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目まぐるしく変化する時代の中で、ブランドが関心を集め続けるためには、ブランドボイスのアップデートが欠かせません。とはいえ、その変化が「そのブランドらしさ」を損なってしまっては本末転倒です。
たとえば、かつて「生意気な親友」のような口調がSNSのトレンドとなった時期がありました。きっかけは、2017年にアメリカのファストフードチェーン・Wendy’sが投稿した皮肉まじりのツイート。それが話題を呼び、多くのブランドがZ世代の“インターン”を思わせるようなフレンドリーで軽快なトーンを真似し始めたのです。
この路線がハマったブランドもある一方で、多くは「イタい企業」として揶揄される結果に。つまり、ブランドボイスをアップデートするには、「自分たちは何者か」を明確に理解していることが大前提です。ミッション、価値観、独自のセールスポイント──これらが曖昧なままでは、どれだけトレンドをなぞっても、まるで似合わない服を着ているようなものです。では、ブランドボイスはいつ、どのように進化させるべきなのでしょうか?そのタイミングと方法について、詳しく見ていきましょう。
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ブランドボイスとは、単なる言葉選びではありません。それは、ブランドの価値観やミッション、カルチャーを伝えるための「口調」「表現スタイル」「個性」のすべてを指します。明確で一貫性のあるブランドボイスは、顧客との信頼関係を築き、共感を生む独自のアイデンティティ形成に不可欠です。
消費者の86%が、ブランドを支持するかどうかを決めるうえで、「本物らしさ」が重要な要素であると答えています。
ただし、企業の成長や社会の変化に伴い、かつては新鮮だった表現も古く見えるようになっていきます。ブランドボイスを見直すべきタイミングは、思っているより頻繁に訪れるのかもしれません。ここでは、見直しのサインとなる3つのケースをご紹介します。
新製品の投入や市場の拡大によって、顧客層が広がると、従来のボイスが響かなくなることがあります。たとえば、若年層から専門家層へとターゲットがシフトした場合、語り口の再設計が必要になるかもしれません。
世代交代や文化潮流の変化とともに、ブランドへの期待も移り変わります。今やサステナビリティや多様性への意識は不可欠。さらに、音声検索やAIなどの技術進化により、話し言葉への対応も求められています。
アンケート、SNSのコメント、レビューなどから、ブランドの語り口がズレていないかが見えてきます。もし「響いていない」「古く感じる」といった反応があれば、それはブランドボイス再設計のサインかもしれません。ブランドボイスの見直しとは、単に言葉を変えるのではなく、オーディエンスに合わせてメッセージや語り方そのものを再設計すること。
次に、具体的なアップデートのステップを見ていきましょう。
これまでのブランドメッセージや施策の成果を振り返りましょう。何がターゲットに響いているのか、何が響いていないのかをアンケートやインタビュー、データ分析ツールで顧客やステークホルダーのフィードバックから把握します。さらに、競合他社や業界トレンドと比較し、ギャップや時代遅れの要素を洗い出し、自社のミッションやビジョン、ターゲットに適しているかを確認します。
消費者は時代とともに変わります。現在のターゲットがどんな人たちか、抱える課題や興味、情報の受け取り方、使う言葉などを丁寧にリサーチしましょう。例えばZ世代は独特のインターネットスラングを用いることもあります。こうした言葉遣いを理解し、ターゲットに寄り添ったブランドボイス設計に活かします。
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ブランドの個性を表す形容詞を3~4つ選びましょう。例えば、フィットネスブランドなら「エネルギッシュ」「大胆」「恐れ知らず」、健康食品ブランドなら「新鮮」「健やか」「生き生き」など。ミッションや価値観を反映した言葉でブランドの特徴を明確化します。
ガイドラインをシナリオやプラットフォームごとにアップデートします。フォーマルな電子書籍とカジュアルなSNS投稿でトーンが異なる場合もあるため、それぞれの活用例を示しましょう。専門用語の使用可否や包括的表現など、トーンだけでなく表現ルールも明確に言語化することが重要です。
ガイドライン導入前にテストを行い、反応を検証します。例:
・2種類のSNS投稿をA/Bテストし、いいね数やシェア数、コメント数を比較
・ユーモア寄りと真面目な件名のメールキャンペーンを送信し、開封率やクリック率を比較
このような実証的な検証を重ねることで、反応に即した最適なブランドボイスを磨き上げていきます。
このようなテストと検証を重ねることで、実際の反応に即したブランドボイスを洗練させることができます。
