前澤友作・前社長の退任、澤田宏太郎社長就任が発表されて約半年が経ちました。社長交代という大きな変化があった中で、社員を団結させるために何をしたのか。社内コミュニケーションを担当する梅澤孝之さんに、当時の背景を踏まえながら、ZOZOのインナー施策について聞きました。
──世間から見ると、昨年9月の創業者退任発表は突然のニュースでしたが、当時社員の皆さんはどんな様子でしたか?
梅澤孝之さん(以下、梅澤。敬称略):2019年9月12日に前社長の前澤が退任を発表しました。実は全社員の大半がニュースで知ったんです。僕らにとって前澤は親みたいな存在だったので、みんな突然の出来事に動揺し言葉が出ない状況でしたね。
──そうだったんですね。前澤さんからは直接社員に向けて、何かメッセージはあったんですか?
梅澤:もちろんです。記者会見終了後に社内に向けて、前澤自身の口から直接、辞めることや自分が今後目指していくこと、社員へのメッセージが伝えられました。
──どのような内容の話だったのでしょうか?
梅澤:“今のまま自分がいては新しいものが逆に生み出されにくくなるし、社員も甘えてしまう。だからこそ今後は一人ひとりがZOZOらしく、今まで培ってきたことを糧に頑張ってほしい”という、ZOZOと社員が次に進むための気持ちがこもった内容でした。
──なるほど。では、その当時から現在に至るまで、社員の意識や社内の雰囲気はどのように変わっていきましたか?
梅澤:これは個人的な感想になってしまうかもしれませんが、ZOZOは、「世界中をカッコよく、世界中に笑顔を。Be unique. Be equal.」という企業理念や「楽しく働く」というZOZO WORKSTYLEを掲げています。
このようなポジティブな考え方が企業文化として浸透していましたし、多くの人たちに利用いただいている基幹事業のZOZOTOWNもあるので、経営層や役職層は数日で前向きに気持ちを切り替え、動いていると感じました。
そんな上層部の姿を見て、社員たちも自分たちにできることは何かを考え、ポジティブに向き合っていた印象です。
──澤田社長からは、社員の気持ちを引っ張り上げるような言葉はありましたか?
梅澤:“一人ひとりがもっとZOZOのことを主体性をもって考えてほしい”というメッセージがありました。それもあって、スイッチを切り替えて前に進んでいる社員が多かったです。
梅澤:前澤が退任した日にZOZOTOWNのサイトには「ゾゾは新時代へ(社員が主役編)」というメッセージをアップしました。これは外部だけでなく社内に向けてのメッセージでもあるんです。今後は自分たちがちゃんとやらなければいけない! という意識を浸透させた面もあると思っています。
というのも、実は前澤が辞任しても退職者はほぼいなかったんです。社員がみんなZOZOの今の課題を把握し、成長するチャンスと捉えて前進しようと考えていたんだと思います。
──ポジティブで逞しい社員が多いんですね。
梅澤:そうですね。みんな会社が好きだからこそ、何事も自分ゴト化して責任感を持っている社員が多い気がします。たとえば新しいサービスがうまくいかなくても、すぐ切り替えて、よりよい方法を模索するといった潔さや臨機応変なスピード感ある対応は、ZOZOの企業文化として根付いているのだと思います。
──澤田さんが社長に就任したことで、具体的に新しく取り入れたインナー施策はありますか?
梅澤:ひとつ大きく変わったのは、“コミュニケーション”をテーマに掲げ、2020年1月から始めた月1回、月初に行う全体朝礼です。千人規模の会社になると、経営層の考えや方向性、課題などを発信する場はなかなか持つのが難しくなります。澤田自らの言葉で、会社への思いや課題を社員に発信する場として始めました。
──逆に変わらず行っていきたいZOZOらしい施策はありますか?
梅澤:違う部署の人との交流を目的とした会「FRIENDSHIP DAY」ですね。
全社員を50人くらいずつに分け、部署の垣根を越えたメンバーで年1回行っています。毎年テーマを掲げていて、2019年はバーベキューでした。
ただバーベキューを楽しむだけではなく、接点のない社員同士がちゃんとコミュニケーションをとって、親交を深められる仕掛けを取り入れています。
──普段接点のない他部署の人と交流できるのは素敵ですね。
梅澤:参加メンバーには事前にメールでインビテーションが届きます。そこには参加者全員の名前も書かれていて、当然知っている人もいれば、知らない人もいる。でも当日、新たなコミュニケーションが生まれ「FRIENDSHIP DAY」をきっかけに仲良くなると、仕事がやりやすくなったり、異動時もスムーズに部署に入っていけるなどメリットが大きいですね。
ZOZOの強みというか文化なんだと思いますが、他部署だったり、自分と意見が違う相手だったとしても、ネガティブなことを言わず、お互い協力しながら仕事を盛り上げる人が多いんです。
これも「FRIENDSHIP DAY」で社員同士の絆を深めているからともいえます。
──社員のコミュニケーションを促すものとして、ほかにどんなものがありますか?
梅澤:毎年12月に全社員が集まる「ZOZOCAMP」があります。これは忘年会みたいなものなんです。こちらも「FRIENDSHIP DAY」と同じく毎年テーマを掲げていて、2019年は社長が代わったこともあり、“ZOZOらしさ”をテーマに開催しました。
梅澤:“ZOZOらしさ”を体現している取り組みや事業をピックアップし、社員のインタビューも入った50分程度の動画を流したり、澤田や役員陣が社員を盛り上げる演出を披露したり……。ZOZOらしさは、会社だけが決めるわけではなく、一人ひとりが創っていくものだと思います。今回の「ZOZOCAMP」では、楽しみながらも“ZOZOらしさ”を体感し、一人ひとりが会社や自分の仕事と向き合ういい機会になったと思いますし、何といっても一体感が生まれましたね。
──イベントのほかに、日常的にコミュニケーションをとる施策は行っていますか?
梅澤:1年ほど前からは非公開のインスタアカウントを使って社内のニュースを発信し、社員同士が気軽に情報共有できる場を作りました。人も部署も多くなってきたので、どこの部署でどんな活躍をしているのかインスタでピックアップすることで、共有とコミュニケーションをはかっています。
──すでにさまざまなインナー施策を行っていますが、今後の課題を踏まえて何か新たな施策を考えていますか?
梅澤:そうですね。まだ進行中なので具体的なことは言えませんが、もっと社員の個性や意志を強くしていきたいですね。
企業理念にある「Be unique.Be equal.」という“みんな違うけどみんな一緒”という点に力を入れていきたい。もっと社員の個性や意志を強くする施策ができるといいですね。
──それは、澤田社長の“一人ひとりが主体性をもって……”というメッセージにも通じますね。
梅澤:はい。澤田が社長になって約半年が経ち、社員の意識の中にも、これからは自分たちでやっていくぞ! という〝個″の意識がどんどん強くなったのを実感しています。そして、そういう人に周りも協力するし、澤田も社員の思いを尊重し、押し上げている。
これからはその“個”から発信された思いを事業にちゃんと落とし込み、企業としても成長できればと思います。
数々のユニークなインナー施策によって、社員同士の信頼関係や結束力を高めてきたZOZO。だからこそ、突然の社長交代という出来事が起きても、団結して前を向いていられたのではないでしょうか。これは企業の大きな強みといえます。社内コミュニケーションに課題を抱えている企業にとって、型にはまらない〝ZOZOらしい″施策は、現状打破のヒントにつながるかもしれません。
インタビュー・文/木林奈緒子