2025年ロンドン国際広告賞に見る、グローバル広告の潮流と進化する“自分ごと化”戦略

ロンドン・インターナショナル・アワーズ

ロンドン国際広告賞とは——世界が注目するクリエイティブアワード

ロンドン国際広告賞(London International Awards)は、世界中の優れた広告クリエイティブを表彰する国際的なアワードです。毎年、各国のトップクリエイターが集まり厳正な審査を行い、その年の最も創造性あふれる作品が選出されます。

2025年の同賞では42の国と地域から受賞者が誕生し、グランプリ(Grand LIA)23作品、ゴールド191作品、シルバー260作品、ブロンズ303作品が表彰されました。特に米国を筆頭にフランス、英国などが多くの賞を獲得する一方、プエルトリコやタイなど新興市場からのグランプリ受賞も輩出されており、同賞が真にグローバルなクリエイティブの祭典であることがうかがえます。

本記事では、2025年の同賞で注目を集めた受賞作品5点をピックアップし、その内容やクリエイティブのポイントを紹介します。さらに今年の同賞全体を俯瞰し、最新のトレンドを分析してみます。

2025年の注目受賞作品5選から見る表現の進化

1. L’Oréal Paris『The Final Copy of Ilon Specht』──ブランド理念の再定義
(Branded Entertainment部門グランプリ)

出典:@LLLLITL:L’Oréal Paris – The Final Copy of Ilon Specht (case study)

世界最大級の化粧品ブランド、L’Oréal Paris(ロレアル パリ)が手がけたブランドフィルムです。1971年に誕生した同社の有名なコピー「Because I’m Worth It(私にはその価値がある)」──その言葉を生み出したのは、当時23歳の女性コピーライター、Ilon Specht(イロン・スペクト)でした。

本作は、そのフレーズに込められた思いや誕生の背景を、スペクト本人の語りとともに振り返る短編ドキュメンタリーです。「女性の自立や尊厳を肯定するメッセージ」として受け継がれてきたこの言葉が、L’Oréal Parisというブランドの核にどう息づいてきたのかを、丁寧な構成で描いています。

派手な演出に頼らず、当時の広告資料や本人の証言を通じて、時代を超えて響くコピーの力と、その裏にある信念を浮かび上がらせている点が高く評価されました。単なる企業広告を超え、「ブランドの理念を人々の言葉で語る」ことの意義を感じさせる作品です。

2. NBA India『The Great Indian Dunk』──ローカル文化の共感設計
(ポスター部門グランプリ)

NBA India - The Great Indian Dunk.jpg

出典:https://2025.liaentries.com/

出典:@amazing-ads:NBDA Dunk (case study) – NBA India

インドでのNBA人気を高めるために展開されたアウトドア広告キャンペーンです。

キャンペーンでは、インドの各地に暮らす子どもたちが日常生活の中で見せる“ジャンプの瞬間”を捉えたビジュアルを、ダンクシュートになぞらえてポスターに仕立てました。川に飛び込む、木の枝から飛び降りるといった何気ない一瞬が、まるでNBA選手のようにダイナミックに映し出されています。

インドにおいては依然としてクリケットの人気が圧倒的ですが、本作品は“誰もがすでにNBA的な動きをしている”という視点で、現地の文化や風景を尊重しながらバスケットボールの魅力を自然に伝えています。広告というよりも、土地への眼差しとスポーツへの愛を組み合わせたカルチャープロモーションとして機能しており、ポスター部門でのグランプリ受賞に加え、複数部門でも高い評価を獲得しました。

3. Alivia Health『Glowing Relief』──社会課題を解くデザイン思考
(パッケージデザイン&医療部門グランプリ)

出典:@insiderlatam3920:GLOWING RELIEF- Ogilvy Puerto Rico

プエルトリコの地域課題に根ざした、医療系のソーシャルイノベーションプロジェクトです。停電が日常的に発生する同地では、高齢者や視覚障害のある人々が暗闇の中で薬の情報を確認できず、誤服薬のリスクが深刻な問題となっていました。

