鮮度の高い情報を高頻度で社員に届けることができる社内Webメディア(Web社内報)。その運用や広め方には、紙の社内報とは異なるアプローチがあるようです。今回は運用のための組織づくりから制作側のモチベーション維持のコツまでを、株式会社アマナで社内Webメディアの運用に携わるプロデューサーの乗松裕介が解説します。
——社内Webメディアを始めるにあたりまずやるべきことは何でしょうか。
乗松:まずは運用するための組織を作ることです。ただ、専門の編集部を作るのはハードルが高く、多くの企業は、通常業務と兼務で行なっているところが多いですね。組織としては、広報部や社長直下の経営企画の部署が編集部の役割を行ったり、各部署から自薦や他薦で有志を集めて、30人規模の大きな組織体にするなどさまざまです。
制作については、多くの企業が紙で社内報を作ってきているので、Webと紙という違いはあっても制作のスキームがあります。ですから、どの企業もすんなりと社内Webメディアを取り入れて運用できています。
——一般的なメディアには編集長がいますが、社内Webメディアでも編集長は必要でしょうか?
乗松:運営組織の大小に関わらず、編集長は置くべきと考えます。そもそも、編集長の役割は、メディアのトンマナを揃え、編集部員をまとめていくこと。
各編集担当が好きなテーマで自由に書いてしまうと、伝えたいメッセージにばらつきが生じ、統一感のない曖昧な記事が発信される危険性があります。
そこを編集長がきちんと見て、コントロールすることで、メディアとして社員に何を伝えるべきなのか、世界観を明確にしていくのです。
また、編集長は誰が行うべきかという質問をいただくことも多いですが、一般的には、社内Webメディアや編集部員を取りまとめる所轄の広報部の担当者が編集長を担う場合が多いですね。
——そうなんですね。先ほど編集部員は兼務で担当するということですが、ずっと担当し続けるのでしょうか?
乗松:編集部員の任期についてですね。特定の社員にずっと兼務をさせるというのは負担が大きいため、多くは半年〜1年の任期で、少しずつ入れ替えている企業がほとんどです。
ただ、大変なことばかりでもないんです。社内Webメディアを兼務することで、企画や文章の才能、写真撮影のスキルアップなどその人の隠れた能力が開花したり、育つこともあります。
——なるほど。思わぬ副産物もあるということですね。
——組織作りができたら、次は何をしたらいいのでしょうか?
乗松:組織作りの次にやるべきことは、メディアのコンセプト決めです。なぜ社内Webメディアを立ち上げたのか、その“思い”をメディア名として言語化し、ロゴとしてビジュアル化していくことが大切です。
そうすることで、社員にもメディアとして認識され、愛着を持ってもらえます。特にロゴを作ることは、メディアとして“きちんとしている”というアピールにもなるので、しっかり作った方がいいですね。自社で作る場合もありますが、プラットフォームを提供している会社に相談して、ロゴを作ってもらうという方法もあります。
——ロゴなどビジュアルには、見た目以上に意味があるということですね。ではその次のステップは何でしょうか?
乗松:次は配信する記事のバランスを考えます。社内Webメディアの場合、ターゲットは社員です。内容は社内のトピックスがメインになりますが、経営方針やナレッジ共有と言った仕事に関わる堅めの記事と、社員の人柄や仕事では見られない面を取材した記事などと、その記事のバランスには気を配る必要があります。どちらかに偏ってしまうと、社内メディアとして、社員に役に立つという基本的な意義を果たせなくなってしまいますから。
——そのバランスはどのように決めたらいいのでしょうか?
乗松:事前にラインナップを決めていきます。立ち上げ当初は、気軽に読める人がテーマの内容を配信して社員に興味を持ってもらい、次第に仕事に関わる記事を出して、役に立つ記事も配信するメディアだと社員に認識してもらうというのが、長期的に愛用されるコツです。
また、社内ウェブメディアはプラットフォームを導入することで、各記事のアクセス数を測定することができます。収集したデータを活用して、人気の記事を分析したり、読んで欲しい記事のバランスを調整することも可能です。
——では、実際にWebメディアを運用していく上でのポイントはありますか?
