だけを示すのではなく、広義の価値を示す」と前坂氏は話します。「New Standards」と訳されているように、ソニーとしてイノベーティブな新しいライフスタイルやスタンダードを目指していく姿勢を示す意思が込められています。

デザインフィロソフィーの再定義は、2019年にSony’s Purpose【クリエイティビティとテクノロジーの力で、世界を感動で満たす。】が策定されたことを皮切りに決行されました。

デザインフィロソフィーの再定義にあたって、「メンバーに共感されて、各々が解釈して実践するようなものにしなければ意味がないと考え、全メンバーにアンケートを取ったりキーパーソンにインタビューをしたり、ワークショップなどを実施しながら策定しました」と前坂氏は当時を振り返ります。

デザイン=膨大な情報の中から「本質」を見つけ出し可視化する

ソニーのデザインフィロソフィーでは、「先駆」「本質」「共感」を掲げています。前坂氏はこの中でも特に「本質」を重視していると話します。

デザインとは、膨大な情報の中から本質だけを探り当ててそれを可視化する、つまり、0から1を生み出すのではなく、10を1にする作業だといえます。前坂氏は、「デザイナーとして常に『本質』は重要視しなくてはならない概念であり、本質を見定めたうえでシンプルに表現することで、より伝わるデザインが作れる」と言います。

1.5秒にCIを凝縮したソニーの新しいモーションロゴ

前述の「本質」を見定めて表現したデザイン例として、ウェビナーで前坂氏はソニーのモーションロゴを挙げました。ソニーのモーションロゴは、パーパスの策定がなされるなどソニーが会社としての転換期を迎えたことを受けて、2022年に生まれ変わりました。

モーションロゴはソニーグループの象徴ですが、わずか1.5秒の短いものです。このわずか1.5秒にソニーの理念を落とし込むために、クリエイティブセンターを中心に「本質の一滴」を絞り出す作業をしました。この作業には、1年ほどの期間がかかっています。

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モーションロゴで表現したいソニーのCI(コーポレートアイデンティティ)は、次が挙げられます。

・パーパス:「クリエイティビティとテクノロジーの力で、世界を感動で満たす」
・アイデンティティ:「テクノロジーに裏打ちされたクリエイティブエンタテインメントカンパニー」
・コーポレートディレクション:「人に近づく」

これらをモーションロゴに落とし込むことはもちろん、前述したソニーの主要6事業のそれぞれの領域で横断して使うことによるシナジーの創出なども目指しながら、本質を探り当てていきました。

完成したモーションロゴは、以下の動画の通り。奥に見えるソニーロゴタイプが徐々に近づき、ソニーと人の間にある境界を突破した瞬間に共鳴の余波が広がり感動が世界を満たしていく、というストーリーを表現しています。

「ソニーが人に近づき、響き合う」様子を表現するために、CGのみで制作するのではなく、ソニーのロゴを立体で作り実写で撮影を行いました。オーガニックさを追求し実写で撮影を行うことで、リアルな光や影、テンションをそのままモーションロゴに落とし込んでいます。

このようにしてモーションロゴが完成したものの、パーパスにある「テクノロジーの力」をどう反映するかという課題が残りました。そこで、クリエイティブセンターでは、映像コンテンツに合わせてモーションロゴの色を自動生成できる「モーションロゴジェネレーター」というアプリを独自開発しました。

このアプリはソニーコンピュータサイエンス研究所(ソニーCSL)のコンピュータ技術で配色を自動的に生成・創造する技術「OmoiiroTM」を使用しています。この技術により、ラストフレームに黄色が多く使われている映像には黄色いロゴ、白黒の映像には白黒のロゴというように、映像との親和性の高いモーションロゴを映像制作者が簡単に作ることができます。

モーションロゴのデザインに、映像のカラーに合わせて最適なロゴを自動生成するアプリを組み合わせることで、ソニーのクリエイティビティとテクノロジーが融合した新たなモーションロゴが完成しました。

このような映像や事業を表すために「色」を用いる発想と、それを実現させるテクノロジーの力に対して、村上は「多岐にわたるソニーの事業は、たしかに一色では表現できない。素晴らしい仕組み」と感動の声を上げます。

