理念浸透をすすめるうえで大切なのは、社員一人ひとりをプロジェクトに巻き込み、心に火をつけていくこと。そんな“発火”の過程で効果的な施策がワークショップです。手を動かすことで、プロジェクトの共犯者をつくりましょう。
社内の理念浸透をすすめるとき、ぜひ取り入れたいのが、社員が参加するワークショップです。手を動かし、一緒に考えることで、傍観者だった社員が“自分ごと”としてプロジェクトを捉えられるようになり、ワークショップのあとに続く施策もスムーズに受け入れてもらうことができるのです。
またもう一つの効果は、社内の曇りを取り払えること。普段、社員同士でビジネスについて話すタイミングはあっても、組織のありようを話す機会は意外と少ないもの。ワークショップを通したコミュニケーションそのものが、組織へのもやもやした思いをクリアにし、デトックス効果を与えてくれます。
一方で、ワークショップは“みんなの意見”を集める場であり、極力出てきた意見を否定しないようにその場を盛り上げるもの。尖った企業戦略やイノベーティブなアイデアは出づらく、提案されたとしても通りにくい、というデメリットもあります。刷新的なアイデアが求められる局面では、少数精鋭チームでリーダーが引っ張っていくスタイルがいいでしょう。
【メンバー選定のコツ】
とくに大企業の場合、全社員をワークショップに参加させるのは難しいもの。選抜メンバーで実施するのが現実的です。ワークショップの「狙い」を明確にしたうえで、適した社員を選びましょう。①経営が順調な企業が、さらに社内を活性化させたい場合
メンバー:若手社員を幅広く②市場環境や産業構造が激変する中、新たな解を見つけ出したい場合
メンバー:理念に共感し、すでに行動に移せている少数精鋭の社員③M&Aや組織再編など、今を生き抜くための大きな決断の補助にしたい
メンバー:マネジメント層・現場リーダー
インナーブランディングのワークショップは、「過去を整理する」「現在を分析する」「未来を想像する」の3パターンに分類することができます。目的を明解にしたうえで、どれが最適か考えてみましょう。会社の状況や目的に合わせ、複数のパターンを組み合わせることも可能です。
①過去を整理する
ブランドイメージや、組織の資産を棚卸し。ポジティブな要素、ネガティブな要素どちらも含め、積み重ねてきた今につながる歴史を整理して、可視化します。
②現在を分析する
「自社の強みと弱みは何か?」「市場におけるポジションはどこか?」など、「自分たちのリアルな姿」を冷静に見極めるワークショップ。社員によって考えていることが異なっている場合もあり、認識の違いも含めて現状を把握することができます。
③未来を想像する
自社のビジネスモデルやサービスから、産業や国、地球環境にいたるまで、さまざまなレベルで「未来はどうなるか」「未来をどうしたいか」を考えます。
ワークショップの形は、目的や参加者の属性によってさまざまありますが、今回は、企業の課題を棚卸しながら、未来像を導き出すためのワークショップを紹介します。デザインシンキングをベースにして開発した「ビジョンシンキングワークショップ」は、短時間でできるワークショップです。
①共有
二人一組になって、現在の会社のいいところ、悪いところ、業界の未来像についてお互いの考えをヒアリング。いいところはピンクの付箋、悪いところはブルーの付箋、業界の未来像はイエローの付箋に書き出します。このとき、聞き手は自分の意見を挟んだり批評することなく、相手の話をしっかりと聞き出しましょう。
②棚卸し
6名程でグループをつくり、付箋に書き出した内容を過去・現在・未来の時間軸に沿って因果関係を整理。時系列を書いた紙を用意し、原因を下半分、結果を上半分に張り出していきます。このとき、因果関係で不足している部分は付箋を付け足していきます。
③未来創造
会社の状況が見渡せたところで、さらに未来においてどうすべきか、グループ内でアイデアを追加していきます。新たにグリーンの付箋に書き足し、紙に貼っていきましょう。このときのポイントは、出てきた意見に対して否定せず、盛り上げながら数を出していくことです。
④試作
これまで出てきたアイデアをふまえ、グループごとに会社の未来像をスケッチするか、キャッチコピーを考え一言で表現します。スケッチの場合、絵の上手い下手は関係ありません。なるべく短い時間で作りましょう。アイデアが伝わるレベルのクオリティで構いません。
⑤発表
チームで考えた未来像を発表し、お互いの意見を交換します。スケッチやテキストベースでの発表の他に、CMを作るように脚本と寸劇を交えて発表する方法も。アイデアの本質をよりわかりやすく伝えられるやり方を採用します。
【変革期の企業は業界環境分析やソリューションの洗い出しを】
ビジネスモデルが明確になっておらず、社内の認識がバラバラでどこに向かえばいいかわからない状態にある企業は、未来よりも現実を見つめるプロセスが必要になります。
たとえば会社の強み・弱みを棚卸しし、5フォース分析(※)を使って会社を取り巻く業界環境の変化を分析、自社のソリューションを洗い出して評価。そのうえで、ビジネスキャンバスなどのフレームワークを活用しながら、今後のビジネスモデルを新たに定義していくというアプローチです。
※…ハーバードビジネススクール教授のマイケル・E・ポーターが考案した、事業環境の分析を行うためのフレームワーク。「新規参入者の脅威」、「売り手(サプライヤー)の交渉力」、「買い手(顧客)の交渉力」、「代替品や代替サービスの脅威」、「既存企業同士の競争(競争業者)」の5つの要因(=5フォース)の分析を行う。
ワークショップは、インナーブランディングをドライブさせていく強力なツール。ワークショップには、参加社員がプロジェクトを“自分ごと”として捉えられるようになったり、社員同士のコミュニケーションが行われることで、社内の曇りを取り払える他に、上層部に対して社員の意見をオープンに伝ることができる「公の目安箱」としての機能もあります。
また、最も重要なのは目的を明確にしたうえで、プロジェクトを設計すること。ワークショップを実施せずに、インナーブランディングを進めるケースもあります。企業が抱える課題を見極め、最適な形を考えましょう。
インタビュー・文/箱田高樹 デザイン/下出聖子(amana design studios)イラスト/諸橋南帆(amana)
メンバープロフィール
株式会社アマナ ブランド戦略室 ブランドストラテジーディレクター
マネジメントコンサルを経て、ブランドコンサルティングに従事して20年以上。企業CI、事業ブランド化、サービス開発、店舗ブランド開発など多様なブランディングを経験。戦略的クリエイティブで企業の進化や変革の支援を目指す。
メンバープロフィール
株式会社アマナ クリエイティブディレクター
グラフィックデザイナー、Webディレクター、インタラクティブプランナーを経て、現職。企業のインナーからアウターブランディングを中心に、デジタルプロモーション、イベント開発や店舗制作などコンテンツ制作を通して、多角的なブランド開発を行う。