IPSAが掲出するシーズナル・ビジュアルは、春夏秋冬の季節に合わせて更新されます。それまでの「クール」なイメージから、店頭にて顧客との会話を生み、肌の話題に繋げられるきっかけとなるような「季節感」や「楽しさ」へと表現の軸をシフトすることを機に、アマナとのパートナーシップがスタート。2024春夏シーズンから、継続して海外のクリエイターを起用したクリエイティブ制作でプロジェクトを支えています。本記事では、背景と制作~展開の流れ、そこで発揮されたアマナの強みを紹介します。
――IPSAと複数シーズンにわたり、現在もパートナーシップが続く背景を教えてください。
太田睦子(以下、太田。敬称略):最初は「店頭でお客様との会話が生まれるような、四季折々の季節感やみずみずしさ、楽しさへとビジュアルを発展させていきたい」というご相談をいただきました。その要望を叶えるため、複数のクリエイターの中から、スペイン・マドリードを拠点とする新進気鋭のCGIデザインスタジオ Pleid St.を起用しました。同スタジオは、国際的にも高く評価される優れたクリエイティブワークで知られています。
Pleid St.は、映像表現の新たな可能性を探求するCGI&デザインラボ。マドリードを拠点に、ディレクターのJuanma Motaとクリエイティブ・プロジェクトマネジャーのNoemí Álvarezが率いる。アートディレクション、デザイン、テクノロジーの交差点を探りながら、ブランドやカルチャーのための新しいビジュアル言語を生み出してきた。現代的なデジタル美学を定義する柔軟なビジュアルシステムを構築し、これまでに PRADA、LOEWE、MULBERRY、VLISCO、Adidas、Nike、Converse、Starbucks、Heineken、Apple、OOFOS、IKEA など、世界的ブランドのプロジェクトを手がけている。その功績は高く評価され、Clio Awards、ADCE、Laus など数々の国際的なデザイン賞を受賞している。
Pleid St.公式サイト: https://www.pleid.st/ Instagram:https://www.instagram.com/pleid.st/
――クリエイター提案から制作まで、アマナに任せられている理由はなんでしょうか。
太田:雑誌『IMA』を起点としたアート分野で培ったアーティストのネットワークと、プロデュースの実務力を生かしたアマナならではの体制が活きたお仕事かと思います。クリエイターとの関係性づくり、要件整理、条件交渉、制作進行を一気通貫で担いながら、作家性を尊重することを大切に進めているからでしょうか。IPSAとPleid St.との間で橋渡しをする「ビジョンの翻訳者」として、常に齟齬のないコミュニケーションが進み、素晴らしいクリエイションに結実するように心がけています。
IPSA2024春シーズンは、やわらかな色調と花びらの動きを主役に植物が生命を芽吹く季節を表現。
――今回のクリエイター起用(Pleid St.)について、決め手となったポイントについて教えてください。
太田:IPSAが大切にしている「季節感」「みずみずしさ」を静止画、動画ともに透明感ある美しい映像として表現できるところです。さらに現実と非現実の中間といいますか、独特の浮遊感が特徴ですが、その不思議な世界観の中で商品の魅力を高いクオリティで描けることもポイントだと思います。動画は店頭でお客様との会話が広がっていくように抽象と具象のバランス、微妙な色調へのこだわり、動きのリズムを細かく整えてもいます。もちろん静止画と動画の親和性も重視しています。
IPSA2024夏シーズンのビジュアルは、水面のきらめきと跳ねる水滴が活性化するポジティブな季節のイメージを可視化。
――シーズナル・ビジュアルは、どのようなプロセスで進みましたか。
太田:IPSAが顧客に伝えたい「想い」を引き出し、それを正確に「言語化」することから始まります。たとえば芽吹きや透明感、深まり、静けさといった季語的要素の解像度を上げて認識の齟齬がないか、すり合わせます。同時に店頭でどのような会話が生まれてほしいかなど、期待値もヒアリングします。
クリエイターに伝える時には、言語化したコンセプトを映像化するための翻訳作業が必要となります。今回は海外のクリエイターとの協業だったので、直訳では拾いきれないニュアンスを補完して伝える必要があり、また互いに具体的なレファレンスのビジュアルも用意しながら、対話を進めました。修正依頼の場面でも直接的な表現だけでなく、もともとのファンタジックな良さが失われないよう、あえて「詩的な表現」を加えながら意図を伝えることを心がけました。
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IPSA2024秋冬シーズナル・ビジュアル。秋を感じさせるカラー、柔らかな光、浮遊する水滴でアイテムを包み込むように演出。みずみずしいトーンで統一(Pleid St.公式Instagramより)。
――大型ビジョンや壁面、ショッパーなど、多媒体におけるクリエイティブの工夫はなんでしょう。
