今、最も多くのユーザーが使う動画プラットフォーム、YouTube。月間平均利用者数6276万人(※1)と圧倒的なシェアを誇り、活用する企業も増えています。そんな王道プラットフォームにて企業が動画を活用する際の“勝ち筋”とは? 電通デジタル プラットフォーム部門でメディアプランナーを務める荻原萌さんに伺いました。
※1…ニールセン「Tops of 2018: Digital in Japan」より。
——荻原さんは企業向けにWeb領域の広告プランニングなどを手がけています。やはりいま、企業はPRツールとしてYouTubeに関心を持っているのでしょうか?
荻原萌さん(以下・荻原。敬称略):そうですね。私の部署に入ってくる案件相談の多くに「YouTubeの広告プラニング」が織り込まれています。そもそも動画プロモーションに関心が高い企業が多いうえ、YouTube自体プラットフォームとしての魅力が際立っていますからね。
——あらためてYouTubeの魅力、強みとは?
荻原:大きくは3つあって、まずは圧倒的なユーザー数です。外部のデータになりますが、国内の平均月間利用者数はヤフー、Google に続く3位で、6276万人。また総務省の調査(※2)でも、「主なソーシャルメディア系サービス/アプリの利用率」が、1位のLINE(82.3%)に迫る2位でした。
もはや「インフラ」と呼べるほど、世代を問わず、日常に最も馴染んでいる動画プラットフォームになっていると思います。訪問者数が多ければ、それだけリーチ数も増えますし、認知を高めたい企業にとって、ユーザー数は大きな魅力です。
※2…総務省情報通信政策研究所「平成30年度情報通信メディアの利用時間と情報行動に関する調査報告書」より。
——2つ目は?
荻原:広告フォーマットが多彩なことです。圧倒的なユーザー数と動画数に支えられたYouTubeは広告フォーマットが幾層にも用意されています。「商品・サービスの認知獲得が狙い」なのか、「企業のブランディングを強めたい」のか。各企業の広告出稿目的に応じたマーケティングファネルに沿って、最適なフォーマットが数多く揃っています。ファネルによって使い分けができることは、メガプラットフォームならではの強みだと感じています。
——3つ目の魅力はなんでしょう?
荻原:最後はターゲティング精度の高さです。そもそもTVCMはPDCAを回しにくかったのですが、ネット動画が登場し、シグナル要素が増えたことで様変わりしました。かつては視聴率や視聴単価くらいしか指標がなかったものが、認知度や商品理解、TVCMとYouTube合わせてどれくらいリーチがとれたか、まで見えるようになりました。
——ただ、他の動画プラットフォームもそうしたデータがとれるのは変わりませんよね?
荻原:はい。しかし、ここで大きな差別化要因となるのが、先にあげた「圧倒的なユーザー数」と「多彩な広告フォーマット」です。多彩な広告フォーマットとターゲティングで、あらゆる業種、業態の企業が、日々動画を活用している。「どのユーザーがいつ何を求めているか」「どの業界がどんな動画の効果が高いか」「認知度を高めるにはどんな動画が最適か」といった精緻なデータが日々、積み上がっています。
——こうしたデータのボリュームがPDCAの素地となり、ターゲティングの精度を高めているわけですね。
荻原:加えて、優れたエンジニアによって築かれるGoogle の技術力も、この精度を支える大きな力です。いくらデータが膨大にあっても、それをうまく使えなければ意味がありません。YouTubeの場合は、AIやデータサイエンスといったテクノロジー面の強さも、ターゲティングの精度を上げる要素の1つだと考えています。
——だからこそ、あらゆる企業がYouTubeの動画広告を活用しているのですね。
荻原:そうですね。どのような業種、どのような規模の企業であっても、うまく活用すればYouTube広告の効果を引き出すことができます。大切なのは、「何を狙って動画広告を出すのか」「ユーザーにどんな行動変容を求めるのか」といった目的の部分。精緻なターゲティングができるからこそ、目的がぼんやりしていると、あまりにもったいないんです。
——インストリーム広告(動画コンテンツの中に挿入される動画広告)が主であるYouTubeの動画広告は、5秒後に表示されるスキップボタンを押されてしまい、見られないリスクもありますよね?
