企業理念をどう可視化するか──。
ヤマハ発動機は、人間研究に基づく科学的知見とクリエイティブの力を融合させ、長期ビジョン「ART for Human Possibilities」を体現するビジュアルコンセプトを制作しました。
ジャパンモビリティショー2025でお披露目された映像では、「没頭する時間=フロー(Flow)」という体験をテーマに、ブース内で没入体験が感じられるように空間を演出。
その共創のプロセスについて、ヤマハ発動機の木下拓也さん、末神翔さん、そして伴走したアマナの長澤豪、堀口高士に話を伺いました。
※フロー(Flow)とは、人が何かに深く没頭し、集中している状態を指す心理学用語です。
――ヤマハ発動機の長期ビジョン「ART for Human Possibilities」のビジュアル化への思い、またその背景について教えてください。
木下拓也さん(以下、木下。敬称略):「ART for Human Possibilities」は「ART」と「Human Possibilities」という2つの言葉から成り立っています。「ART」とは、人間性の探究の結果の、人間性の発露であると捉えています。人間性を探究する過程において、自分の時間の中で没頭する時間があり、その先に感動があります。例えば、好きなことなどに没頭する時間の先に、自分の可能性が広がっていくことを「ART for Human Possibilities」と言語化しています。
我々は人間研究の一環として「没頭する時間」を「フロー」と捉え、脳波等を含めて認知神経科学の先生方と一緒に研究しています。フローを通じて、人間が自分の可能性を広げていくプロセスに、我々はもっとアプローチすべきだと考えています。
ヤマハ発動機 執行役員、クリエイティブ本部長 木下拓也さん
――世界の人々に新たな感動と豊かな生活を提供する感動創造企業として、人間の本質を科学的に研究されていると思いますが、その研究の知見が今回のビジュアルコンセプトにどのように反映されたとお考えですか?
末神翔さん(以下、末神。敬称略):今回、「没頭する時間=フロー」というテーマで、ビジュアル化していただきました。フローは、行動や行為に没入し、時間を忘れ、それが無上の喜びになる、というものです。ヤマハ発動機では、これをさらに拡張し、人と機械が溶け合う、人と世界が溶け合う、というところまで「感動」という文脈で考えています。
今回のビジュアルでは、世界が溶け合うような演出を表現していただきました。それはフローに入る瞬間だけでなく、その先にある世界や、モノと人間、自分自身が溶け合って一つになっていくプロセスもうまく反映していただけていると思っています。
ヤマハ発動機 技術・研究本部 技術戦略部 ヒューマンサイエンスラボグループ グループリーダー、博士(心理学)末神翔さん
――アマナとの協業において印象に残っているやりとりや、可視化の実現に向けて重要だったターニングポイントについて教えてください。
木下:ビジュアライズを検討する中で開催したコンペで、アマナさんからご提案いただいたリアリティを感じさせるビジュアルが心に残り、プロジェクトをお願いすることにしました。
アマナさんの表現力には以前から信頼を寄せていましたが、いざ始めてみると難航したんです。「フローって何?」というところからスタートして、概念を理解していただく過程が何より大変でした。しかし、アマナさんが幾つかの場面のフローに入る瞬間を切り取った画を作っていただいた時から、一気にプロジェクトが加速しました。アマナさんのビジュアライズの力は、途中の概念を理解するところまでは苦労しましたが、イメージができてからは一気に「これだ!」というところまで到達したのが印象的でした。
――ヤマハ発動機様の「ART for Human Possibilities」という長期ビジョンを受け取られた時に、最初にどのようなアプローチを考えられましたか?
長澤豪(以下、長澤):プロジェクトに参加した時点で、ヤマハ発動機さんのオリエン資料に示された世界観は明確でした。だからこそ「共創」という体制の中で、自分がどの立ち位置で関わればチームのベストパフォーマンスを引き出せるかをまず考えました。
一方で「ART for Human Possibilities」は抽象度が高く、アマナとクライアント双方の“作り手”が関わるから、受け取り方が人それぞれに揺れます。結果として、長期ビジョンと結びつかないまま手法や見た目の善し悪しに議論が傾く場面もありました。
私は、「ART for Human Possibilities」を確かに継承したアウトプットにするために、資料に散りばめられた多くのヒントから何を拾い、何を捨て、何が足りないのかを想像しながら補い、チームが持つイメージを少しずつ一つの方向へ束ねていくことに集中しました。
アマナ アートディレクター 長澤豪
堀口高士(以下、堀口):このプロジェクトは非常に哲学的で、どう可視化したらいいのかがわからない状態が続きました。そこで私たちは、考え込むよりもまず形にしてみて、すり合わせを重ねながら方向性を探る方が前進できると考えました。さまざまなビジュアルを提案しながら議論を重ね、抽象的なテーマを一歩ずつ具体化していきました。
ただ、すごく抽象的なテーマなので、どれが正解かわからないという状態が長く続きました。おそらく最初に進まなかった原因は、私たちにも固定概念があって、画一的なイメージにとらわれていたからだと思います。それを一度壊して発想を広げ、いろんなバリエーションのフローを描いていくうちに、「この方向だ」「これは違う」という感覚の共有が生まれ、ヤマハ発動機さんと意思疎通が深まっていったと感じています。
アマナ クリエイティブプロデューサー 堀口高士
――今回のプロジェクトにおいて、共創の面で大切にしたことは何ですか?
