正直であることを大切にしてきた今だからわかる「僕の考えるコミュニティ」 ― ヒグマドーナッツ春日井氏インタビュー

学芸大学駅から歩いて3分。北海道産の食材にこだわり、揚げたてのドーナッツを提供する「ヒグマドーナッツ(HIGUMA Doughnuts)」をご存知だろうか?
開業当初は、店舗を持たない出店スタイルで、様々な野外フェスで大行列を作ってきた人気のドーナッツ屋さん。現在では、学芸大学と表参道に店舗を構え、地域の人に愛されるお店として広がりを見せている。
    
学校帰りの子どもがドーナッツを揚げている様子をジーっと見つめていると、そこに母親が迎えに来てくれて、おやつにドーナッツを1つ買ってくれる。それを美味しそうに食べる姿をにこやかに見つめるお店のスタッフ。人と人が集う店舗もコミュニティの1つだ。
そんな”店舗”という形態のコミュニティを形づくってきた、ヒグマドーナッツの店主である春日井 順氏に、彼の考える”コミュニティ”についてお話を伺った。
 

自分が1番の”ヒグマドーナッツのファン”であるからこそ築き上げられた、”信頼”というつながりの強さ

お客さんの集まりももちろんコミュニティだが、働くスタッフの集まりも1つのコミュニティだ。ヒグマドーナッツで働くスタッフは、もともとお客さんとしてお店に足を運んでいた”ヒグマドーナッツのファン”だという人も多いという。スタッフにモチベーションを高く働き続けてもらうために意識して取り組んでいることは何か伺うと、”お客さんの顔を見てコミュニケーションが取れる飲食店だからこその面白さ”を常にスタッフへ伝えていると話してくれた。
    
春日井氏:「ドーナツも商品もそうですけど、ただ作っているだけでは面白くないですよね。僕は何をするにも、スタッフに対して『君はどう思う?』と聞いてから、まずはやらせてみます。試行錯誤を繰り返しながら完成させた商品を、少し不安になりながら、お客さんが目の前でドーナツを喜んで食べてくれる姿を見ると最高に嬉しいんですよ。その体験をスタッフにも知ってほしいんです。」
    
そして春日井氏は、自分が何かコミュニティを作りたいのならば、そのテーマになるものに対して自分が一番のファンでなければならないと言う。ファンであるということは、しっかりとその商品やお店を”自分ごと”として考えられているということ。ヒグマドーナッツには、「いいモノを、自らの手でお客さんへ届けたい。」という春日井氏の想いが根底にあり、その想いはスタッフやお客さん一人一人への接し方にも現れている。自分の想いに正直でいるからこそ、それが周りの人へ伝わり、共感が生まれて、どんどんコミュニティの輪が広がっていく。そこには、雇用する側とされる側、サービスを提供する側とされる側、という事ではなく、お互いに信頼し合える関係で築き上げられているつながりの強さを感じる。

“コミュニティ”は僕らを表す姿

デザインやブランディングをする立場としても、商品やサービスの魅力を世の中へ伝えることを生業としている春日井氏。これから「コミュニティを作りたい」人や「人を集めたい」と考える、企業でマーケティングやブランディングなどを担当する人へ向けて、春日井氏が考える”コミュニティ”の捉え方を話してくれた。
    
春日井氏:「僕たちが日頃から地道に取り組んでいる一つ一つの積み重ねが”ヒグマドーナッツ”という像を作る。そして、その”ヒグマドーナッツ”像に共感してくれる人が少しずつ増えて”コミュニティ”と呼ばれるようなものができる。そうやって広がっていった”コミュニティ”は、僕ら自身を表す姿なんだと思います。だからこそ、そのコミュニティにいる人に対して、常に正直でいることがとても大事です。たくさんの人たちに伝えようとして、伝えることだけを頑張っても人には伝わらない。メディアに取り上げられて、ヒグマドーナッツを知る人が増えることは素直に嬉しいですが、本当にヒグマドーナッツを好きでいてくれている人たちを絶対に見失ってはいけない。常に、僕たちを好きでいてくれる人たちが喜んでくれることを意識しています。」
    
春日井氏のいう”常に正直でいること”は、簡単なように聞こえるが、それをやり抜くことは誰にでもできることではない。しかし、まずは目の前のできることから始めて、1人でも2人でも反応してくれる人を大切にしていくことが、自分にとって最高の体験になり、自分を正直でいさせてくれる活力になっていくのだろう。
マス広告が効きづらくなってきたともいわれる昨今、今自分たちのファンでいてくれている人たちにどうメッセージを届けるかを考える前に、自分たちはどうありたいかを考えることが重要ではないだろうか。企業を消費者とつなぐ鍵は”正直でであること”なのかもしれない。

    
Writer by  Haruna Kawano


    
[ 今回の話し手 ]
    
春日井 順 氏
    
ヒグマドーナッツ(HIGUMA Doughnuts)店主
1979年、北海道室蘭市生まれ。solla株式会社代表。 バンクーバーアイランド大学MBA修了。
2006年、デザイン・ ブランディングを主とするsolla株式会社設立。
2014年より、北海道の素材にこだわったハンドメイドのドーナッツを作りフェス等に出店。青山ファーマーズマーケット等で話題を呼び、2016年6月に実店舗「HIGUMA Doughnuts」を学芸大学にオープン。

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