情報過多な時代、企業はどのように情報を発信すれば顧客に届けることができるのでしょうか。デジタルメディアの研究・開発に特化した講談社の新子会社・KODANSHAtechの長尾洋一郎さん、アマナで企業のブランディングやコンテンツ企画・制作を担当する青木裕美とともに考えます。
※本稿は2021年4月16日に開催されたアマナのウェビナー「コンテンツ戦略に不可欠なノウハウと技術〜KODANSHAtech(講談社)のGMと考える、“ストーリー×UX”の深い関係〜」を記事化したものです。
新型コロナウイルス感染症の流行から1年あまり。あらゆる業界でオンライン化が急速に進み、ウェビナー配信やオンライン商談会、ライブコマースなど、さまざまな切り口で顧客へアプローチする企業が増えました。しかし、企業はこうした顧客との接点の創出のみならず、顧客の心理変化についても深く考察すべきだとアマナの青木は言います。
「コロナ禍以後、ユーザーはあらゆるモノやコトに自由にアクセスできるようになったことで、物質的価値よりも精神的価値を重視する傾向が以前にも増して強くなりました。『モノ消費』から『コト消費』への変化は以前から言われていましたが、コロナ禍で今まで以上に“ここだけ”の非再現性や限定性が好まれる『トキ消費』に進み、精神的な満足度を重視する『エモ消費』も増えています。つまり体験の”量”ではなく、”質”が重視されるようになったのです」(青木/アマナ)
企業はコンテンツを発信するとき、こうした消費の変化を考慮しなければなりません。では、こうした変化をふまえたうえで、企業はいま顧客に何を伝えるべきなのでしょう?
「いま支持されている企業は、ブランドのパーパス、つまり存在価値をありのままに発信しています。コロナ禍以降、ブランドパーパスがない企業は生き残れなくなっていくとも言えるのではないでしょうか」(青木/アマナ)
しかし、ブランドパーパスを見出したところで、企業はそれをどのようにして顧客へ伝えていくべきなのでしょう。いま、消費者は日々大量の情報を消費している状況。情報リテラシーが上がったことで、自身にとって価値あるコンテンツかどうかを見極める審美眼と、判断スピードが磨かれています。そのような状況で、長尾さんは「ありきたりなストーリーを語るだけでは消費者に受けとめてもらえない」と言います。
「私のようなメディア企業に勤める者にとってすら、コンテンツ消費の現状は大きな壁です。非常に短時間で響くストーリーを伝えなければならないとき、語るべきは『困難のストーリー』。昨今多くの企業が取り組んでいるSDGs関連活動の発信においても『SDGs文脈で何をしているか』や『どのようなことを実現できたか』という結果だけでなく、『私たちはこんな困難をこのように乗り換えました』という、困難を伴うプロセスのストーリーが刺さるのではないでしょうか」(長尾さん/KODANSHAtech)
参照:情報飽和時代に実践すべき、消費者に響くストーリーとコンテンツのつくり方
長尾さんが携わるWebメディア『現代ビジネス』のアクセス流入元を分析したところ、Yahoo!ニュースやLINEニュース、Twitterなど、外部のプラットフォームやSNSを経由している割合が全体の約54%にものぼったといいます。つまり、ユーザーの過半数以上は、企業が持つオウンドメディアのコンテンツを外部サイトで”見かけている”状態にあるということです。
「今、情報は飽和状態にあり、どんどん“ファーストフード化”しています。コンテンツの内容がじっくり見られる機会はどんどん少なくなり、Yahoo!ニュースであれば見出しを、Twitterであればアイキャッチ画像・タイトル・サマリーだけを見て、ユーザーは自分にとって必要かどうかを判断し、消費することが多いんです」(長尾さん/KODANSHAtech)
そのような状況で目を止めてもらうには、まず「端的に伝えること」が何よりも大切。ポイントは二つあります。
ポイント1:PREP法(Point・Reason・Example・Point)を意識する
ユーザーの大多数はコンテンツの序盤しか見ないので、ポイントや結論など“おいしいところ”を最初に入れる。ポイント2:「サマリー(まとめ)」に気を配る
ユーザーの大多数は「まとめ」しか見ないので、「サマリー」は書籍や映画のあらすじやテレビのラテ欄のつもりで作る。
「たとえば化粧品に関する記事コンテンツの場合にやりがちなのは、『この夏おすすめの新色のコスメ』のようなタイトルやサマリーをつけてしまうこと。しかし、このタイトルでは誰がおすすめしているか、どんな点が新しいか、など具体的な情報はほとんど入っておらず、何を伝えるコンテンツなのか一眼でわかりません。自分が読者だったらその記事で何を知りたいかを考え、関心を引くワードを入れるべきなのです」(長尾さん/KODANSHAtech)
一方、外部のニュースサイトやSNSを意識した端的な伝え方に注力する以外にも、オウンドメディアで成果を上げる道があります。それは、工夫を凝らしたフォーマットの自社Webサイトの中で、ボリュームのあるコンテンツを構成し、能動的にWebサイトを閲覧してもらうというやり方です。しかし、こうした Webサイトは概してPV数が伸びづらい傾向にあります。では一体どうすれば……?