長澤:共創という点では、プロジェクト過程で非常に密度の高い議論を重ねました。一般的なクライアントワーク以上に踏み込んだコミュニケーションがあり、ときには議論が熱を帯びる場面もありましたが、その熱量があったからこそ、より良いアウトプットに仕上がったのだと実感しています。
通常、クライアントとの関係では、無意識のうちに見えない壁が生まれることもあります。しかし、このプロジェクトでは、その壁を越えてお互いの熱量がぶつかり合い、それが結果として大きなプラスにつながりました。そうしたプロセスこそが「共創」を意識して進めてきたことの成果だと思っています。
堀口:言葉にしようとすると抽象的すぎて伝わりにくいテーマだったため、なるべくシンプルに、そして最終形に近いビジュアルで見せることを心がけました。中途半端な段階では意図が伝わりにくいため、なるべく完成イメージに近いものを見せながら対話を重ね、少しずつ言語とビジュアルを融合させていきました。そうした具体化の積み重ねが、まさに対話による「共創」だったと思います。
――完成したビジュアルコンセプトをご覧になって、どのように受け止められましたか。
末神:ヤマハ発動機としての研究は、サイエンスにとどまらず、アート、クリエーションとのコラボレーションを通じて進めています。今回、サイエンスの知見をアートとして可視化し、体験として落とし込んでいただきました。
我々が目指しているものは理論的にはこうだけれども、感覚としてきっとこういうものなんじゃないかというイマジネーションが今回の作品で喚起されました。これがサイエンスの新たなインスピレーションにつながると感じています。
木下:我々の原点である楽器、音楽や、代表的なモーターサイクルも、上手くならないと面白くないという商品であり、人間の能力開発を課す商品です。
感動創造企業として、感動の一歩手前にある「没頭する時間=フロー」という体験を通じて、皆さんそれぞれの感動にどのように我々がタッチできるのかを研究しています。そのフローの瞬間を体現した今回のビジュアルコンセプトを通して、我々の大事にしているプロセスに皆様を誘えることを期待しています。
企業理念を、科学的知見とクリエイティブの力で可視化したヤマハ発動機とアマナの共創プロジェクト。人間研究に基づく深い洞察と、対話を重ねた協働プロセスが、ブランドの本質を体現するビジュアルコンセプトを生み出しました。アマナは、ブランドの理念を深く理解し、共に創り上げるパートナーとして、お客様のコミュニケーション課題に寄り添い、未来を共創していきます。
<スタッフクレジット>(スポンサー/クライアント以外はすべてアマナ)
スポンサー/クライアント:ヤマハ発動機株式会社
CGスーパーバイザー:前田昂
エグゼクティブ・デジタル・アーティスト:山田竜一、佐藤翔太
デジタル・アーティスト:本永千賀子
アートディレクター:長澤豪
クリエイティブプロデューサー:堀口高士
アカウントプロデューサー:菱田陽子
プロデューサー:村田友祐
プロダクションマネジャー:芳賀健太郎
撮影:カクユウシ(アマナ)
取材・文:RASIT
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株式会社アマナ
長澤 豪
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長澤 豪
2010年、アマナグループに入社。以来、サービス立ち上げのUX開発から、五感を刺激するイベントプロモーション、企業のアイデンティティを確立するブランディングまで、ブランドとユーザーの接点をデザインし続けている。「触れる前から、触れた後まで」を意識したデザインを手がけ、企業の本質的な価値を、記憶に残る形で世に送り出すことを日々心がけている。
株式会社アマナ
堀口 高士
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堀口 高士
事業構想大学院大学 修士課程(Master of Project Design)修了。家電、モビリティ、食品、飲料、通信、インフラなど幅広い業界の企業が抱える、さまざまなコミュニケーション課題をクリエイティブで解決するディレクターとして活動している。

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