モビリティとSFで社会課題を解決。SDGs「住み続けられるまちづくり」へのアプローチをディスカッション

国連がSDGsの項目の1つとして提唱する「住み続けられるまちづくり」。世界人口の半数以上が都市部に集中し、環境問題や格差問題が深刻化する中で、モビリティ(※)には、この都市の課題への貢献が期待されています。amana mobilityと「SFの社会実装」に挑むユニークなコンサル組織Anon(アノン)の森竜太郎さんがディスカッションし、モビリティで導き出せる“解”を探ります。
※…本稿では「乗り物」だけでなく、「モノや人を動かす」の意味で用いる。

“住み続けられるまち”を阻害する4つの課題

SDGsの17項目のうち、11項目目に掲げられている「住み続けられるまちづくり」。2030年までに世界の人口の6割が都市部に居住すると言われ、人口集中による交通渋滞や交通事故の増加、クルマの排気ガスによる大気汚染などが問題視されています。

今回、amana mobilityと森さんが挙げた、モビリティが大きく関わる都市の課題は大きく4つ。

今回は、たとえ突飛な内容であっても、出てきたアイデアをビジュアル化し、そのビジュアルを元に議論を深めるスペキュラティブデザインの手法を用いてディスカッション。未来の可能性を探索する為にシナリオをプランニングし、Sifiプロトタイピングを行うアノンと、アイディアやコンセプトを可視化し、共通認識を醸成することで議論を更に深めるビジュアルプロトタイピングを行うアマナが、未来の可能性を探索します。

モビリティは都市の問題にどのように貢献できるのか 

amana mobility 土井俊介(以下、土井):4つの課題を眺めると、やるべきことは明確で、「クルマの台数を削減する」「渋滞も削減する」「エネルギーをクリーンにする」ではないでしょうか。

Anon森竜太郎さん(以下、森。敬称略):そうですね。それを叶えるポイントが「CASE」だと思います。

現在「CASE」と呼ばれる新しい領域で技術革新が進み、クルマの概念が転換期を迎えている。

amana mobility山田洋平(以下、山田):自動車メーカー各社の自動運転へのシフトは交通事故の削減へつながり、ガソリンエンジンからEV(電気自動車)などエコカーへのシフトは温室効果ガスの削減や大気汚染の緩和に貢献できますね。

森:さらに、「Connected(コネクテッド)」と「Autonomous(自動運転)」、「Shared&Services(シェアリング/サービス)」を密接に連携させることで、都市の課題解決へ大きく寄与できるのではないかと思います。

たとえば、すでにアメリカでは一般化しているUberやLyftなどのライドシェアサービス(※1)ですが、「Autonomous(自動化)」と連携することでさらに便利になります。ライドシェアするクルマが自動運転になれば、運転席が空くのでシェアの数が一人分増えますよね。
※1…乗用車の相乗りの需要をマッチングさせるソーシャルサービス。

土井:そうすることで、クルマの台数を減らすことにつながると。

 森:はい。また「Connected(コネクテッド)」がさらに進んだV2X(※2)では、すべてのクルマとクルマ、クルマと人、さらにクルマとインフラなど、すべてがネットを介してつながり、道路の混雑状況をリアルタイムでキャッチし、それぞれのクルマが渋滞を避けながら最適な運転ができるようになります
※2…Vehicle-to-everythingの略。自動車に搭載された3GやLTEモデルを使った通信サービス、車車間通信など「車とモノとの通信」の総称。

山田:相乗りした自動運転車が最短ルートを導き出して目的地へ連れて行ってくれるんですね。

森:道路状況をリアルタイムで捉えて、ライドシェアサービスのアプリ経由でユーザーに「今はそこで乗車されるとスムーズなクルマの流れが妨げられるから、300m先で乗車を」と促し、渋滞をつくらない最適な場所で人をピックアップできるようにもなるはずです。