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村上英司(アマナ/ブランドプランナー、Co-クリエイティブディレクター)

インハウスのデザイナーだからこそ見える「本質」

クリエイティブセンターは、インハウスのクリエイティブチームです。村上は、「私も弊社アマナの理念改革プロジェクトにも携わったが、社内プロジェクトを推進していく作業は決定フローやエンゲージメントづくりなど苦労が多かった」と自身の経験を振り返りながら、前坂氏に「インハウスデザイナーだからこその強み」を問います。

インハウスデザイナーは、外部のデザイナーと異なり、社内のさまざまな情報にアクセスできるほか、トップマネジメント層などとの直接の会話も可能です。ここのポジションこそがインハウスデザイナーの強み、つまり、「社内の本質が見えやすい」点が最大の強みであると前坂氏は話します。

社内プロジェクトの場合、依頼元は外部の顧客ではなく、自社のメンバーです。クライアントではなく、パートナーとして自社のメンバーとともに課題を見つけ、デザインという事業で課題を解決していく。いわばコンサルティングに近いようなやり方で社内の本質を捉えられることが、インハウスデザイナーの大きなメリットです。

前述したモーションロゴの例のように、本質をつかむということはデザインの土台・根幹です。そのため、インハウスデザイナーが正しく本質を理解しディレクションすることで、制作チームが外部チームであっても本質を掴んだデザイン表現ができるといえます。

これは、アマナが掲げる「Co-Creation Partner」という顧客と共創するスタイルも同様であると、村上は言います。アマナでも、さらに顧客側の視点に立ち、ともに並走していくマインドが強まっており、顧客の課題であっても自分ごと化して動く姿勢の大切さが重視されています。

コーポレート領域にソニーのデザインを落とし込む

インハウスデザイナーだからできるクリエイティブに、コーポレート領域のデザインがあります。その例として、前坂氏はトップマネジメントが登壇する経営方針説明会でのクリエイティブを紹介しました。以下は、2023年度の経営方針説明会のダイジェスト動画です。

経営方針説明会では、壇上の背面に4m以上のLEDディスプレイを立て、登壇者の発言に合わせて映像を映し出しています。投影する映像はパワーポイントによる資料をベースに、AffterEffectsを使用したアニメーションなども盛り込みながら制作しました。

また、本説明会の開催にあたって、クリエイティブセンターではキービジュアル(キーグラフィック)を作成。これにより、会場の演出や展示、SNS、案内状ウェブサイト、メディアニュースなどイベントに関わるすべてのデザインに一貫性が出るというメリットが得られます。

さらに、幕張で開催された技術展示会「CEATEC」や、ラスベガスで行われるハイテク技術見本市「CES」でも同様の円形モチーフのグラフィックを使いました。前坂氏は、「年間を通じて共通のモチーフを使うことで、ソニーのイベントのブランディングができる」と話します。

コーポレート領域でのデザインで必要な3つの要素

前坂氏は、コーポレート領域でデザインの力を発揮するために、以下の3点が重要であると話します。

①上流から本質を抽出する
②依頼ではなく自分ごととして捉える
③誠実であるだけでなく、デザインで魅力を付加する

例えば、求職者や学生などが就職先として企業を見る時は、企業が手がけるプロダクトだけでなく、パーパスなどが掲載されたコーポレートサイトなどもチェックしています。そのため、企業やブランドに対して誠実に向き合いデザインをつくることはもちろんですが、「フックとなるための魅力を、デザインの力で付加する必要がある」と前坂氏は言います。

重ねて村上も、「今までは企業にとって誠実さが常に評価されていたが、今はそれだけでは通用しない時代になった。学生が企業を選ぶ時代であるので、いかに魅力的に見せられるかがすごく重要だ」と話します。

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コーポレート領域のデザインは、プロダクトなどのデザインとは異なり、実態がありません。パーパスをはじめとして企業理念がブランディングの材料であり、前坂氏はこれを「意味的価値」と表現します。コーポレートはこの「意味的価値」をどう表現するか、どう伝えるかが大事であり、インハウスデザイナーだからこそ、その意味的価値の本質を正しくつかむことができるといえます。

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