“オンラインに引っ越します”のヤフーと考える、フルリモート時代のイベント最適化

コロナ禍を経て、企業の営業活動やマーケティング活動の在り方も大きく変化してきています。2020年7月、「オンラインに引っ越します。」宣言で話題になったヤフーでは、11月に「Yahoo! JAPAN MARKETING CONFERENCE 2020」を開催。アマナでもUX設計を一部サポートしました。

フルリモート時代、イベントコミュニケーションはどう進化していくべきか?

ヤフー マーケティングソリューションズ統括本部の荒谷英延さん・堀朋子さん、そして同カンファレンスの制作をサポートしたアマナの岡本崇志・北村翔太朗に聞きました。

コロナ以前から、取り組みはすでに始まっていた

―― ヤフーさんといえば、昨年の「オンラインに引っ越します。」という新聞広告でも、場所や時間にしばられない働き方が話題になりました。現在(2021年2月)は緊急事態宣言下ということもあり、出社自体が原則禁止だそうですね?

荒谷(ヤフー):はい。これを機に郊外へ引っ越した社員もいます。

ヤフーでは、2014年から「どこでもオフィス」制度を開始、2017年には月5営業日まではリモート勤務ができるように制度が変わり、積極的な活用が推奨されてきました。そういった背景もあり、フルリモートへの移行はスムーズに進んだ印象です。私たちの部署は、ヤフーの中でも広告事業を取り扱っていますが、営業スタイルもリモートが基本になっています。

荒谷英延さん(ヤフー MS統括本部 営業推進本部 マーケティングコミュニケーション部 部長)

―― 実際にフルリモートに移行してみて、いかがですか?

荒谷(ヤフー):最初は、オンラインでの営業に抵抗のある社員やお客様もいらっしゃったようですが、緊急事態宣言下でそれが当たり前になり、活動自体はしやすくなってきているようです。Yahoo! JAPANに出稿いただいている広告主・広告代理店の皆さまは全国にいらっしゃるため、リモートになってコミュニケーションの頻度は高まっています

―― BtoBにおけるイベントやカンファレンスのかたちも、この1年で大きく変わってきましたね。

堀(ヤフー):昨年3月以降オフラインのイベントを中止し、4月の緊急事態宣言以降は、リモートの環境下でのオンラインセミナーやイベントの設計も、試行錯誤しながら進めてきました。 

堀朋子さん(ヤフー MS統括本部 営業推進本部 マーケティングコミュニケーション部 イベントチーム マネージャー)

堀(ヤフー):新しいサービスのリリース時など、一斉にコミュニケーションをとるほうが効率的なシーンにおいては、やはりイベントという手法が活きてきます。昨年4月以降は、毎日のようにウェビナーを開催しながら、より適したやり方を模索してきました。

―― イベント開催後に、どのように商談につなげていくかについても、営業の方々との連携の仕方も含めて、オンライン/オフラインでは最適な設計が変わってきますね。

堀(ヤフー):最初はウェビナーを開催するシステムがなかったため、参加したお客様をどう把握し営業と連携するかが課題でしたが、ウェビナ―システムも導入でき、まだ試行錯誤中ではありますが、営業との連携も図れるようになってきました。

2020年上半期は、広告運用方法などをお伝えするウェビナ―を多数開催してきましたが、もう少し先々の方針を発信していくような機会を設けたいという意図もあり、11月に「Yahoo! JAPAN MARKETING CONFERENCE 2020」を開催しました。

小規模なウェビナーと、こうしたカンファレンスの場を、それぞれどのように営業活動に組み込んでいくべきか、今回の実施を機に営業スタッフも感触を掴んでくれた印象です。

オンラインならではの表現幅を活かした、“らしさ”の演出

―― 以前は都内の会場で開催されたカンファレンスを、今回はオンラインに場を移したわけですが、演出についてはどのようなところをポイントに置かれたのでしょう?

堀(ヤフー):今回のカンファレンスの一番の目的は、Zホールディングスの新たなマーケティング戦略の全体像を、広告主・広告代理店の皆様にお伝えすることでした。オンラインにおいてもオフラインにおいても、IT企業らしい先進性と、ヤフーらしさを感じさせるデザインは通底させるよう意識しています。

2020年11月6日にライブ配信された「Yahoo! JAPAN MARKETING CONFERENCE 2020」。久木田専務執行役員のプレゼンテーションから始まり、方針と戦略が発表された。

堀(ヤフー):オフラインでやっていたことをそのままオンラインに持ってくるというよりは、オンラインならではの表現を追求したい。手法を検討する中で、アマナさんのdeepLIVEに辿り着いたかたちです。

CGを駆使した世界観の構築、プレゼンテーションの情報的&視覚的デザイン、ブランドや製品をより魅力的に訴求するビジュアルソリューションを組み合わせた、アマナのバーチャルライブ配信ソリューション「deepLIVE」。

―― 「ヤフーらしさ」をビジュアライズするにあたって、それをどう解釈し、表現に落とし込んでいったのでしょう?

北村(アマナ):日本におけるITのリーディングカンパニーであるヤフーさんの発信するメッセージを、非言語要素も含めていかに表現していくべきか

今回のカンファレンスの中心には「データマーケティング」というキーワードがあったので、データの蓄積がより豊かな生活や暮らし、街、そして世界をつくっているという解釈をベースに、その世界観をディテールに落とし込んでいきました。

北村翔太朗(アマナ コミュニケーションシニアプランナー)

北村(アマナ):リアルなイベントの造作と違って、オンラインかつフルCGだと表現の幅に制約がないので、正直どんなものでもつくれちゃうんです。「データがつくる街」を実際にどう表現するかは、堀さんともご相談しながら、何度かイメージビジュアルをもとにすり合わせながら進めていきました。

2020年、誰もが大きな変化を感じていく中で、ヤフーさん自体も変わっていく。ITカンパニーとしてDXの流れをリードしていくという意味を付与するためにも、オープニングには扉をあけるシーンを盛り込んでいます。

―― 参加者からの反応はいかがでしたか?