中西陽菜(以下、中西。敬称略):視認する距離や滞留時間が異なるため、媒体ごとに調整します。例えば大型ビジョンはスケールと動き、壁面は歩速と視線の流れ、ショッパーは「目にしたときの心地よさ」を優先しました。コピーの表現も同様に媒体の特性に合わせて検討しています。
――店舗の什器なども手がけていると聞きました。
中西:店頭のデジタルサイネージやPOP、ポストカード、「ショウイングシェルフ」と呼ばれるフレームに入れた写真や植物と商品をディスプレイするコーナー、さらにレシピテキスト(商品の説明用テキスト)などの制作まで広がっています。各店舗の条件に合わせて、実際に掲出するビジュアルのサイズなどを調整しました。
2025春夏シーズンのクリエイティブ。春(上)、夏(下)はともに2024シーズンのトーンを継承しつつ、「フルネス」「ジェンダーレス」「フレッシュネス」「洗練された純粋さ」「活力・内なるエネルギー」をコンセプトに制作。
――取り組みを続けたからこそ見えた、クリエイティブを左右する要素はなんでしょう。
太田:ブランドの意図とクリエイターの表現力をつなぐ「クリエイティブの通訳力」が、多くの場面で求められました。要件を言語化し、表現の抽象度や色・動きの粒度まで具体に落としていく。オンラインでコミュニケーションが完結し、テクノロジーによる効率化が進む今こそ、ますます重要な役割になると感じています。
ブランディング/クリエイティブ/広告の現場では、認知の最大化だけでなく体験の質が問われています。IPSAのシーズナル・ビジュアルは、クリエイターの力を活かし、リアル(店頭)とデジタルにおける新たなブランディングを推進しました。アマナはブランドが大切にする想いを言語化・可視化し、クリエイターと共創しながら、新たな価値創造をサポートしていきます。
<スタッフクレジット>
アマナ
クリエイティブディレクター:太田睦子
ビジネスプロデューサー:堀学
ビジネスプロデューサー:森洋平
ビジネスプロデューサー:北雅之
プロデューサー:佐藤千咲子
アソシエイトプロデューサー:中西陽菜
コピーライター:眞木茜
レタッチャー:沼波奨悟
デザイナー(ショウイングシェルフ):木村龍太郎
デザイナー(ショウイングシェルフ):谷口剛志
Pleid St.
ディレクション:Juanma Mota
クリエイティブ・プロジェクトマネジャー:Noemí Álvarez
3Dアーティスト:Pablo García Robla、Álvaro Poher、Peng Zheng、Sergio Ruiz Cáceres、Jacktone Okore
音楽・サウンドデザイン:Facundo Capece
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取材・文:桑原勲
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株式会社アマナ
太田 睦子
株式会社アマナ
太田 睦子
『IMA』エディトリアルディレクター。早稲田大学第一文学部卒業後、1991年サントリー広報部に入社。PR誌『サントリークォータリー』を担当した後、中央公論社(現・中央公論新社)『マリ・クレール』編集部を経て、『エスクァイア』『GQ』などに所属。その後、フリーランスの編集者となり、雑誌、書籍、アートブック、展覧会図録の制作やアートプロジェクトに携わる。2012年にアマナでアート写真雑誌『IMA』を創刊。エディトリアルディレクターとして、IMA photobooksのレーベルでの写真集刊行、イベントなどを手がけている。
株式会社アマナ
中西 陽菜
株式会社アマナ
中西 陽菜
プロデューサー。スチールやムービー、イベント制作など幅広いプロジェクトの制作進行を担う。国内外のアーティストやブランドとのコラボレーションに携わり、近年はラグジュアリーブランド領域におけるビジュアル制作を中心に担当する。

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共感や信頼を通して顧客にとっての価値を高めていく「企業ブランディング」、時代に合わせてブランドを見直していく「リブランディング」、組織力をあげるための「インナーブランディング」、ブランドの魅力をショップや展示会で演出する「空間ブランディング」、地域の魅力を引き出し継続的に成長をサポートする「地域ブランディング」など、幅広いブランディングに対応しています。

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TVCMやWeb用の動画、企業紹介ビデオなど、幅広い動画の撮影に対応。長年培ってきたスチル撮影の経験とノウハウを活かして、クオリティの高い動画を制作します。撮影スタジオはもちろんのこと、動画の編集・合成を中心に、ナレーション収録も可能な動画編集スタジオを完備。撮影、編集、ディレクションなど、専門性の高いスキルを持ったスタッフが、動画の制作をサポートします。