モビリティとあらゆるモノや情報がつながることで、都市での移動はスムーズになり、4つの課題も解消されていくのではないでしょうか。

土井:トヨタが直近のCESで発表した「Woven City」やGoogleがカナダのトロントで進めているスマートシティプロジェクトの「IDEA」も同じ文脈ですよね。テクノロジーが都市を支える根幹になると、高度な運営技術も必要になるので、公共交通は民営への委託も増えていくはず。いずれにしても、クルマがあらゆるインフラとつながることは、都市の課題解決へつながっていきそうですね。

ビジュアルプロトタイピングで探究する未来の循環型モビリティ

森:クルマによって引き起こされている問題だけでなく、モビリティは都市の環境問題の1つのゴミ問題にもリーチできると思います。人が多いところはゴミも多いですし、コロナ禍以前、京都などインバウンドで盛況だった都市では、観光客が街中にゴミをポイ捨てしてしまうことに頭を抱えている話を耳にしたこともあります。この解決策として、都市の中を“ゴミ箱のようなもの”が走る日が来るかもしれません。

山田:走るゴミ箱ですか!

制作:丸岡和世(amana digital imaging)

 森:日本では、テロ対策のために駅や街中のゴミ箱を撤去させてきた歴史があります(※3)。観光客にしてみたら「ゴミをどこに捨てていいかわからない」状況が発生しやすいんです。加えて京都のような観光地では、景観の観点からも設置を避けたいもの。

これを解決するために、ゴミ箱を固定化せず、自走して移動するようにすればいいのではないでしょうか。「CASE」の発想を応用すれば、人が多い場所をデータとしてリアルタイムで展開し、走るゴミ箱が受信。そこへ自動でゴミ箱が向かうようにできたら、最小限のゴミ箱で最大限の効果が出せるのではないかと思います。
※3…1995年の地下鉄サリン事件以降、公共のゴミ箱が減らされ、首都圏をはじめとする駅ホームなどには、中身が見える透明のゴミ箱の設置が進んでいる。一方、ヨーロッパ諸国では、電車の中にゴミ箱やゴミ袋が常備されていることも多い。

土井:そうすることでポイ捨てがなくなり、固定されないことで景観の邪魔もしないわけですね。でも、動くからといってテロ対策が万全にできるわけではないと思いますが……。

森:それこそSci-Fi(サイエンス・フィクション)的にアイデアを出すと、ゴミ箱に目の虹彩認証や非接触指紋認証を搭載させれば解決できるかもしれません。

土井:ゴミを出す人を識別できるようにすればテロ対策ができますね。あと気になるのは、走るとはいえ、いかにもシンボリックなゴミ箱的なデザインにしすぎると、目立って景観の邪魔になってしまいますよね。できるだけシンプルなものがいい。あとは、京都のような小道が多いまちでは小回りが効くようにする必要もあります

制作:丸岡和世(amana digital imaging)/写真:GYRO PHOTOGRAPHY(amanaimages)

山田:景観を気にするとたしかに大きなものにしたくないのはわかりますが、このイメージを見ると小さすぎる気もします。ゴミがすぐいっぱいになってしまうのではないでしょうか。

森:では、頻繁にこのゴミ箱の中身を回収するシステムを実装するのはどうでしょう?  「CASE」の流れが進めば、公共バスも自動化し、臨機応変に最適なルートで人を乗降させるオンデマンドバスになるはずです。そのバスとゴミ収集車の機能を合体させ、走るゴミ箱の情報をリアルタイムで受け取り、ゴミ箱が満杯になってきたら自動的にオンデマンドバスがゴミもピックアップする仕組みにすればいいんじゃないかと思うんです。

土井:人を自動的にピックアップするように、ゴミも拾っていくんですね。

 森:さらに、街中にある飲食店が出す生ゴミもオンデマンドバスがピックアップして、そのゴミをバイオガス(※5)に転換すればクリーンエネルギーかつ低コストでバスを走らせることができます
※5…微生物の力(メタン発酵)を使い、生ごみや紙ごみ、家畜ふん尿などから発生するガスのこと。ガスにはメタンが含まれており、発電に利用することができる。

