インナーブランディングの意義を理解する人は多いはず。しかし「それをどう実践するか」まで見えている人は少ないのでは? そこでインナーブランディングの進め方を「理念浸透」を例に6回に渡って伝授。初回は「インナーブランディング王道・5つのステップ」を紹介。まずは流れをつかみましょう。
会社が進むべき方向を「企業理念」として掲げ、社員がそれぞれの持ち場で、自然と最適な決断と行動ができるようになる——。変化が激しい今の時代に、こうした自律的でフレキシブルな組織をつくれることが、インナーブランディングのメリットです。
カギは「理念浸透」。なぜなら、いくら優れた企業理念があっても、社員一人ひとりが理解し、共感して行動できていなければ、理念として機能しないからです。では、社員の心に理念を染み渡らせるにはどうすればいいでしょう? 以下の5つのステップに沿って、社員の心の内側から内発的動機を丁寧に育てながら、企業理念をドライブさせていく手順をお伝えします。
●ステップ1:【発見】課題発見と解決プログラム開発
「どうも体調が優れない」。だからといって、いきなり手術する人なんて、いませんよね? 誤った処置はむしろ傷口を広げます。インナーブランディングも同じ。まずはどこに病があるのか、問診が必要です。理念が浸透しない理由を見つけ、効果的でムダのない治療計画を立てましょう。
具体的には、従業員アンケート・過去資料のチェック・関係者への課題インタビューを実施します。現状をあぶり出して、理念浸透におけるボトルネックとティッピングポイントを探るのです。中でも重要なのは従業員アンケート。なぜなら、現場の些細な声の中にくすぶる火種が必ずあり、理念が浸透していない問題点につながっているからです。またアンケートは、トップダウンではなく「社員の声をしっかり引き上げる」という宣言にもなります。社員の“自分ごと”を生み出す効果もあるのです。
●ステップ2:【発火】社員巻き込みプログラム始動
次は、社員一人ひとりの心に火をつけはじめるフェーズです。ステップ1で課題を見つけ、解決のためのプログラムを発足したら、社内報や社内SNSなどを駆使して社内へオープンに伝えましょう。また、告知ポスターやティザームービーを作り、ビジュアル面で五感を刺激することで、社内にプロジェクトの“本気度”を行き渡らせるのも効果的です。
もっとも、このステップで最も大事なのはアンバサダー認定でしょう。社内にプログラムを伝播させるには、周りの人に影響を与え、牽引していくような社内のインフルエンサー的存在が不可欠です。社内公募や指名によってアンバサダーを集め、理念浸透を図るための具体的な施策のアイデアを募るのもいいでしょう。こうして一部の社員から巻き込み始め、うねりをじわじわと大きくしていきます。
●ステップ3:【発炎】全社へ展開し、活性化を促進
アンバサダーを中心に灯された火を、社内に広がる大きな炎にしていくのがステップ3。このフェーズでは、全社員に行動を促すことがポイントです。
脳科学では、視覚など一方通行の情報伝達より、双方向の「行動」を伴ったほうが情報がリッチになり、定着率も価値も高まると言われます。他人が組み上げたジグソーパズルなら簡単に崩せるのに、ひとつでも自分でピースをはめたパズルとなると、愛着がわき、「崩したくない!」と感じるのはそのためです。
たとえば社内イベントを開催し、アンバサダーたちが理念浸透のための施策についてのプレゼン大会を開く。そして全社員がそれに投票してもらうことで、社員の「行動」を促します。施策を公募し、授賞式をするのもいいでしょう。いずれにしても参加者をいい意味で共犯者にすることで“自分ごと”として意識してもらい、取り組みに対する社内の温度を高めましょう。
●ステップ4:【定着化】日常業務への盛り込み・運営体制構築
ステップ3でイベントが成功し、社員がボトムアップで施策を提案できたとしても、実現され、継続的な取り組みにならなければ、せっかくのアイデアも絵に描いた餅に終わってしまいます。
取り組みを定着させるためには、続けやすくなる「仕組み」を作りましょう。プロジェクトを運用するための専門部署を作ったり、会社にとって意義ある取り組みだと社内へ啓蒙し、参加者のモチベーションを保つために、人事と紐付けた評価システムを設置するのも1つの方法です。その間、社内メディアを通しての発信や、ポスターなどでのアナウンスも続け、インナーブランディングプロジェクトを企業文化として定着させていく。それこそが理念浸透なのです。
●ステップ5:【改善】効果測定・改善アクションの実施
走ることは簡単でも、走り“続ける”ことは難しいもの。社内のモチベーションを上げ、継続的に取り組めるよう、プロジェクト内容は定期的にアップデートしましょう。
そのために欠かせないのが効果測定。たとえばステップ1の課題発見のアンケート調査で、「理念への共感度は高いが、どう行動に移せばいいかが見えていない」社員が多かった場合、「行動に移せたかどうか」をKPIに設定。プロジェクト始動から1年後、同じ質問をしてスコアの変化を可視化します。もし効果がなければ改善案を練り、効果があれば同じ方向性でブラッシュアップを図る。組織体制やメンバーの変更も、プロジェクトに新鮮味を与えてくれます。
インナーブラィングにおける「理念浸透」の5ステップ、全体像をお伝えしました。
全体を通して大切なのは、社員一人ひとりに理念浸透の施策を“自分ごと”にしてもらうこと。内発的動機から生まれる自主的な行動は強い力を持っています。全社アンケートやイベント、投票などは、“自分ごと”を生むための演出とも言うことができます。プロジェクトの“自分ごと化”が、理念を“自分ごと”として捉えることにつながるのです。次回以降は、ひとつずつのステップを詳しく紐解いていきます。
インタビュー・文/箱田高樹 デザイン/下出聖子(amana design studios)イラスト/諸橋南帆(amana)
メンバープロフィール
株式会社アマナ ブランド戦略室 ブランドストラテジーディレクター
マネジメントコンサルを経て、ブランドコンサルティングに従事して20年以上。企業CI、事業ブランド化、サービス開発、店舗ブランド開発など多様なブランディングを経験。戦略的クリエイティブで企業の進化や変革の支援を目指す。
メンバープロフィール
株式会社アマナ ブランドディレクター
グラフィックデザイナー、Webディレクター、インタラクティブプランナーを経て、現職。企業のインナーからアウターブランディングを中心に、デジタルプロモーション、イベント開発や店舗制作などコンテンツ制作を通して、多角的なブランド開発を行う。