荒谷(ヤフー):今回のカンファレンスは、直接商談につなげるというよりは大方針の発表・認知という意味合いが強かったのですが、参加された方々から「ソリューションについて詳しく話を聞いてみたい」というお問合せを多数いただいています。

堀(ヤフー):大きな会場でやると、どうしても会場後方の席の参加者には届きにくかったりもするので、今回のように「方針をしっかりと伝える」というシーンにおいては、オンラインだと資料が見やすいといったメリットもあり、一人ひとりにきちんと届けるという形式は適していたと思います。

2021年、イベントトレンドはハイブリッド型へ

―― deepLIVEのサービスは、昨今特にBtoBでの活用シーンが広がっていますが、こうしたウェビナーやオンラインカンファレンスを開催するうえでのポイントや、今後のトレンドについてはどのように見ていますか?

岡本(アマナ):日々数多くのウェビナーやオンラインカンファレンスが開催される中、「ながら見」も多くなってきています。いかに離脱を防ぎ、エンゲージメントを高めていけるかを考えるうえでも、非言語要素も含めて参加者の視聴覚にあらゆる角度からアプローチし、デジタルデータを通して“伝わる”精度をあげていくことは重要ですね。

岡本崇志(アマナ 執行役員・プロデューサー deepLIVEサービス責任者)

岡本(アマナ):特にBtoB企業にとっては、フルリモートがベースになると、マーケティング活動や営業連携の在り方も変わってくるはず。フローを再構築し、顧客に対してあらゆる接点を用意しながら、イベントも、リアルとオンラインを組み合わせたハイブリッド型で最適化をはかっていく必要があると感じています。

北村(アマナ):今は、オンライン/オフライン問わず人の行動を可視化しやすい時代です。「データ×クリエイティブ」でエンゲージメントを高めていくことは、より豊かなコミュニケーションを考えるうえでも重要になりそうです。

カンファレンスも、全国一斉配信されるタイプのものもあれば、地域や業界に特化したかたちがあってもいいかもしれないですね。

荒谷(ヤフー):ヤフーでも、業界特化型のカンファレンスは今後増やしていきたいと思っています。オープンなカンファレンスがある一方、もう少しターゲットを絞ったコミュニケーションも考えたい。目的とシーンにあわせてカスタマイズしていきたいですね。

岡本(アマナ):海外のファッションブランドなどでは、VR空間上にランウェイをつくって、限定したVIPに対して事前にVRゴーグルを送付し、特別な体験を提供している例もあります。

フィジカルでしか共有できなかった体験を、XR等の最新テクノロジーを活用していかに実現していけるか、今後面白い展開が期待できると思いますし、そこでまた新しい表現やクリエイティブの可能性が拓けてくると感じています。

堀(ヤフー):些細なことではありますが、イベントの際によく参加者に渡していたお土産のような、ちょっとしたコミュニケーションも意外に大事だったなと思うことがあります。今後は、オンラインでも手渡しのお土産に代わるようなコミュケーションを構築していけたらいいなと思います。

岡本(アマナ):お土産も、その企業やブランドの“らしさ”を表現する重要なコンテンツですし、クオリティが高いとSNSでシェアされたりもする。体験を共有するという意味でも機能していましたよね。

実はアマナにはコーヒークリエイターがいるのですが、彼がセレクトしたドリップキットを事前に参加者にお送りし、オンラインイベント当日にレクチャーを聞きながら各々が同じタイミングでコーヒーを淹れて、香りや味を楽しみながらお話をするという試みをやったことがあります。オンラインの利便性に、リアルな五感体験の豊かさを掛け合わせていくような試みも、今後増やしていきたいです。

北村(アマナ):商流としても、BtoCtoBのように視点を変えた流れ、つまりはCの結果をBに活用するといった、コミュニケーションにも可能性が広がってきていますよね。ヤフーさんのソリューションは、Cにおける一連の体験を設計できる網羅性があるので、データを接続しながら、体験を共有できるシーンやその手段がより豊かに広がっていくといいなと思います。

堀(ヤフー):そうですね。ヤフーにもさまざまなサービスがありますが、データで各ソリューションをつないでいくことは、クライアント企業の皆様にも期待していただいているところですし、ユーザーの方々にとって豊かな体験を創出することにもつながればと思っています。

今後も、オンラインとオフラインをうまく組み合わせながら、ヤフーだからこそできるイベントコミュニケーションのかたちを模索していきたいですね。

 


 

コロナ禍で、営業活動の在り方や働き方も大きく変わってきました。今後、徐々に人の移動制限が緩和されていくとしても、特にビジネスシーンにおいては、元の世界に戻るというよりもむしろ、オンラインをベースとしたフローに組み込まれることを前提とした“新しい姿のリアル”がやってくると考えたほうがいいでしょう。

オンライン/オフライン、それぞれの特性を理解し、掛け合わせながら新たなコミュニケーションの可能性を切り拓いていく力が求められています。

撮影[interview]:Kelly Liu(amana)
撮影[top]:HISAO OSONO(orion/amanaimages)
文・編集:高橋 沙織(amana)

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