この課題に対し、蓄光インクを用いて、暗闇でも薬の名前や服用方法が光って見える処方薬ラベル「Glowing Relief(光る安心)」を開発。医薬品のパッケージという身近な接点に、デザインとテクノロジーを掛け合わせたシンプルかつ本質的な解決策です。

このアイデアは、医療(Pharma)とパッケージデザインという異なる2部門でグランプリを受賞。特に、現地の社会状況に根ざしながらも、他の地域でも応用可能なユニバーサルなデザインである点が高く評価されました。商品訴求ではなく、「暮らしの課題にブランドがどう向き合うか」を示した好例です。

4. Hyundai『Tree Correspondents』──AIがつなぐ自然と人間のコミュニケーション 
(PR部門グランプリ)

出典:@amazing-ads:Tree Correspondents (Case Study) – HYUNDAI x FCB

韓国の自動車会社が展開した、環境CSRプロジェクトの一環として制作されたデジタルキャンペーンです。テーマは「木の声を、世界に届けること」。世界各地の森に実際のセンサーを設置し、気候や土壌の情報を収集。それらのデータをAIで自然言語に変換することで、まるで木々が自ら話しているかのようなメッセージをSNSやWEBで発信する、ユニークな仕組みを構築しました。

たとえば「今日は鳥たちが戻ってきた」や「土が乾いてつらい」といった“木のことば”が世界中の人々に届きます。科学的なデータを、感情のあるストーリーテリングに翻訳したこの試みは、企業の環境活動に親しみやリアリティを加えるものとして高く評価されました。

PR部門のグランプリをはじめ、デジタルクラフト部門でも受賞しており、「テクノロジーで自然と人間の距離を縮める」新しい広告表現として注目を集めました。

5. Five Star Chicken『Death of A Salesman』──ユーモアで伝えるブランドアイデンティティ 
(オンラインフィルム部門グランプリ)

出典:@fivestarchickenthailand8415:Death of a Salesman

タイの老舗フライドチキンブランド「Five Star(ファイブスター)」による、ブランドのユニークな価値を伝えるオンライン動画です。舞台は、何でもかんでも“5つ星”だと誇張して売り歩く中年セールスマン。椅子の柔らかさを「当社のチキンのようにふわふわだ」と売り込み、ヘルメットの硬さも「クリスピーすぎて被れない」と言い張ります。

当然ながら、どの商品も売れるはずもなく、彼の営業人生は失敗に終わる──そんな皮肉たっぷりのストーリー展開の中で、「本当に5つ星なのは、うちのチキンだけ」というメッセージが鮮やかに浮かび上がります。

地元タイでは、フードデリバリーアプリでもほとんどの店舗が5つ星満点を得られない中、Five Starだけが常に高評価を得ているという背景があり、それを逆手に取ったストーリーテリングとなっています。ユーモアとローカルな文脈を掛け合わせたこの作品は、オンライン公開から20日で4,800万回再生を記録し、グランプリを含む複数受賞を果たしました。広告としての完成度と娯楽性を兼ね備えた、エンタメ志向のプロモーションとしても注目されました。

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2025年ロンドン国際広告賞から読み解く、3つのグローバルトレンド

2025年の同賞を通じて浮かび上がったのは、広告表現がより生活者の文脈に寄り添い、社会的・文化的意義を持つものへと進化していることです。グランプリを含む各受賞作には、単なる商品訴求を超えたストーリーや仕組みが共通して見られました。特に顕著だったのは以下の3つの潮流です。

1. 地域課題を深く掘り下げる「ローカル起点」のストーリー

今年はプエルトリコ、インド、タイといった非英語圏・新興市場からの受賞が目立ちました。これらの作品に共通しているのは、現地の暮らしや課題を丁寧に見つめ、生活者目線で語りかける発想です。

たとえば『Glowing Relief』は、停電の多いプエルトリコにおける薬の誤服薬リスクという切実な課題に向き合い、「光る薬袋」というシンプルで実効性のある解決策を提示しました。『The Great Indian Dunk』は、インドの子どもたちが日常で見せるジャンプの瞬間を“ダンクシュート”に重ね、バスケットボールを身近な存在として描いています。