乗松:まずは一週間の記事配信の頻度を決めます。記事は、定期的に配信していくことが大切です。特に、連載記事については、配信する曜日を決めておくと「◯曜日は、この連載の日」とイメージ付けができ、社員が定期的にサイトを訪れるきっかけにもなります。そして、定期的な記事配信のためには、スケジュール管理が重要です。編集会議も月1で行うなど、本来の業務に支障のない仕組みを作っていくといいでしょう。
——配信する曜日や本数を決めるだけで、社員みんなに習慣的に読んでもらえるようになるのでしょうか?
乗松:もちろん曜日、本数を決めて記事を配信するだけでは習慣化は難しいです。多くの社員に見てもらうためには、“いろんな社員に記事に登場してもらい、記事を書いてもらう”など社員を巻き込むことが必須です。
事実、導入した企業では、社員が登場する記事が人気です。やはり、一緒に働く人のことは気になるんですよね。習慣的に読んでもらうには社員が登場する連載を設けるのが一番。編集部も、社員の仕事以外の新たな一面を引き出せるような記事を出せるといいですね。
——その他に広める手段はありますか?
乗松:全社員にメールマガジンを定期的に配信するのは効果があります。
また、製造・店舗など拠点が分れていたり、業務上、PCを支給する必要がない社員もいます。その場合、社員が集まる食堂やエレベーターホールなどに、デジタルサイネージを設置し、記事を見てもらうことも可能です。
デジタルサイネージについては、全ての記事を掲載するの難しいのですが、社員へ気づきを与えるきっかけとしては有効です。また、オンラインだけでなく、イベントを行い社員を巻き込んでいくのもいいと思います。
——社内Webメディアは兼務ですと担当の人は記事作成に時間を取られるなど大変だと思うのですが。作り手側のモチベーションを保つにはどうしたらいいでしょうか?
乗松:作り手のモチベーションは、メディアの質にも関わるので大事にしたいですね。ポイントは、メディアを運営している人たちを“会社として認めていく”こと。
よくインセンティブを出した方がいいかと聞かれるのですが、お金で認めることはやめた方がいいです。お金が目的になってしまうと、金額が上がらなければモチベーションが上がらないということに陥る可能性もあります。
社内Webメディアなので、会社のためになっている、社員の役に立っているなど、お金ではないところに編集担当が価値を求めるといいメディアになると思いますし、会社側もお金ではない評価の仕組みを作る必要があります。
——お金ではない評価とは、具体的にはどういうことでしょうか?
乗松:たとえば、年間のアクセス数などを基準に人気の記事を発信した人を評価したり、記事制作本数が多い人を表彰するなどの方法があります。
表彰する場合も、賞金ではなく、企業文化を反映したものを賞品を用意したり、イベント化すると社内コミュニケーションとしても盛り上がります。
実際、とある企業では、制作記事本数が多かった一位の人への賞品が、1つ数万円もするメジャーだったんです。メジャーって僕らからしたら、なんで必要なんだろうと思うのですが、その企業にとっては、高級メジャーは、すごく価値があるものだった。
そういった、企業文化や企業らしさが感じられるユニークな賞品アイデアは、会社公認のメディアならではですし、会社のために意義のあることをやっているという誇りにも繋がるのではないでしょうか。
編集担当にとっては楽しく作りながら会社のためになる情報を提供し、読み手の社員にとっては、その情報が自分の仕事に役立ち、社員同士が繋がるきっかけが得られる。
こうした両者のいい関係をWebメディアを通じて作ることで、社員の意識向上につながる実感を得られると思います。
社内Webメディアの運用は、“難しそう”と構えがちですが、組織づくりやコンセプト設定には紙の社内報で培われたノウハウが踏襲できます。とはいえ、ビジュアルの使い方や社内への浸透方法にはデジタルメディアならではの手法が必要。また更新頻度が高いため、作り手のモチベーションをどう維持するかも課題のひとつと言えます。
テキスト/小川尚子
デザイン/下出聖子(amana design studios)
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