制作:丸岡和世(amana digital imaging)

土井:公共交通の仕組みが民間委託されていくのであれば、こうした効率化のアイデアもすぐに実装されるでしょうね。もうありそうな気もしてきました(笑)。

森:さらに、テロ対策として搭載した虹彩認証で得たデータから、ゴミを出した人の生活水準や趣味嗜好を分析し、パーソナライズしたターゲティング広告を出すこともできます。

 山田:生活者の情報をそのまま活用してしまうと個人情報保護の問題があるので、きちんと同意を得る必要がありそうですね。そのためにはユーザー側にもメリットを伝える必要があるので、たとえば情報提供に同意するとポイントが付与され、広告された商品を購入するときに使えたり、バスの運賃が割引される、というのもいいかもしれません。

アフターコロナの時代にモビリティができること

山田:今、新型コロナウイルスの影響で自由に移動ができなくなっていますが、各国の都市でのパンデミックによって、人が集中する都市設計の問題点が浮き彫りになったように思います。コロナ禍を経て、都市とモビリティは転換期に来ているんじゃないかと思うのですが……。

土井:個人的には、都市が変わる前に人々の価値観が変わることに注目しています。都市に人が集中したのはモノや情報、たくさんの人が一堂に会していいるという利便性があってのこと。ところが、新型コロナウイルスのせいで、一極集中していたことがデメリットになってしまいました。

さらにリモートワークが進むことで、人々は遠方から都心部に出ず、仕事や経済活動ができることにも慣れ始めています。週に一度程度しか都心のオフィスには出ないことになれば、新しい働き方、オフィスのあり方、都市の姿が見えてきます。都心に向かうときも、できるだけ密集しないよう、複数の流動的なモビリティの手段のうち最適なものを選択するマルチモーダル・モビリティのニーズが高まる気がしますね。

森:そうですね。でも、僕は都心部に集まることの価値は、まだそれほど変わっていかないんじゃないかとも思っています。これまで自動車中心につくられてきた道路が、これからは歩行者、自転車、スクーターといったマイクロモビリティにも適した優しい環境に変わり、フレキシブルに移動手段を選択できることで、非常時に交通を緩和できるような都市インフラが必要になってくるのではないでしょうか。ハブ・アンド・スポーク(※6)のように、中心地と周辺地域をつないで分散した都市機能の価値も高まるでしょうね。
※6…中心拠点(ハブ)に集約させ、拠点(スポーク)毎に輸送すること。ハブ拠点を設けることで、路線数(車両台数)が削減され、1回あたりの輸送距離が短くなり、輸送時間を削減できる。一方で、中心拠点に障害が発生すると、全ての機能が停止するリスクもある。

土井:先が見えない時代ですが、だからこそ考え続けることが大切かなと思います。そして、こうしたスペキュラティブデザインやSci-Fiアプローチの活用は、力強い議論の推進力になりますね。

制作:丸岡和世(amana digital imaging)

まとめ

先の見通せないVUCAの時代は、既存の社会や枠組みが通用しない、やっかいな問題で溢れています。新型コロナウイルスによるパンデミック、それに紐づくさまざまな問題もその1つです。未曾有の問題に対して、これまでの延長線上にあるありきたりなアイデアは太刀打ちできないことも多くあります。

そこで必要になるのが、突拍子もなく、一見馬鹿げているように見えるアイデアです。今回は、“走るゴミ箱”というアイデアを、ビジュアライズを駆使して議論を深めていきましたが、SFのような極端な未来を思い描いて共有し、ワクワクしながら議論を深めていくこのプロセスが、世の中や未来を大きくジャンプアップさせるきっかけを作っていくのでしょう。

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インタビュー・テキスト/箱田高樹  作図/下出聖子
編集/徳山夏生(amana)

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