こうした作品は、地域特有のインサイトを出発点としながらも、誰もが共感できる物語へと昇華されています。広告がローカル発の共感装置として機能していることが、グローバルな評価につながっているのです。

2. テクノロジーと感情表現の融合

デジタル技術を単なる演出手段ではなく、物語の一部として取り込んでいる点も特徴の一つです。Hyundaiの『Tree Correspondents』は、センサーとAIを活用し、森の木々が自ら環境状況を語るという仕掛けを構築。単なるデータ提示ではなく、感情に訴えるストーリーテリングへと転換しました。

また、AppleのVision Pro向けに制作された作品なども含め、新しいフォーマットや技術と物語を融合させたアプローチが複数見られました。技術の“見せ場”ではなく、体験として自然に馴染む形で感情と接続する姿勢が、今後のクリエイティブの方向性を示唆しています。

このように「人の気持ちを動かすために、どのようにテクノロジーを使うか」という発想が問われており、形式と内容の両面から広告表現が進化しています。

3. ブランドの“本質”を再定義するメッセージ設計

L’Oréal Parisの『The Final Copy of Ilon Specht』のように、ブランドのルーツやメッセージの原点に立ち返り、それを現代の文脈で再提示する試みも目立ちました。コピー誕生の背景をドキュメンタリー形式で丁寧に描いた本作は、単なる企業広告ではなく、「ブランドとは何か」を改めて問い直す構成が高く評価されました。

一方、Five Starのように、ブランドがもつユニークな立ち位置や個性を、ユーモアを交えて表現した作品も存在感を放っています。これらに共通しているのは、ブランドが一貫した視点で「何を伝えるべきか」を掘り下げ、それを生活者が楽しめるかたちで発信している点です。

派手な演出よりも“言葉”や“構造”に重きを置いたストーリー設計が多く見られたことからも、深度のあるブランディング表現が評価される傾向が強かったといえるでしょう。

このように、2025年の同賞では、地域文脈への理解、テクノロジーと物語の融合、そしてブランド視点の深化という3つの潮流が際立っていました。いずれも、広告が生活者と信頼関係を築くために、どのような発想と構造を持つべきかを示唆しており、今後のブランドコミュニケーションを考える上での貴重な示唆となるはずです。

グローバル文脈を捉えた表現づくりに向けて

こうしたトレンドを見て感じるのは、「良い表現」や「強いメッセージ」をつくるには、ただアイデアをひねり出すだけでは不十分だということです。文化的背景や社会的文脈を踏まえた視点設計、そして表現を支える確かな制作クオリティ。この2つが揃ってこそ、世界に通用するクリエイティブが生まれます。

とはいえ、社内でそのすべてを完結させるのは簡単ではありません。「どのように自社の価値を翻訳すれば、文化的な共感につながるのか?」「表現にブレのないビジュアルを一貫して展開するには、どんな体制が必要なのか?」。多くの広告・宣伝担当者が、そうした悩みに直面しているのではないでしょうか。

アマナでは、こうした課題に応えるために、2つのソリューションを提供しています。

1つ目は、ブランドの価値や思想を言語化し、表現戦略まで設計する「ブランディング」サービス。調査・分析を起点に、社内外を巻き込みながらブランドの根幹を明らかにし、クリエイティブに落とし込むまでを一貫してサポートします。

2つ目は、TVCMやWebムービーなど映像制作をワンストップで担う「TVCM/ムービー撮影」サービス。撮影から編集、音声・CG合成まで社内のプロフェッショナルが連携し、狙ったメッセージを高い完成度で届けることが可能です。

“海外広告のように見える”のではなく、“伝えたい相手に正しく響く”アウトプットへ。今年のロンドン国際広告賞受賞作が示したように、今後ますます求められるのは、深い洞察と確かな表現力を両立させることです。

アマナの経験と体制は、そうした課題に真摯に向き合うパートナーとして、きっと力になれるはずです。

アマナのサービス
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文:小林拓美  

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