荻原:そうですね。ですが、ここでもデータ解析によるターゲティング精度を上げる仕組みが生きています。広告でもオーガニックでも、ユーザーごとに好む動画の傾向にある、というデータがとれていれば、アルゴリズムによって個人個人にマッチした動画広告を配信することができます。
このようにパーソナライズが進んでいる一方、既存のテレビCMのようなオールターゲティングな動画を大量に配信する、といった手法はYouTubeには適していません。ユーザー属性も細かにターゲティングできるので、同じ製品やサービスの動画であっても、ターゲットとフォーマットに合わせてクリエイティブのバリエーションを用意し、適したユーザーに適したタイミングで流すことが増えています。
——他にYouTubeの動画広告の活用として効果が現れやすいものはありますか?
荻原:ストーリーを組み立てたい場合、「動画広告シーケンス」の機能を使った広告は効果が出やすいと思います。動画をいくつか用意しておき、ユーザーの広告に対するアクションによって、次の機会に流れる動画が変わるというものです。 シーケンス(順番)が変わることで、ユーザーが最適化された動画に導かれ、見る人によってストーリーが変わっていく。ユーザーの興味を喚起することができ、スキップ率を低くすることに寄与できるのではないかと思います。
——「AR(拡張現実)」を利用した動画広告フォーマットもありますね。
荻原:たとえばリップスティックの広告動画では、スマホのインカメラで自分を映して画面上で色を選択すると、その色のリップを試せる、といった機能が実装されています。体験型の広告はじわじわと伸びていて、今後も増えるのではないかと思います。こうしたテクノロジーを活用した機能の完成度の高さも、Google が運用するYouTubeらしさだと思います。
――海外では企業のオーガニック動画が盛んですが、国内ではどうでしょう?
荻原:問い合わせは着実に増えていますね。動画広告に比肩するくらい、オーガニック動画はエンゲージメントが高いんです。ただ、アメリカなどに比べると、オーガニック動画の活用をうまく進められていない企業も少なくないので、これからのジャンルではあります。
裏を返すと伸び代があるということです。YouTubeはPDCAを回しやすいので、早くから企業アカウントを作り、オーガニック動画に挑戦していく価値は高いと思います。
――ただ、オーガニック動画はアップし、運用し続けていくことに対する難しさもありますよね。時間もコストも人も、かなり割かなければなりません。
荻原:チャンネルを育てるには数年単位かかることもザラにあるので、コストと人員について甘く見てはいけないでしょう。ユーザーとの距離の取り方もふくめて課題は多いです。ですが、これからデジタルネイティブの若い世代が、動画担当者として企業で活躍するようになっていくと、運用もユーザーとの距離感の測り方も、今よりずっと磨かれていくと個人的には思っています。
ただ、YouTubeのオーガニック動画だけ磨いていればOKという時代ではないので、もっと広い視点で捉える必要もあります。
——どういうことでしょう?
荻原:動画広告とオーガニック動画の連携はもちろん、他のSNSアカウントなどとも連携させて、ユーザーへ価値を提供できるかが重要になってくると思います。
各プラットフォームで精緻なデータがとれるようになっている一方、ユーザーの多様化も進んでいます。パーソナライズした最適な情報を提供できる環境になればなるほど、本当の意味でユーザーに合った動画や情報を出していかなければなりません。そうでなければ、時間を削ってまで企業が発信する動画を見てくれないからです。
YouTube動画は、企業のブランディングを最大化するための1ツールとして、これからますます存在感を増していくはず。企業には、今後ますます日々アップデートされていくプラットフォームの特性をつかみ、ユーザーに寄り添った情報を提供していくことが求められていくのではないでしょうか。
今や「インフラ」と言っても過言ではないYouTube。日々大量の企業動画が流れ込むと同時に、大量の「観られるためのノウハウ」も蓄積されています。パーソナライズが進むマーケティングの世界で、今後ますます強力なツールとして力を発揮していくでしょうし、それだけに企業は「ただ動画をアップすればいい」というスタンスでは立ち行かなくなるでしょう。
他のさまざまなチャネルと組み合わせながら、1ツールとして、いかに巧みにこのプラットフォーム活用していけるかが、今後の企業のPR、マーケティングの明暗を分けていきそうです。
インタビュー・文/箱田高樹 デザイン/下出聖子(amana design studios)
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