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テクノロジーの進化やコミュニケーションのあり方、顧客とブランドの関係性まで、私たちの周囲ではあらゆる前提が書き換えられつつあります。
こうした中で、ブランドを率いるリーダーが「自社も変わるべきか」と立ち止まり、問い直すのは自然なことです。しかし、その答えは単純ではありません。ブランドがいま、ビジネス目標に向かうための橋渡しになっているかどうかが分岐点となります。
もしブランドと顧客、あるいは事業の方向性との間にズレがあるなら、いまこそリブランディングに踏み出す好機かもしれません。ブランドの再構築は、その存在意義を再定義し、ビジョンとの整合性を取り戻し、オーディエンスとの関係に新たな熱量を生み出す強力な手段です。そして実際、リブランディングは明確な成果をもたらす可能性を秘めています。
ある調査では、経営陣の78%が「リブランディングは企業にポジティブな影響を与えた」と回答し、81%が「ROIの向上を実感した」と述べています。
さらに別のデータでは、リブランディング後に平均2.46%の株価上昇が確認されたという結果もあります。もし今、変化する社会との間にギャップを感じ、自社ブランドが取り残されていると感じるなら、ここから紹介する「リブランディングを成功へ導く5つのステップ」が、次の一手を考えるヒントになるはずです。
多くのブランドがリブランディングに取り組む昨今、「自社もそろそろ手を打つべきではないか」と考える場面は少なくありません。しかし、見た目を変えるだけではブランドの迷走は解決できません。成功の鍵は、「なぜ行うのか」という明確な意図を持つことにあります。その第一歩は、リブランディングの動機を言語化することです。
最近の調査によると、企業がリブランディングに踏み切る主な理由は、次の4つが挙げられます。
1. ブランドアイデンティティのアップデート
例:メール配信プラットフォームのMailchimpは、2018年にビジュアルを刷新。ロゴやフォント、イラストを遊び心ある、大胆かつ親しみやすいデザインへと一新しました。
2. 市場におけるポジショニングの変更
例:Facebookは2021年に社名をMetaへと変更し、グループ全体をひとつの親会社のもとに統合。メタバースへの注力という戦略的転換を示しました。
3. ターゲット層の変化への対応
例:男性のヘルスケアに特化したDTCブランドとして2017年に誕生したHimsは、翌年に女性向けのHersを立ち上げ、ブランドの世界観を拡張しました。
4. ネガティブな印象からの回復
例:2014年に起きた悲劇的な2つの事故の後、マレーシア航空は包括的なリブランディングを実施。現在では、信頼回復の取り組みが一定の成果を上げています。
ヒント:リブランディングの理由が何であれ、重要なのはそれがビジネス目標と結びついているかどうかです。リブランディングは単なる見た目の刷新ではなく、事業そのものに貢献する取り組みであるべきなのです。
ブランドイメージが定まっていれば、SNSの投稿から店舗体験、メールの件名にいたるまで、一貫した世界観を届けられます。どんな接点でも「そのブランドらしい」と感じてもらえることが、理想的な状態です。
実際、一貫性を持つブランドは、最大で23%の利益増につながるという調査結果もあります。見た目や雰囲気の統一は、単なるデザイン上の工夫ではなく、利益に直結する要素なのです。
このとき重要なのは、単にカラーパレットやフォントを揃えることではありません。より深い一貫性を築くために有効なのが「ブランド・アイデンティティ・プリズム」。6つの要素からブランドを多面的に捉え、あらゆる表現に統一感を持たせられるフレームワークです。
出典:ResearchGate
・フィジカル(外面的な側面):ブランドが視覚的にどのように見えるか。ロゴやカラーパレット、パッケージデザインなど
・パーソナリティ:ブランドの「声」や振る舞い。語り口のトーンやスタイル、キャラクターなど
・カルチャー:ブランドの価値観が、社内外でのアクションにどう影響しているか
・セルフイメージ:顧客がそのブランドを使うことで抱く自己イメージ
・ターゲット:理想的な顧客像。自社の商品やサービスを利用する人の理想像
・リレーションシップ(関係性):顧客や企業、社会との関わり方
リブランディングを成功させるために、この6つすべてを作り直す必要はありません。ただし、どの要素を変え、どの要素を残すのか。その判断に一貫性があるかどうかが、ブランドの信頼性を左右します。
「チェンジマネジメント」と聞くと、M&AやIT刷新、組織再編といった大規模な変化を思い浮かべるかもしれません。しかし、リブランディングもまた根本的な変革であり、それらと同等の関心と社内での合意形成が欠かせません。なぜなら、外部の顧客に受け入れてもらう前に、まず社内のステークホルダーがその意義に納得している必要があるからです。
ブランド変革を専門とするBLVRは、リブランディングに特化したチェンジマネジメントの手法として、以下のプロセスを提案しています。
1. 経営陣やプロジェクト責任者だけでなく、業務プロセス責任者、部署責任者、取引先まで含め、すべてのステークホルダーを特定する
2.ステークホルダーを関心度と影響力でマトリクスにマッピングする
