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リブランディング(Rebranding)とは、社会や市場の変化に合わせてこれまでのブランドイメージを刷新し、再構築することを指します。特に2020年以降のコロナ禍による消費者の価値観の変化や多様化が、自社の存在価値を改めて問う大きなきっかけとなり、リブランディングがさらに注目されるようになりました。
企業やブランドが新しい顧客を獲得したり、継続的に利益を上げたりするうえでも欠かせないリブランディング。一言に言っても背景や目的などは企業によってもさまざまで、それぞれに適した戦略が必要です。
この記事では、実際にリブランディングを行った4つのグローバルブランドの事例を紹介し、リブランディングを成功に導くためのヒントを探ります。
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世界的に有名な高級アパレルブランドのティファニーは、2021年1月のLVMHによる買収後すぐ、若い世代を顧客として取り込むためにブランドイメージの変革を行っています。
その一環として同年4月、ブランドのシグネチャーとも言える伝統的なカラーのティファニーブルーに追随する新たなカラーを発表。Instagramで「私たちの新しいブランドカラーを紹介します」というキャプションとともに投稿された「ティファニーイエロー」は、従来のブランドイメージを覆す鮮やかなカラーリングでたちまち話題になりました。
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これは当初エイプリルフールの冗談の投稿だったようで、ティファニーはその翌日に「ティファニーブルーを変えることはない」と種明かしをしました。ただ、後にいくつかの店舗を期間限定でティファニーイエローに改装するなどのプロモーションを行い、さらに注目を集めることに。最終的には投稿に40万以上の「いいね!」がついたほか、多くの反応やコメントも獲得し、ティファニーの若年層を開拓する戦略の第一歩が成功を収めたと言えそうです。
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さらに、この数カ月後の2021年7月に行われた広告キャンペーンも、ティファニーのリブランディングを象徴するものとして話題になりました。「Not Your Mother’s Tiffany(ママのティファニーではない)」とのスローガンを打ち出し、ビヨンセとジェイ・Zを起用したLVMH傘下らしい前衛的でクリエイティブな施策の数々で、若い消費者にアピールしようとしました。
Not your mother’s Tiffany.
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Tell us again silver’s dated, we dare you. Shop now: https://t.co/mZLh356YoF #NotYourMothersTiffany #TiffanyHardWear #TiffanyAndCo pic.twitter.com/Z46D6fLYr4— Tiffany & Co. (@TiffanyAndCo) July 7, 2021
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これまでのティファニーの歴史や伝統と、ブランドの新たな可能性を対比させるようなトーン&マナーで、こちらも世界中に拡散されました。ただし、MarketingWeekほか一部の指摘では、従来のロイヤリティの高い顧客が離れていくのではないかという懸念もあったようです。それでも、単にブランドイメージを現代的にアップデートするだけでなく、古くからあるブランドイメージを払拭するためにこのスローガンは必要不可欠だったとの考察もあります。
その後、人気ストリートブランド「Supreme」とのコラボアイテムを発売するなど、トレンドに敏感なユーザーを顧客に取り込む動きを次々と見せているティファニー。ラグジュアリーブランドとしての伝統を守りつつ、時代の流れに合わせた戦略で、世界中の若い世代にも愛されるブランドへと変化を遂げています。
アメリカの大手通信事業者であるベライゾンには、同社が従来のワイヤレス通信提供企業から、エンターテインメントやデジタルサービスの分野へと領域を拡大する事業戦略があり、それに伴う大規模なリブランディングを実施しています。新しい市場への進出を意識し、ブランドの位置付けを変更する必要があったのです。
同社のリブランディングの中心に、ロゴのデザインがあります。従来の赤いチェックマークのロゴから、活気と躍動感のある「V」のグラデーションロゴへと変わり、よりシンプルで現代的なデザインになりました。コアバリューである「信頼性」と「革新性」を強調しながら、ベライゾンが扱う無形サービスを視覚的に認識しやすくし、消費者にとって魅力的で親しみやすいブランドに変革することを意図して作られています。