「そもそも企業のWebサイトで、PV数を重視する必要があるのでしょうか? 広告収入を期待するのならPV数は確かに重要ですが、ブランドや商品のファンを増やすことが目標にするのならば、KPIにすべきは『ロイヤリティ』です。具体的には、会員登録のコンバージョン率や再訪率、読了率などが指標になり得るでしょう。
ロイヤリティを上げるために必要なのは、“ここでしか得られない唯一無二の顧客体験”を提供すること。企業のオウンドメディアにおける真のパーソナライズとは、”行きつけの店”のような、顧客との密なコミュニケーションによって成立するのです」(長尾さん/KODANSHAtech)
「発信すること」自体も大切である一方、先に考えなければならないのが発信するパーパスです。社内でのパーパスの認識にずれがある状態であったり、そもそもパーパス自体を見直さなければならないのであれば、いっそインナーブランディングから行うことも視野に入れます。
「アマナがご一緒した第一園芸では、消費者に向けた発信の前に、まずはインナーブランディングを行って企業のパーパスを再定義し、社員の認識をそろえることから始めました。その後パーパスに基づき、一貫性を持ってWebサイトやブランドムービー、社内報、ポスターなどのコンテンツを制作・展開して企業イメージや世界観を構築していき、最終的に新サービスやショップなどの新たなイノベーションにもつながりました」(青木/アマナ)
社内の認識をそろえることができれば、結果的にWebサイトに留まらず多彩な形での情報発信が可能になり、企業パーパスを一貫してユーザーに伝えやすくなります。
「また、このご時世で工夫の余地が大いにあるのがオンラインミーティングです。冒頭の『トキ消費』にも関連しますが、いつでも見られるアーカイブコンテンツだけではなく、リモート環境であっても、リアルタイムでしか参加できない体験を提供することで、従来のオンラインコンテンツから体験価値の向上が期待できます」(青木/アマナ)
NTTコミュニケーションズの共創コミュニティ「C4BASE」で開催されている「オンラインコーヒー交流会」は、リアルタイムで参加者と体験を共有するオンラインコンテンツの一つ。事前に参加者へC4BASEオリジナルのブレンドコーヒーを送り、同じタイミングで一緒に味わいながら参加者が交流を行います。コーヒーを一緒に飲むことでリアルタイムで“五感の共有”ができ、オンラインであっても、より深くつながることが可能になりました。オンライン での接触時間が長い今、こうしたユニークな試みを行っていくことも、顧客との関係性を深める一つの方法となっています。
このように、伝えたいことも、伝える手段も企業によって多様なもの。一つの枠組みに留まる必要はありません。
企業がまずやるべきなのは、何を発信するべきなのかを考えること。そして、顧客の立場に立ち、どのような伝え方であれば情報を受け取ってもらえるかを想像することです。そのうえで、目的をぶらさないようにしながらも、状況に応じて情報発信の方法を変化させてみる。そのどれもが、顧客からの共感を呼び、アクションにつながるために必要不可欠な要素なのです。
文:吉永 美代
撮影[interview]:ATSUSHI KAWASHIMA(amana)
撮影[top]:Ilenia Tesoro(EyeEm / amanaimages)
編集:徳山 夏生(amana)
amana Content Marketing
amana Content Marketing
コンテンツマーケティングの本場であるアメリカで、業界を牽引するリーディングカンパニーであるIndustry Dive。国内唯一の独占パートナーであるアマナがその集合知を活用し、成果へと繋がるコンテンツマーケティングをサポートします。
企業が抱える課題に沿って、戦略策定からチーム構築、コンテンツ制作、効果測定まで、コンテンツマーケティングの運用をトータルで支援します。