3. インタビューやフォーカスグループ、メッセージングの共同作成を通じて関与を促し、抵抗感を減らす
4. 懸念事項への対応や明確なスケジュールを盛り込んだ透明性のあるコミュニケーションプランを策定する
5. 各段階でマイルストーンを祝福し、モチベーションを高める
こうした社内の賛同は、リブランディングの成果を高めるだけでなく、組織文化そのものにポジティブな変化をもたらします。
従業員の5人に1人以上が、自社のビジョンやミッションに共感していないと言われます。一方で、共感している従業員はそうでない人に比べて3.71倍高いエンゲージメントを示す傾向があるのです。
ここまで到達できたということは、最も大変な準備を乗り越えた証拠です。いよいよ、新しいブランドを世に送り出すフェーズに入ります。
まずは 社内からのローンチが理想的です。従業員は、最強のブランドアンバサダーであり、事前に新ブランドを共有することでフィードバックを得られるだけでなく、社外への発信力にもなってくれます。特別なイベントを開催し、リーダー自らがブランドストーリーを語る場を設けましょう。質問や意見を歓迎しながら、背景や想いを丁寧に伝えることが大切です。
そのうえで、従業員が新ブランドを使いこなせるよう必要な情報やツールを周知します。たとえば「新しいグッズはあるか?」「ブランドスタイルガイドは?」「SNS用の素材は?」といった実務的な準備を整え、リーダー自身が率先して活用する姿勢を見せることも効果的です。
社内での浸透が整ったら、次は社外へのローンチ。プレスリリース、ニュースレター、動画などのアウトプットを準備し、タッチポイントごとに最適化したコンテンツを展開します。また、全てのステークホルダーがスケジュールと役割を把握しているかも確認しましょう。
そして迎える本番。「GO」の合図でローンチを実施しますが、これは終点ではなく新しい始まりです。反応をモニタリングし、ユーザーとの対話に耳を傾け、寄せられる質問に丁寧に対応していくことが欠かせません。さらに、ローンチ後も継続的にコンテンツを発信し、勢いを維持していく必要があります。何よりも重要なのは、新しいブランドが「語った通りの姿」で社会に現れ続けること。一貫性こそが、ブランドへの信頼を揺るぎないものにしていきます。
リブランディングにおいては、他社の成功事例から大きなヒントを得られます。中には、以前の姿を思い出せないほど見事に変貌を遂げたブランドもあります。そうした事例に触れることで、自社にとっての可能性や新しい方向性をイメージしやすくなるはずです。
注目ポイント:ブランドを前進させるための最良の方法が、必ずしも“新しさ”を追うことではない場合もあります。Burger Kingはあえてレトロなブランディングへ回帰することで、単にノスタルジーを呼び起こすだけでなく、ファストフードチェーンの“王道らしさ”を再び強く印象づけました。
注目ポイント:Kia自動車は、洗練されたリブランディングとEV(電気自動車)へのシフトを通じて、「手頃な車」という従来のイメージから「未来を感じさせるブランド」へと大きく印象を転換しました。
注目ポイント:シンプルさが勝利の鍵。PayPalのリブランディングは、その好例です。「誰でも、どこでも」使えるブランドを目指し、アイデンティティを一新。よりシンプルでクリーン、現代的で前向きな印象へと刷新されました。
注目ポイント:Airbnbの新しいロゴである「Bélo」は、「どこでも居場所がある」というブランドミッションを、一つの拡張可能なシンボルに集約しています。さらに、コンテンツ活用やストーリーテリングによって、このミッションをより強く印象づけることにも成功しました。
注目ポイント:デザインの変更は、単なる見た目の刷新以上の意味を持ちます。人事プラットフォームGustoのリブランディングは、プロダクトの再設計を視覚的に伝える役割を果たしました。より使いやすく、アクセスしやすく、楽しい体験を目指したアップデートは、顧客満足度の向上にもつながっています。
注目ポイント:受賞歴もあるZendeskのリブランディングで特筆すべきは、ローンチ後のアクティビティです。同社は、ローンチ当日に投稿された「辛口ツイート」の一部をあえて公式SNSで紹介。話題を継続させつつ、ブランドの懐の深さを印象づける巧みなアプローチでした。
ブランド再構築には十分な時間的余裕が重要で、多くの場合、構想からローンチまで12〜18ヶ月かかるとされています。焦らず時間を味方につけ、未来につながるブランドの土台を丁寧に築きましょう。
この記事は、SpringboardのSonya Matejkoが執筆し、Industry DiveがDiveMarketplaceを通じてライセンスを取得したものです。ライセンスに関するお問い合わせはlegal@industrydive.comまでお願いいたします。
元記事「Mastering the Rebrand: 5 Steps to Get It Right」は2025年5月7日にstudioID’s insights blog – springboardに掲載されました。また、日本におけるIndustryDiveパブリッシャーネットワークに関してはamana Content Marketingまでお問い合わせください。
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