また、新しいロゴはNetflixやHuluなどの競合企業と同様に、デジタルプラットフォームでの視認性を高めることを意識して設計されています。新たな市場での成長を目指した積極的な刷新により、従来の通信サービス企業の枠を超え、デジタルエンターテインメントやコンテンツ配信の分野でも競争力を持つようになりました。
同社の最高マーケティング責任者のレスリー・バーランド氏はFAST COMPANYのインタビューで、
ベライゾンは国民の99%に認知されており、私たちの活動を理解したうえで信用できる企業として見てくれているその基盤は本当に素晴らしい。ただ、私たちはお客様の生活、仕事、遊びを支えているものの、それがお客様には見えていないというギャップがあった。感情的なつながりという点で、私たちと消費者の距離は離れていた
と語っています。このギャップを払拭するべくリフレッシュされた新ロゴやイメージビジュアルから、人々の生活に寄り添う企業であることを打ち出すことで、消費者からもさらに親しみやすく好意的な企業として受け入れられることでしょう。結果としてブランド認知向上や、新たな顧客層の獲得も期待できる、リブランディングの好例と言えます。
音楽エンターテインメントを軸に多角的な事業を展開してきたワーナーミュージックグループ(以下、WMG)は、音楽業界の市場の変化とデジタル化に対応するためリブランディングを実施。多様な事業を持つWMGが、統一されたひとつのブランドアイデンティティを示すことで、次世代の音楽エンターテイメント企業としての地位を強化することに注力しました。
リブランディングの中心には新しいロゴがあり、従来のアイコニックな「W」のロゴを現代的に再解釈し、慣れ親しんだロゴに視覚的に強い印象を与えるデザインに変更されています。特に、多様性や包容力、社内ブランドやプラットフォーム間で移行できる柔軟さを反映させるため、さまざまなカラーオプションも用意。それに現代的なタイポグラフィや強力なセンスが加わり、ブランドの伝統を遊び心で巧みに表現しました。
ロゴの刷新に加えて、デジタルプラットフォーム上での一貫したブランド表現が強調されており、メッセージの統一性が図られています。リブランディングによってエンターテインメント企業にふさわしく活気に満ちた強力なアイデンティティが生まれ、WMGの組織全体に浸透しています。デジタル時代における音楽業界での競争力を維持し、さらなる成長を目指すことができるようになりました。
イングランド・プレミアリーグのチェルシーFCは、2024-25シーズンに向けた新ユニフォームのキットデザインを発表しました。
世界のサッカー界で最も名を馳せるビッグクラブとクリエイティブスタジオのUncommonがタッグを組んで行われたリブランディングは、クラブの歴史を尊重しながらも、未来への共通の野心のもとでチェルシーを団結させる新しいブランドストーリーを作り上げています。
新しいビジュアル・アイデンティティはチェルシーFCの伝統的なブルーを基調とし、より現代的で洗練されたデザインに仕上げられました。そのカラーを揺らぐ炎のモチーフと結びつけて炎の最も熱い部分を表現し、選手やサポーターの燃えるような情熱と決意を象徴しています。
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また、チェルシーFCの新しいブランド・アイデンティティのプロモーションとして、「WE BURN BLUE」のメッセージとともに、動画、屋外広告、ソーシャルメディアを含むさまざまなチャネルで発信されたことも話題に。この強力な青い炎をベースにあらゆるテクニックを組み合わせて、内に燃えるすべてのエネルギー、情熱、決意を表現。ファンやサポーターとのエンゲージメントを高めるための重要な要素となりました。
New season. New era. New fire.
Introducing your Chelsea 24/25 home kit.#WeBurnBlue pic.twitter.com/1GANsL8FkA— Chelsea FC (@ChelseaFC) July 15, 2024
クリエイティブなキャンペーンとともにお披露目された、伝統あるサッカークラブの新しいアイデンティティ。チェルシーFCは、クラブの価値観や使命とサポーターの情熱を融合させ、未来に向けてより強固なブランドへと進化しつつあります。
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今回紹介した4つのリブランディング事例は、「顧客層の明確なターゲティング」「ブランドの視覚的な刷新」「一貫したブランドメッセージの発信」という、いずれも企業のリブランディングにおける大切なポイントを教えてくれます。
また、単なるブランドイメージの変更ではなく、企業が築き上げてきた歴史や価値観も大切にしながら市場の変化と結びつけることで、さらに魅力的なブランドへと深化させる戦略に落とし込むことが重要です。それを適切なかたちで届けることができれば、既存や新規にかかわらず、顧客に新たなブランド・アイデンティティが浸透し、さらに愛されるブランドへと成長させることができるはずです。その意味では「伝統と革新の融合」も、リブランディングにおける重要なキーワードと言えるでしょう。
amana BRANDING
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