ブランドボイスのアップデートで難しいのは、新しい変化を取り入れつつも、ブランド独自のトーンをしっかり維持することです。従来のボイスとアップデート後のトーンのバランスをどう取るか、実例を交えながらいくつかの戦略を見ていきましょう。
まず重要なのは、ブランドボイスがブランドのコアバリューと一致していることです。ブランドが成長するためには、どんなにトレンドやターゲットに合わせて変化を加えても、創造性や革新性、社会的正義などブランドが大切にする信念が語り口に息づいている必要があります。
この揺るぎない信念こそが、メッセージの一貫性を生み出し、ブランドを流行に流されるただの“追随者”にせず、意志を持って進化し続ける存在へと導くのです。
アイスクリームブランドのBen & Jerry’sは、社会的正義やサステナビリティ、人や環境に配慮した原材料・製品調達を軸にブランドアイデンティティを築いてきました。そのブランドボイスも、こうした信念を力強く映し出しています。
気候変動や人種的正義、フェアトレードなどの社会課題に対し、同社は大胆で親しみやすい「活動家」としてのトーンを貫き、臆さず発信し続けています。この価値観に根ざした一貫したメッセージが、Ben & Jerry’sに「本物のブランド」としての信頼をもたらし、競争の激しい食品業界で独自の存在感を放つ要因となっています。
ブランドミッションは北極星のように、ブランドが存在する理由や目指す方向を示す確かな道しるべです。消費者や市場の変化に応じてブランドボイスを見直す際も、必ずこのミッションを反映させましょう。
例えば、サステナビリティを掲げるブランドなら、地球への責任感や配慮が伝わるトーンがふさわしいです。イノベーションを軸にするなら、未来への期待やワクワク感を表現するトーンが適しています。ブランドボイスをブランドミッションに根差すことで、本質を見失わずに消費者との信頼関係を築いていけるのです。
Red Bullのブランドボイスは、「人とアイデアに翼を授ける」というブランドミッションを体現しています。世界的に知られるこのブランドは、力強く大胆で冒険心にあふれた語り口で、人々が限界を超え、自分の可能性を最大限に引き出すことを後押ししています。公式サイトには「挑む」「飛び込む」「駆け抜ける」といった、読むだけでワクワクする動詞が随所に散りばめられているのが特徴です。
Red Bullのターゲット層は、スポーツや冒険、探検を愛し、アドレナリンを求める若者たちです。そんな彼らに向けて、同社のブランドボイスは勇気と冒険心を刺激する言葉で語りかけています。
ブランドボイスをアップデートする際に重要なのは、コアとなるアイデンティティを守りつつ、メッセージの伝え方を見直すことです。つまり、ブランドの核となる価値観に忠実でありながら、トーンや言葉遣い、表現スタイルなどのコミュニケーション手法を現代的に刷新することを指します。例えば、本来のブランド目的は変えずに、より包括的で若い世代に共感されやすいトーンに調整するといったアプローチが考えられます。
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ビジネスコミュニケーションプラットフォームのSlackは、親しみやすく会話的なトーンで競合他社と差別化しています。もともとスタートアップ向けに普及したSlackですが、企業向けソリューションへと成長する過程でも、そのトーンは変わりません。より大規模な組織に向けてブランドボイスを洗練しつつも、明快でフレンドリーな語り口を貫いています。
世の中の動きに常にアンテナを張ることはもはや「プラスアルファ」ではなく、ブランドの基本姿勢となっています。ブランドボイスのアップデートは、ターゲットの声に耳を傾け、ニーズを理解し、共に変化していく姿勢を伝える有効な手段です。変化を拒むブランドは、知らぬ間に「時代遅れ」と見なされるリスクがあります。成功するブランドに共通するのは、自分たちの本質を見失わず、常に学び、適応し、進化し続けることです。
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この記事は、SpringboardのLouise Downingが執筆し、Industry DiveがDiveMarketplaceを通じてライセンスを取得したものです。ライセンスに関するお問い合わせはlegal@industrydive.comまでお願いいたします。元記事「Changing With the Times: How to Evolve Your Brand Voice」は2025年4月16日にstudioID’s insights blog – springboardに掲載されました。また、日本におけるIndustryDiveパブリッシャーネットワークに関してはamana Content Marketingまでお問い合わせください。
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